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第8話 幼馴染と遊んでいる最中に・・・②

「どういうことかな? 君はしおりと付き合ってるんじゃなかったの?」


 その言葉が空気を一変させた。

 リセが驚いた顔で俺を見つめる。


「……どういうこと?」


 水原は白野の対応に困っていて、わざわざ大金払って俺を彼氏役にした。ここで俺が本当のことを話したら、水の泡になる。どう答えたものか言い淀んでいると、白野が目を眇めながら続けた。


「昨日はしおりとデートして、今度は他の女とデート? いいご身分だね」


「昨日? なんでアンタが昨日のこと知ってんだ?」


「キミとしおりの関係がきな臭いと思ったからね。昨日のデートの様子を見させてもらったんだよ」


「ストーカーしたってことか?」


「そう言わないでよ。しおりから提案してきたんだ。『あたしと彼の関係疑うなら、明日のデートの様子見てください』ってね」


 なるほど、だから昨日、水原は俺をまた雇って放課後デートを実行したのか。


 リセの視線が鋭くなる。


「ヒロ、ちゃんと説明して」


 俺はリセの視線に射抜かれ、思わず唾を飲み込んだ。

 一呼吸置いてから、あくまで淡々と切り返した。


「単純な話だ。俺は水原と付き合ってる。そして今日は幼馴染のこいつと遊びに来た。それだけだ」


「へえ、堂々と浮気宣言か。強気だね」


「幼馴染だって言っただろ。俺が付き合ってるのは水原だけだ」


 白野の眉がピクリと動き、嘲笑を浮かべた。


「幼馴染ね。それでカフェで二人っきりか。水原が知ったらどう思うかな?」


「どうも思わねえだろうな。別に浮気してるわけじゃない」


 白野は口を開きかけたが、リセが手を挙げて静止した。


「ま、待って。ヒロ、本当に水原先輩と付き合ってるの?」


 リセの声は冷静だったが、その瞳には強い意志が宿っていた。

 俺は一瞬躊躇したが、結局、嘘を続ける以外に道はない。


「ああ。水原とは付き合ってる。言ってなくて悪かったな」


「そうなんだ……でも、私とヒロが一緒にいること、水原先輩は本当に気にしないの?」


「俺たちはただの幼馴染だからな。それ以上に見えるほうがおかしいだろ」


 白野が鼻で笑う。


「ふーん。まあ、どうでもいいけど。ただ、あんまり都合のいいことばっかりやってると、いつか足元をすくわれるよ」


 そう言い残して白野は立ち去った。


 リセと二人きりになったカフェの席で、妙な静けさが立ち込めた。

 リセがじっと俺を見つめる。


「ヒロ、さっきの話、本当なの?」


 リセの声は穏やかだったが、その瞳には疑念が見え隠れしている。


「ああ、まぁな。水原とはなんつーか、一応付き合ってる」


 リセは少し目を伏せ、スプーンで頼んだケーキをそっとつついた。


「……そう。でも、なんでだろう。ヒロ、嘘ついてるみたい。ううん、そう思いたいだけかも」


 リセが顔を上げ、まっすぐ俺を見つめる。


「ヒロ。もし私が、ヒロにとって幼馴染以上の存在になりたいって言ったら、どうする?」


 思わぬ言葉に、俺の心臓がピクッと跳ねた。


「リセ……?」


 彼女は苦笑しながら、少しだけ肩をすくめた。


「冗談。気にしないで」


 そう言いながらも、リセの笑顔にはどこか影が差しているように見えた。


「あ、あのさ……」


「ごめん、急用思い出したから帰る。今日はありがと」


 リセはスプーンを置くと、足早に店を出ていった。


 俺はテーブルに残された彼女のカップを見つめながら、自分の胸の奥でざわつく感情に気づいていた。


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