土曜日。リセと映画に行く日がやってきた。
天気は快晴、待ち合わせ場所の駅前には既にリセの姿があった。
「おはよう、ヒロ」
「悪い、待ったか?」
「ううん、今来たとこ」
リセは微笑を湛えながら、俺の腕を軽く引っ張る。
俺たちは予定通り映画館に向かった。映画館に到着し、リセがチケット売り場で上映スケジュールを確認する。
「これ観よ」
リセが指さしたポスターを見て、俺の胸がざわついた。
奇しくも昨日、水原と一緒に観た映画だったからだ。
「……この映画?」
「うん。評判いいって聞いたから」
リセの顔を見て、昨日、水原と観たことを正直に話すべきか迷った。
「ヒロ?」
「いや、なんでもない。じゃあこれ観るか」
俺は努めて平静を装いながら言った。
映画が始まる。既に一度観たストーリーがスクリーンに映し出される中、俺は横目でリセの反応を窺う。
リセは時折驚いたり、笑ったりしながら映画を楽しんでいるようだった。だが、俺の心は落ち着かない。
(この展開、もう知ってるな……)
胸の奥に違和感が広がる。リセと共有すべき初めての時間が、実はもう水原と過ごしたものだという事実に、妙な罪悪感を覚える。
そして物語がクライマックスを迎えたとき、リセがぽつりと呟いた。
「なんかヒロ、この結末知ってたみたいな顔してる……」
俺は思わず息を呑む。
「……そんなことないだろ」
「ほんとに?」
「てか映画中で喋るなよ」
「ん」
リセはいたずらっぽく俺を見つめた。
映画が終わり、劇場を出るとリセが言った。
「楽しかった。でもヒロ、なんか様子が変だった」
俺は観念して素直に白状することにした。
「悪い。実は……この映画、水原と先に観てたんだ」
リセの表情が一瞬だけ曇る。だがすぐにいつもの表情に戻って。
「どうして観る前に言ってくれなかったの?」
「リセが楽しみにしてたから……言いだしにくくて」
「言ってくれれば別の映画でもよかったのに」
その言葉に、俺は胸を締め付けられるような思いがした。リセの優しさと、自分の中途半端さが際立って嫌悪感に苛まれた。ったく、何してんだかな俺。
映画館を出た俺たちは、近くのカフェに向かった。
リセが「あそこのケーキが美味しいみたいだから」と言うので、俺は素直に彼女の提案に乗った。
カフェは休日らしく混んでいたが、窓際の席が空いていてすぐに案内された。
メニューを開き、ケーキとドリンクを頼む。と、ふと入り口の方で見覚えのある顔が目に入った。
(あれは……)
俺が視線を止めた相手は、水原の元彼だった。確か名前は、白野晴人だったか。
気づかれないことを祈ったが、彼は俺に気づき、驚いた顔で近づいてくる。
「お前……!」
俺は内心、焦りを覚えながら平静を装う。
「久しぶりだな」
リセが不思議そうに俺と白野を交互に見つめる。
「ヒロ、この人は?」
「まぁ、ちょっと……」と誤魔化そうとしたが、白野は俺の言葉を遮った。
「どういうことかな? 君はしおりと付き合ってるんじゃなかったの?」
その言葉が空気を一変させた。