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第6話 プチ修羅場


 次の日。


 教室に入ると、リセが明るい声で話しかけてきた。


「ヒロ。明日の映画のことだけど──」


 俺は適当に相槌を打ちながらも、窓の外へと視線を送る。

 昨日の水原との一件がいまだに頭を離れていなかった。


「ねぇ、ヒロ、聞いてる?」


 リセが不満そうに眉を寄せる。俺は慌てて視線を戻した。


「あぁ、聞いてる。えっと、映画館だろ?」


「適当すぎ。ちゃんと聞いて」


 リセは呆れた様子だったが、深く追及してくることはなかった。

 ホッとしたのも束の間、後ろから声が飛んできた。


「おっはよう、川崎くん」


 振り返ると、そこには水原が立っていた。昨日と同じ無邪気な笑顔だが、視線には何か意図が含まれているように感じた。


「……どーも」


「あ、幼馴染ちゃんも一緒なんだね」


 リセは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を引き締めて返事をする。


「あの、ヒロに何の用ですか?」


「ん? うん、まぁ昨日のことでちょっとねぇ」


「ちょっとって何ですか」


「ちょっとはちょっとだよ」


 微妙にギクシャクしたやりとりを横目に、俺は居た堪れない気持ちに苛まれる。


 と、リセの目がじっと俺を見つめてきた。


「ヒロ、昨日……水原先輩と何してたの?」


 その問いに、俺は返答に詰まる。正直に話すべきか、誤魔化すべきか──。


 と、水原が横から口を挟んだ。


「そんな探らなくても、ただのデートだよ。ね、川崎くん?」


「デ、デート……?」


 リセが勢いよく声を上げる。

 教室中の視線がこちらに集まり、俺はさらに追い詰められた気分だった。


「ヒロ、どういうことか説明して」


「どうって、なんつうか──」


「あーっと、ごめんね。ちょっと一旦、川崎くん貸して」


「待って、まだヒロに話が‥……」


 俺が弁解しようとしたそのとき、突然グイッと水原に腕を引っ張られ廊下に連れ出された。壁ドンするような形で、水原が迫ってくる。


「ねえ、川崎くん。一つ言い忘れてたことがあるんだけど、あたしがお金払って、川崎くんを彼氏にしてたことは内緒にしておいてほしいの。相手が幼馴染であろうと言っちゃダメだから」


「はぁ、まぁそれは構わないけど」


 俺はため息混じりに答えた。

 水原は悪びれる様子もなく、むしろいたずらっぽく笑みを浮かべる。


「ん。あんがと。じゃあまたね。それが伝えたかっただけだから」


 水原はそう言って、軽やかに廊下を去っていった。その背中を見送りながら、俺はガシガシと後頭部を掻いた。


 教室に戻ると、リセが心配そうな顔で待っていた。


「ヒロ、水原先輩と何を話してたの?」


「あー……大したことじゃねえよ。ちょっとした相談、みたいなもんだ」


「相談?」


 リセは目を細めて俺を見つめてくる。その視線に耐えきれず、俺は椅子に座りながら目をそらした。


「まぁ、なんかちょっと複雑な事情があるっぽいんだよ。詳しくは言えないけど」


「ふーん……」


 納得していない様子のリセだったが、それ以上追及することはなかった。ただ、席に着いた後も彼女の視線がたびたび俺に向けられているのを感じた。

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