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Short Story 1


食というものが成り立つには、そこまでの過程が重要なものとなる。

例えば、良い食材を使った所で活かしきれない調理をしてしまえば、出来上がるのは下の下の料理となってしまう。いくら悪食家と言えど、わざわざ良い食材をそんな風に使って作られたものは口にしたくない。


では、その過程にはどんな工程があるだろうか?

今挙げた調理も立派な工程の1つだ。

しかしながら、私はそれよりも前……食材を調達する所も大事だと考える。

だからこそ、


「【解体】、ほしいねぇ……」

「まぁまぁ……一応私に生えたので十分といえば十分かと……」

「それはそうなんだけどね。でもいつもクリスちゃんの手を煩わせるのもアレな話だからさ」


【解体】。

狩猟ツリー関係のスキルであり、私が発現させられていないスキルであり、このゲームで食を重視する場合には必須と言うべきスキルだった。

当然、私も狩猟ツリーを取ってしまえば発現する確率はグッと高くなるだろう。しかしながら、


「悩みどころではあるんだよね。やっぱり」

「ツリースキルを取るか、新たなツリーを取るかの2択って中々難しいものがありますからね」

「そうなんだよねぇ……」


難しい問題だ、と私は思う。

当然、レベルが上がりやすいのならば、無限にツリーポイントを得ることができるのであれば悩む必要はない。

しかしながら、これは上限の決まっているゲームでの問題だ。

限られたリソースをやりくりし、自分に合った能力を得る事を第一に考えねば後で後悔することになる。


そして現状でいえば、私にとって狩猟ツリーは取ったとしてもポイントを割り振らないであろう事が容易に想像出来るツリーでもあるのだ。

【解体】に関係するツリースキルや、狩猟する上で必要になる最低限の気配察知能力などを得る事ができるものの、後者に関しては自前のスキルで何とかできてしまっている。

それに【解体】も【解体】で、クリスの言ったようにパーティプレイをする上では1人が持っていれば十分ではあるのだ。


だが、それはそれ。これはこれ。

いつでもクリスと共に行動できるのならば兎も角、そんな事はできないのだからどうしても1人で何かをやる時間は出来てしまう。

記憶に新しいのは『ライオット草原』攻略の時の事だろう。

あの時と同じような状況にこの先何度もなるのが分かりきっているのだから、1人で出来る事は増やした方が絶対に良いのだ。


「スキルが簡単に生えないならアイテムで補うしかないんだけど……クリスちゃんそういうの知ってるかい?」

「一応知ってますよ。でも」

「あぁ、そうだね。お客さんだ」


ここまで呑気に話をしていたが、場所は森。

『ダーギリ森林』のボスエリア近くであり、敵性モブとの遭遇率はそれなりに高い。

だが、今ではそんな場所も私達にとってはそこまで危険度は高くないのが現状だ。

索敵が出来、遠距離攻撃によって先制攻撃も出来る。

何なら影狼によって手を下さずともフォレストウルフならば倒せてしまうため、ある程度の余裕は確保出来ている。


だが、そんな私達でも少しは気を配らねばならないのがこの森のボスを除いた強者……フォレストベアだ。

今もこちらへと木々を薙ぎ倒しながら向かってきている巨大な姿が少し離れた位置に見えている。このままいけば3秒以内には接敵するだろう。

その巨大な身体と熊であるが故の膂力を持って蹂躙される危険なモブ……ではあるのだが。


「「【飢餓の礎】」」


それは普通に戦った時の話であって、私達にそれは適用されない。

2人同時に発動させたスキルによって強化された身体能力を活かし、私とクリスはそれぞれの立ち位置へと移動する。

クリスは手持ちのスキルを活かすためにフォレストベアの死角である木の上に。

私はといえば、


「さぁ、やろうぜ!」


そのままの勢いのまま迫ってきたフォレストベアを、真っ向から【森狼の長包丁】の腹を盾のようにして受け止めた。

軋むような、否。私の両腕はしっかりと内側から硬い物が折れる音を響かせる。

だが、身体は吹き飛ばされていない。

数メートルほど後方に運ばれてしまったものの、完全にフォレストベアの勢いを殺す事が出来たと同時。

私の身体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じた。


【身体的損傷を確認:デバフを獲得しました】

【『骨折(腕)』】


HPの減少を引き金に、身体強化スキルである【背水の陣】が発動したのだ。

先ほどまでは【飢餓の礎】のみの強化で万全とは言い難かった状態。だが、これで私の方の準備は整った。

私の目の前で二足になろうと身体を持ち上げようとしているフォレストベアににっこりと笑いかけた。


それと同時、風を切る短い音が連続して森の中へと響き。

次の瞬間、フォレストベアの四肢を地面へと縫い付ける。

何が起こったのか分かっていないのか、困惑しつつも私の方へと威嚇しているのを尻目に。

私はゆっくりとその巨体の正面から横へと移動し手に持った【森狼の長包丁】の刃をゆっくりと、フォレストベアの脊髄辺りへと這わせ、強化された膂力を使い無理やりに首を斬り落とした。


「はい、終わりっと」

「……絶対受け止める必要はなかったですよね?」

「あは、そこら辺は出来るかなぁってね。試した事なかったし」

「はぁ……あ、解体しちゃいますね」


戦闘が終わったのを見計らってか、木々の上から降りてきたクリスがフォレストベアの死体へと近づき解体を始める。

スキルによって補助されているためか、彼女の手の動く速度は速い。

少しばかり待っていれば終わるだろうと、私は索敵に集中するためにそこらの木に寄り掛かって目を閉じた。


考えるのは先程クリスの言っていた【解体】をアイテムによって補う方法。

メリットは単純に、いつ取れるかも分からないスキルをアイテムを使うだけで扱うことが出来る。

デメリットとしては、それの使用回数辺りになるだろう。

何でもかんでも使用回数無しに使えるならば、もっと普及していてもおかしくはないし、スキルを取る意味も薄くなる。それはこのゲームの特徴とも言える部分が消えてしまうのだから運営としても良い顔はしないだろう。


「……あと考えられるのは、単純にコストかな」

「なんの話です?」

「あぁいや。色々世知辛いなぁって話さ。終わったかい?」

「えぇ、帰りましょう」


解体が終わったのか、クリスがこちらへと話しかけてくるのに合わせて目を開く。

彼女の手からは今も血と、それが消えていくに伴って光の粒子が空へと立ち昇っていくのが見え、少しばかり幻想的に見えた。



初期拠点の街に帰ってきた私達は、そのままの足で金物屋へと向かった。

というのも、話していたアイテムがそこに売っているとの事だったからだ。

店へと辿り着き店主へと目的の物を伝えると、彼は店の奥から1本の短剣を持ってくる。


「スキルが付与されているものっていうとこれだな。【解体】10回分だ」

「値段は?」

「これくらいだな」


目の前に出現したウィンドウの表示を見てみると、そこに書いてある数字は私の全財産が吹き飛ぶ程の数字であり……どうしようもなく高価であるのが分かってしまう。

クリスもその表示が見えたのか、小声で資金を貸すか否かの提案をしてきたものの、丁重に断った。どうせ買っても10回のみしか使えないのだ。割には合わないだろう。


そうして肩を少し落としつつ、店を去ろうとした時。

店の壁に飾られている1つの品物へと目が留まる。それは、


「フライパン?」

「あぁ、それもスキルが付与されている物だな。だが【解体】ではなく【料理】だ。家庭用だな」

「ふぅん……」


【料理】。

目的のスキルではないものの、取得を目指すか考えていた中の1つだ。

その理由としては、いくら悪食家と言えど素材を素材のまま食べていたとしても効果、そしてその持続時間は短いまま。

それを比較的長く、そして強力にするためのスキルなのだから考慮の内には入るだろう。


「うん、買おう。幾ら?」

「これくらいだ」

「ちょ、マイヴェスさん?」

「あは、考えなしの衝動買いじゃないぜ?歴とした考えがあっての上さ」


目の前に再度表示されたウィンドウに書かれた金額は、先程の【解体】のナイフの十分の一以下。

家庭用という話も間違ってはいないのか、使用回数は50回と中々に多いのも良い。

店を後にした後、私とクリスは手に入れたフライパンを試す為にプレイヤーが借りることの出来るキッチンのついた宿屋へと向かった。


初期拠点の宿屋だからか、質素で……尚且つ広いとは言えないキッチンを借り、先程狩ったフォレストベアの肉をクリスに取り出してもらう。

解体したあとだからか、それともアイテム化されているからか、トリミングする必要がない状態で出てきたその肉塊をまな板の上へと乗せ、出刃包丁でステーキ1枚分ほどの大きさで試しに切ってみる。


「ん、回数表示。食材系もある程度は使いまわせるって事か」

「人より大きい肉が1回、1人分のステーキにした程度で消えてしまったら勿体無いでしょう?」

「そりゃそうだ」


ご丁寧にフォレストベアの肉塊の直上辺りに出現した回数表示と、消費期限らしきカウントダウンを見つつ。

私はこの肉をどう調理するかを考える。

単純に食らうだけならこのまま適当に焼くのが良いだろう。


「んー……クリスちゃんも食べるよね」

「頂けるなら」

「オーダーとかあるかい?レアとか……ってあぁ。熊肉って生食いけたっけ」

「えぇっと……流石にリアルの私達の国じゃポピュラーとは言い難い食材ですからね……どうでしょう」


魚などはあまり気にしなくても良いものの、肉というのは生食する場合中々に気を付けねばならない食材だ。

牛や馬、ラムなどはきちんと管理、保存していればある程度生で食べても問題のない肉ではあるものの、豚や鶏などはきちんと火を通さねば最悪の場合死に至る程に危険なものだ。


では熊の肉はどうかと言えば……悔しい事にリアルで食べる機会が無かった為に知識がない。

私だけが食べるのならば別段気にしなくてもいいのだが、今回はクリスも食べるのだからしっかりリスク管理はしたほうが良いだろう。


「……あ、良い事思いついた」

「えっ、あっ」

「イタダキマス」


ゲーム内であっても注意するのは大事、などと考えていると1つだけ確かめる方法を思いついた。

というよりは、私が既にこのゲーム内で行っていた危険行為の1つを思い出したと言うべきか。


私が何をするのか悟ったのか、クリスが止めようと動き出すのに先んじて、切り分けていた生のフォレストベアのステーキ肉を自らの口へと運ぶ。

そう、私がこのゲーム内でした危険行為……人面鳥ピアサの肉をそのまま食らった時と同じように、口の中へと放り込んだ。


瞬間、口の中に広がる強烈な獣の香りと血の匂い。

そしてその奥に荒々しいながらもしっかりとした肉の強い旨味を感じる。

生でこの状態ならば、しっかりと調理すれば良いものが出来上がるだろうと確信出来る味だった。


【悪食家:バフを獲得しました】

【『攻撃力上昇』:30s】

【外的要因を確認:デバフを獲得しました】

【『寄生(虫)』】


そしてログに流れた文字を見て、にっこりと笑う。


「うん、生食は危険だね。悪食家の効果が出てるし」

「いや、いやいや……リアルでの危険がないとは言ってもそれは……」

「あは、私はこういう事を平気でするタイプだって知ってるだろう?……あ、先に神殿行ってくるよ。追加で入ったデバフがやばそうだし」


額に手を当て呆れているクリスに対して笑いかけながら、視界の隅に表示されているHPバーを確認すると徐々に削れていっているのがわかる。

自ら獲得しにいったと言っても過言ではないものの、このままでは遠くないうちに死んでしまうだろう。

私はある程度急ぎながら……具体的には自動で発動している【背水の陣】に【飢餓の礎】を合わせる形で急ぎながら、神殿へと向かうのだった。


内容を話した神官には、当然こっ酷く叱られてしまったが、反省はしていない。


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