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13食目 身体に悪いものほど美味である


「まぁ戦うって言ってもなぁ」


相手は龍、ドラゴン等と言われる類の敵性モブだ。

何がどうして人面鳥がそうなったのかは分からない。まぁ成ってしまったのだから今はそれは関係ない。

問題はといえば、ゲームにおけるドラゴンという存在は圧倒的強者として描かれる事が多い、という点だ。

まともに戦う場合は対策が必須であり、まともに戦わない場合は蛮勇が必須となる。そういう存在だ。

今回、私は後者で頑張らねばならないかもしれないのだが。


塹壕の中、一瞬ごとにデバフがかかる状態で何をすればいいのか、やれることは何なのか……そう考えていればある事に気が付いた。

それは一度私が触り捨てたものであり、とうに消えていると思っていたものであり、今も何故か微弱ながらも脈動しているものだった。

そう、私の足に刺さっていたピアサの赤の羽根だ。


「……あぁ成程。兎に角、今回は私に運が向いてるみたいだ」


私はそれを自身の手のひらに刺さらないように、そっと指でつまんで顔の前まで持ってくる。

綺麗な赤だ。ちゃんと加工すれば良い羽根ペンになったりすると思うのだが……今はそんな事は置いておこう。

私は自嘲気味に笑いつつ、口を大きく開ける。

これがどう作用するかは分からない。だが……そう。言ってみれば、ここまでの私は真っ当すぎた。

悪食家なんて嗜好を持っているにも関わらず、まともなモノしか口にしていない。


使えるものは何でも使う食べる

そうして勝てるのがボスだというのに、些か私はまともなパーティプレイというのに慣れ過ぎてしまったようだった。


「あは、でもここで認識を改めるのも良いだろうさ。……イタダキマス」


赤い羽根を大きく開いた口へと入れていく。

舌触りはやはりあまり良くはない。いや、悪い方だろう。

まるで間違って糸を口に入れた時のように、それが延々と続くように。

しかしながら味がしないわけではない。寧ろ多くの香辛料をごった煮にしたかのように舌が痺れるような、そんな強烈な味が私の舌を襲っていった。


【悪食家:バフを獲得しました】

【『固有バフ:鳥継(赤)』:2min】


私の全身が淡く赤く光る。

それと同時に私の身体には心地よい熱が湧き上がってきた。

この固有バフがどういう類のものかは分からない。しかしながら、この場で獲得できるものという事は、この現状を打開できるものであると信じたから今ここで口にしたのだ。


「じゃあ……行こうかッ!」


今も火炎の津波は続いている。

いつまで息が続くのかと思ってしまうが、首を落とされた状態から再度動き出したのだからその辺りの常識は通用しないのだろう。

だが、止まらないのであればやる事は1つだ。


【身体的損傷を確認:デバフを獲得しました】

【『火傷(軽)』:10s】


「あっついなぁ」


塹壕から跳び上がり・・・・・、私は空中へと踊り出す。

自身のHPが相応に減ってしまうが関係ない。否、今跳び上がったからこそ『鳥継』という固有バフの効果が分かった。

治癒だ。ピアサの理外の治癒能力が、私のHPを、そして今しがた獲得した『火傷(軽)』というデバフを急速に復させていく。


目の前には私の爬虫類特有の目で空中にいる私を捉えているピアサがそこに居た。

どうやら火炎を吐きながらこちらへと近づいてきていたようだ。だが、それはそれで都合がいい。

狙うは首だ。目の前の化け物はそれに含まれるかどうか分からないものの、生物というのは基本的には首を落とされれば死ぬのだから。

私は【首狩り】というスキルを持っているのだから尚更狙うべきは首だろう。


周りには何もない。空中なのだから当然だ。

だからこそ、私はそのまま落ちていく。落ちていき火炎の津波の中へとまた戻っていくが、それでいい。位置が分かり、固有バフの内容が分かり、そして相手もこちらを認識しているという事実が分かったからそれでいい。

だが幸いにも、私が塹壕とピアサの間に着地すると同時、ピアサはその口から吐いていた火炎を停止させる。息継ぎが漸く必要になったわけではない。

私に効かないと諦めたわけでもない。

その巨体をもって私の身体を轢き潰しに来るためだ。


「またそれか!」


その行動は人面鳥の時に何度も見ているのだから対応自体は問題ない。

だが、その対応は万全の時のもの。

私の着地を狩るように突っ込んできているピアサに対して、私が出来る事は本当に少ない。

思い出すのはゲリと戦った時の事。

あの時は鮪包丁を確実に当てるために、ゲリの突進を紙一重で回避したのだから。

今回もそれをすれば良い。身体能力は問題ないのだ。

【飢餓の礎】に加え、急速に回復しているもののHPの減少によって【背水の陣】による強化も乗っているのだから当然だ。


着地と同時、眼前に大きく開いた爬虫類の口が迫ってくる。

ある種極度の集中状態だからか、そんなピアサの動きがゆっくりと見え……それに反応しようとする私の身体の動きも普段以上にゆっくりとしたものに感じてしまう。

だがこのままでは身体をずらすだけでは避けられない。

それならばそれでいい。丁度私の身体は着地したおかげで蹲踞のような姿勢になっている。


「何度も同じことをすると芸がないって思われるかな?でも良いよね、君もだし」


足に力を入れやすいその状態でする同じこと、と言えばただ一つ。

私はそのまま強化された膂力によって跳び上がった。

再度空中へと踊り出る。それと共に私の下をピアサが通り過ぎていくのが見えていた。

どちらも高速であり、どちらの行動も掠る事がない。

だがそのおかげで私は無事に塹壕から出る事が出来たし、ピアサはピアサで私から距離をとり再度火炎を吐くという選択肢を取る事が出来るようになった。

お互いに再度、よーいドンで切った張ったが始められるようになったというべきだ。


だが、ピアサの突進の後の行動といえば、だ。

骨の小山を食らおうと、そう動くのではなかっただろうか。


「君は姿が変わったとはいえ行動は変わらないなぁ!【範囲拡張】」


再度の着地と共に走り出す。

目指すは、私の代わりに骨の小山に対して突っ込んでいったピアサの背中。

これから本当に食らうのかどうかは分からないが、HPを回復されるというのは大変に不味い。

龍の特徴が出てきたあの化け物にHPという名の命の盾を与えてしまったら、今の薄い勝ち筋が消えてしまうのだから。

手にもった【森狼の長包丁】を強く握り、今まさに骨の小山を食らおうとしている元人面鳥へと斬りかかる。


背中側。それに骨の小山を食らおうとする頭に対して刃を向けることは難しい。

しかしながら、それ以外ならば。まずはその機動力を割くために、鳥の特徴を持った後ろ足に対して刃を振るう。

絶妙に距離は足りないだろう。だがその距離はスキルによって詰められる。

これからはもう少し刃渡りが長い包丁を持つべきかもしれないな、そんな事を考えながら私は包丁を振るった結果をしっかりと確認するために目を大きく開き笑みを浮かべた。


血が噴き出る。

どちらか一方の足が斬れればそれでいい。そう思いながら振るった包丁は狙い通りにピアサの右の後ろ足へとその刃を届かせた。

翼よりも感触は硬い。流石は龍かと思うもののそれでも斬れない程でもない。

斬り飛ばす。下から上に、斜め右に赤い線が入り、ピアサの体勢が少しずつずれていく。

だが、それも一瞬だ。

先ほども見た血の霧が斬れてしまった足から勢いよく吹き出し始めたのが目に入る。


先ほども見た、頭すらも回復して見せたその行動。

流石にそれを許すつもりも、今後もやらせるつもりはない。

【範囲拡張】を思考で発動させ鮪包丁を再度振るう。


『ガぁッ!』


二太刀目で斬れたのは、元人面鳥の背中と言うべき部分であった。

当然ながら、私は巨大ではない普通の頭身の人間だ。

それに加え、スキル【範囲拡張】は使用後の行動範囲を拡張してくれるという適用範囲の広い汎用スキルではあるものの、それが自身の身長に適用されるなんてことをクリスは一度も言っていない。

つまり何が起こったかといえば、ピアサが二足歩行となって立ち上がり。

それに一瞬虚を突かれた私は、その背中を斬りつけてしまった、という事だった。


血がその背中から吹き出て私の身体に大量に降り注ぐ。

赤い血ではない。黒だ。漆黒の血だ。


【外的要因を確認:デバフを獲得しました】

【『暗闇』】


通常ならばここは舌打ちなどをするべき場面なのだろう。

元は羽根によって付与されるはずだったデバフが、ピアサの匙加減で血液からも受けるようになってしまっているのだから。

特に返り血を浴びやすい近接系のプレイヤーからは文句が出そうなものだが……私が顔に浮かべたのは笑みだった。


「効かないねぇ」


ピアサは肝心な所でこちらに付与すべきデバフの種類を間違えてしまった。

今まで使ってきていた『熱病』、『毒』のどちらかであれば私も少しは慌てていただろうが、『暗闇』ならば慌てるどころか笑みを浮かべる程度には余裕がある。

視界はまるで暗幕が掛かったかのように暗転しているものの、ピアサの位置も、どうやって行動しようとしているのかも手に取るように分かっているからだ。

【危機察知】、【第六感】の2つは十全にその効果を発揮してくれていた。

ならば、あとは私自身が決着をつけるだけだった。


当然、ピアサの動きが分かっていると言っても、どこにどう傷を与えたかは想像するしかないために現実に与えた傷との差異は確実に出てくる。

だから、


「頼むぜ、【眷属顕現】」


目が見え、そして攻撃を行う事が出来る影狼を召喚しつつ、私は更に一歩前へと踏み込んだ。

ここからは攻撃を食らっても死ななければ安い。寧ろ死なない程度に、動ける程度に攻撃を食らった方が【背水の陣】の効果で強化されるのだからアドバンテージになるのだ。

だから、というよりはもっと狙える位置を増やすために踏み込んでいく。


どう動いたのか分からないが上から降ってくるような危険な気配に対し、最低限の動きでその気配から出るように避けてから【森狼の長包丁】を振るう。

先ほどよりもピアサに近いため、【範囲拡張】はもう使わない。

使わずとも、しっかりと振れば当たるのだから必要はない。


「あはッ!」


一振り。右上から左下へと振り下ろす。

何かを断ったような感触が手に伝わってくる。

二振り。左下から上に振り上げる。

先ほどよりも浅いものの、また何かを断ったような感触が伝わった。

危険が右から迫ってきているためバックステップを入れてそれを避ける。

何かが前を高速で通っていったかのような風が吹いたものの、私の身体に衝撃が走る事はない。

少し離れてしまったために、足に力を入れ地面を蹴り突きを入れる。

ずぶりと鮪包丁が半分ほど埋まっていくのを感じつつ、そのまま強引に左へと振るう。

ズパンという音と共に確実に何かを斬った感触と、全身に更に血を浴びて周囲の暗闇が更に濃くなったのを感じた。


ここらが切り所か、と舌なめずりをすれば。

一気に周囲の暗闇が晴れていき視界が復活していくのが分かった。


【悪食家:バフを獲得しました】

【『固有バフ:鳥継(黒)』:10s】


口周辺に付着していたピアサの血を口に含み飲み込んだからだろう。

今度は固有バフの色が変わり、強力な治癒能力と共に血を浴びたままであるにも関わらず『暗闇』が晴れていく。

だがログにもある通り短い効果時間を無駄には出来ないため、『暗闇』が消え切っていない中、更に私は攻撃を仕掛けようと一歩前へ踏み出した。


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