そこからのボス戦は、特に何かを言う事もない。
何故なら私
そして残っているフレキは眷属の狼を呼び出す後衛である。
元々クリスが1人で戦って抑えられていた状態で、私が加わったらどうなるかなど考える必要もないだろう。
【【貪欲狼 フレキ】を討伐しました】
【初回討伐特典:『貪欲狼 撃破報酬』】
【『ダーギリ森林』を攻略しました】
【称号:『森林の攻略者』を取得しました】
【第二拠点『イロハ』が解放されます】
「ん、終わったね。お疲れ様」
「……まさか勝っちゃうとは……あぁいや!マイヴェスさんHP大丈夫ですか!?」
「割と大丈夫だぜ?1人で戦ってる時より楽だったから、隙みてポーションとか飲んで回復してたしね。それよりも教えてほしいんだけどさ」
ボス戦が終わった後。意識してスキルの発動を解除しつつ先ほどまで駆けまわっていた広場の中心に近い位置で胡坐をかきながら座り、私は近寄ってきたクリスに語りかける。
と言っても内容はほぼ決まっているのだが。
「この撃破報酬ってのは何だい?」
「え、っと……一応、所謂ボスを討伐したご褒美みたいな物ですね」
「成程、そういうタイプ……ふむふむ」
インベントリからそれら……今回の2体のボスの通り名のようなものが付いている撃破報酬を取り出してみる。
手に取りだしたそれは、手に収まるサイズの小さな木製の箱だった。
2つとも同じくらいのサイズだったため、恐らくコレが標準のサイズなのかもしれない。
軽く指先で片方に触れてみると、開けるか否かを問われた為、そのまま開けてみる事にした。すると、だ。
【【餓狼の血液】を入手しました】
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【餓狼の血液】 レアEX
種別:ラーニングアイテム
効果:スキル【飢餓の礎】をラーニング出来る
【飢餓狼 ゲリ】の力が秘められている血液
その身に飢餓の力を宿した狼は、血液になったとしても力を失うことはない
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入手すると同時に出現したウィンドウに目を通し笑う。
これがボス戦の対価。初回限定ではあるものの、戦ったボスの力の一端を手に入れる事が出来る。
惜しいのは、この【餓狼の血液】で得ることが出来るスキルを私は戦闘中に得てしまった事だろうか。
「成程、成程ね……この初回限定の内容は全員同じなのかい?」
「同じですね。どちらも使えると便利なスキルのはずです」
「そっか、確かにね……でも私はゲリのスキルはもう持ってるんだよ」
「えっ?……あぁ、そういえば」
「そうそう。戦いながら食べてたらね」
もしかしたら他のスキルをラーニング出来ていた可能性もあるものの、しかしながら私が得たのは同じ【飢餓の礎】。
勿体無いとは思うが、これはこれで後でエリックスの店に持っていって料理に使ってもらうなり何なりすれば良いだろう。
では、次。
【【貪狼の血液】を入手しました】
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【貪狼の血液】 レアEX
種別:ラーニングアイテム
効果:スキル【眷属顕現】をラーニング出来る
【貪欲狼 フレキ】の力が秘められている血液
その身に貪欲の力を宿した狼は、血液になったとしても力を失うことはない
――――――――――
ほぼ同じ説明文である為に半分以上は読み飛ばしたが、幸いな事にこちらはラーニング出来ていないスキルだ。
インベントリ内に直接仕舞われたそれを取り出してみると、赤い液体の入った小さなガラスの小瓶が出現する。
ラーニング、と言うことはこれを直接飲めば良いのだろう。
コルクの栓を引き抜き、私はクリスが見守る中、それを一気に飲み干した。
【スキルをラーニングしました:【眷属顕現】】
「ん、ラーニング出来たね。これどうやって発動するタイプ?」
「思考、もしくは発声ですね。こんな風に……【眷属顕現】」
同じく【貪狼の血液】を飲んでラーニングしていたのであろうクリスが、【眷属顕現】を発動させる。
すると、彼女の足元の影から狼の形をした影が1体ぬるりと這い出てきた。
頭上には『影狼』という簡素な名前のみで、HPバーは見えていない。
「この影狼は、言ってしまえば簡易的な前衛役です。ベータだとこの1体で『ダーギリ森林』のフォレストウルフは打倒出来てはいました」
「余裕だった、とは言わないんだね」
「言いませんよ。フレキはこの数十倍の影狼を出現させてたんですから。この子は質より量のタイプです」
彼女に習い、私も小さくスキル名を発せば。
胡座をかいている私の足の真ん中に収まるように影狼が出現した。
撫でるように触ってみると、温度などは感じられないものの、しっかりとした毛や皮膚の存在を感じることが出来る。
これはこれで良いペット辺りになるかもしれない。
「うーん……それにしても、やっぱり『骨折』とか『脱臼』は神殿行かないと治らないかな」
「愛食家が居れば治るんですけどね……すいません、大食家で」
「あは、人のプレイスタイルに口を出す趣味は無いさ。迷惑だとも思ってないしね」
「……ありがとうございます」
「さて、休憩も済んだし……どうする?」
そう言いながら、私はクリスから目を離しある一方向へと視線を向ける。
現在私達が居る広場は、『ダーギリ森林』というエリアの外周部と言える場所に存在している。
ボス戦が終わったからなのか、私が視線を向けた先はちょっとした獣道のようなものが出来ており。
そこを進んでいけば、この森林の中から抜けられるのだろう。
何が言いたいかといえば、
「イロハって街に行ってみるかい?」
「良いですね。……実は、ベータテストの範囲ってここまでなんですよ」
「へぇ、それは朗報だ。ここから先はクリスちゃんも初見って事だろう?行こう行こう」
良い事を聞くことが出来た。
ここまでのボス戦を含めた道中は、確実に彼女の持つ
特にボス戦における役割分担はそれだろう。
本当ならば挑まなければ分からない情報を先に得て、それを元に対策を立てて行動する。
それもそれで面白いとは思うものの、流石にこれから先もずっとそうではすぐに熱が冷めてしまう。
今まさに起こった熱を逃さないように、私は彼女の手を掴み獣道へと足を進める。
勿論、【危機察知】と【第六感】、そして先ほど手に入れたばかりである【眷属顕現】によって出現している影狼をフルに使い、周囲に危険がないかを確かめながら進んでいけば。
私の視界が一瞬ではあるものの、光によって遮られる。
「良い景色だねぇ……」
「うわぁ……!」
森林という、普通よりも暗い場所を抜けたからか少しばかり目が慣れるまで時間が掛かったものの。
私達を歓迎するかのように現れたのは、
森から一歩、二歩ほど離れるように歩いてみれば、次第に石畳の敷かれた道が現れる。
そしてその先には、活気溢れる和風の街が私達を待っていた。
蒸気のような白い煙が幾つも上がり、香辛料のようなスパイスの匂いが楓の葉と共に風に乗ってこちらへと寄ってくる。
どうやら温泉街のようで、近くに流れている川からは湯気があがっていた。
影狼を後ろに控えさせつつ、私達2人が街へと近づいていくと。
街の入り口である八脚門の左右に立った門番らしき人が1人こちらへと近づいてくる。
甚平のような服装、関節などに対して防具を付けており、1メートルあるかないか程度の短いさすまたを手に持っていた。
少しばかり警戒されているのか、十分に距離を……さすまたの届くぎりぎりの距離でこちらへと声を掛けてくる。
「失礼、お二方。見ない顔だが温泉街イロハに何の用かね」
「あー、私達はそこの森を抜けてきてさ。ちょっと『骨折』とかしちゃったから休みたいなって思ってるんだけど……」
私がそう言えば、訝しむように顔を顰めた後。
何かを確認したのか、一転して笑顔となった。
「ふむ、話は本当のようだ。失礼した。……歓迎しようお二方。温泉街イロハへようこそ」
「ありがとう」
「お邪魔します」
「治療は門を通った後、そのまま真っすぐ進んだ先にある大きな寺院へ行ってくれ。そこに居る僧侶の誰かに話を通せば治療をしてもらえるはずだ」
目的地を教えてくれた門番に礼を言った後、私達は門を潜りイロハの中へと入る。
むわっとした熱気が顔を襲うが、不快ではない。
寧ろ、温泉に入る前のちょっとした高揚感が湧いてきた。
「さて、着いたわけだけど……これからどうする?」
「各自自由行動でも良いかもですね。マイヴェスさんは治療が先でしょうし」
「そうだねぇ。じゃあ今日は一緒に行動するのここまでにしておこうか。次一緒にやりたい時は連絡くれると助かるぜ」
「分かりました!……では、また」
イロハへと入った後。
私とクリスはパーティを解除し、お互いのしたい事を優先することにする。
元々今日の目的は『ダーギリ森林』でどこまでやれるかという曖昧なもの。
しかしながら、その目的を大きく超えて攻略までしてしまったのだから、色々と確かめる事ややりたい事も出来てしまったのだ。
それこそ、私の場合はボス戦で負った傷の治療を初めとした身の回りの調整について。
クリスが何をするかは知らないが、私と似たようなものだろう。
彼女の場合は弓矢という消耗品を使っている都合上、私以上に今日の消耗は激しいはずだ。
「さぁて。じゃあ少しばかり湯治やらなんやらをしようかなっと」
まずは寺院に向かう所から。
その後、この温泉街を楽しもう。
そう思いながら、私は再度歩き出した。
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マイヴェス レベル:5
Preference:悪食家
HP:150/150 MP:125/125
PoF:23/100
Equipment:【食人の服・上】、【食人の服・下】
Skill:【危機察知】、【背水の陣】、【包丁使い】、【第六感】、【首狩り】
BossSkill:【飢餓の礎】、【眷属顕現】
TreeSkill:【戦闘経験値微増】、【休息時HP回復微増】、【ラーニング確率微増】、【料理効果微増】
title:『森林の攻略者』
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