目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

二〇一七年九月九日 その4

 急いで片付けをし、信二たちと外へ出た。

 夕方の空が目に飛び込んでくる。その色合いは、まるで絵画のようで、儚かった。夕陽は地平線に沈みかけ、橙色の光が辺り一面を染め上げている。空の端には紫がかった雲が広がり、夏の湿った空気を吸い込むたびに、夕暮れ独特の匂いが心を満たす。風は穏やかで、日中の暑さを少しだけ忘れさせてくれるようだった。

 そんな空の下、信二たちが私の前に並んでいた。

 信二がふと空を見上げて口を開く。

「いい夕焼けだな。何か、特別な日って感じがする」

 その言葉に、私も頷いた。

「そうね。でも雲があるから、バーベキューはだめだね」

 すると信二たちは、何言ってるんだっていう顔をしていた。

(そうか……行ったんだ)

 私は大気君の方に向き直り、小さく微笑む。

「工藤君」

 名前を呼ぶ声が静かに響いた。

 彼は少し驚いた顔をしたが、すぐに真剣な眼差しを向けた。

「本当に今までありがとう」

 夕焼けの中、その言葉は静かに、しかし確かに伝わった。

 工藤君は一瞬視線を落としたが、すぐにその言葉の真意を理解すると、顔を上げた。

「こちらこそ、本当にありがとうございました」

 その声には、未練を隠しきれない切なさがあったけれど、どこか吹っ切れたような響きもあった。

 私は夕陽に照らされた彼の表情を見て、そっと微笑んだ。その横顔に漂う寂しさもまた、この夕焼けに溶け込むようだった。

 空は刻一刻と色を変え、オレンジから深い紫に移り変わっていく。別れの瞬間を包み込むように、夏の終わりを告げる風がそっと三人を撫でた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?