「すごい演奏だったな」
信二はつぶやくように言った。気がつけば、自分の頬に涙が伝っていた。それに気づいたまま、止めることはしなかった。舞台上の千沙の顔は、満足感に満ちた穏やかな表情を浮かべていた。一方、俺の横で、大気も泣いていた。いや、号泣していた。
「あ、あの」
泣きながら、大気が声をかけてきた。
「ん?」
「三浦先輩、ティッシュ、持ってますか?」
大気の涙声混じりの問いかけに、信二は一瞬驚いたが、すぐに肩を震わせて、泣きながらも笑いそうになった。それでも、顔を引き締めてポケットを探りながら、
「ああ、使え、馬鹿」
ティッシュを取り出し、光にそっと渡す。
その瞬間、信二は心の中で確かに感じた。
(これで、大気とも心の中で別れを告げられた)
ありがとう、大気。お前が戻ってきてくれて、俺たちはまた一歩前に進めた。そして、これからも歩みを続けるんだ。
ティッシュを受け取った光が、泣きじゃくりながらもお礼を言う。
信二はその様子を見つめながら、じんわりと胸が温かくなるのを感じた。
二人の間に流れる特別な時間。それは、何かが終わり、また新たな何かが始まる予感に満ちていた。
記念撮影の最中、土橋は目を真っ赤にして泣き続けていた。
その光景が珍しく、演奏を聴きに来ていた吹奏楽部の卒業生たちは、思わず笑い声を上げていた。
近くでは、瑠璃が熊谷君を慰めながら泣きじゃくる彼を見守っている。意外にも、その姿がとても愛らしく感じられた。
「千沙」
振り返ると、今回は、満面の笑みを浮かべた瑞希が立っていた。
「どうだった? 満足した?」
「もう、最高っ!」
瑞希は間違いなく、純粋に音楽の喜びを感じ取っていた。
周りの同級生たちとも楽しげに談笑していて、その光景が何とも微笑ましい。
「先輩!」
隣の雪ちゃんが、何かに気づいた様子で声を上げる。
そこには、信二たちの姿が見えた。