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二〇一七年九月八日 その1

 二〇一七年九月八日。

 野球部を引退して、もうすぐ一か月が経つ。

 受験勉強が生活の中心になってくると、なんだかんだで日々の楽しみが少なくなっていく。

 先に部活を引退していた松田や須賀たちは、「ウェルカーム!」と手を叩いて喜んでくれたけれど、やっぱり体を動かす時間が減るのは寂しいものだ。

 とはいえ、ありがたいことに都内の大学から声をかけてもらえた。甲斐学院の去年のエース、金丸さんのいる学校だ。

 金丸さんからも、『また同じチームで戦えることを誇らしく思う』とラインが来て、少し嬉しかった。

 おかげで、受験はあるけれど心に少し余裕ができた。

 ただ、その話をした瞬間、松田が「お前、マジでふざけんなカス」と睨み、須賀は「てめえ、ぶち殺すぞ」と無表情で言ってきた。冗談だとは思うけれど。

 そんな彼らはさておき、俺のクラスはすっかり受験ムード一色だ。

 今や授業はほとんどが自習になり、みんな黙々と机に向かっている。

 俺も静かに机に向かいながら、ふと時計に目をやった。

 千沙たちは、そろそろ学校から出発した頃だろうか。

 そんなことをぼんやり考えていると、ポケットが微かに震えた。スマホのバイブレーションだ。

 一瞬、隣の席の伊藤が顔を上げて、チラッとこちらを見たが、何も言わずにまた過去問へ集中していった。

 俺も気まずくなりながら、マナーモードにするのを忘れていたことを後悔する。

 急いでポケットからスマホを取り出すと、新着メッセージの通知が画面に表示されていた。送り主は、大気。

 なんだと思って開いてみると、その内容を見た瞬間、思わず「は?」と声を漏らしてしまった。

 さっきまでの静寂が嘘のように、周囲の視線が一斉に俺に突き刺さった。

「先生、推薦を貰った三浦君がスマホいじっています」

 松田のその一言が、まじでイラッとした。


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