目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

二〇一七年六月二十四日

 二〇一七年六月二十四日。

 大会前、最後の練習試合だった。相手は西東京の強豪、片山高校。

 ダブルヘッダーの二試合目。監督から「光、行けるか?」と声がかかる。

「はい、完投します」

 そう言い切ったものの、正直なところ不安はあった。この体で、最後まで投げきれるのか。何度も心の中で自問しながら、俺はマウンドに立った。

 序盤は緊張して球が浮き、何度かピンチを迎えた。それでも、キャッチャーの信二がしっかりリードしてくれたおかげで、徐々に調子が上がってきた。

 特に新しく取り入れたスライダーが冴え、要所で相手打線を封じ込むことができた。

 そして試合終了。九回を投げ抜き、一点差で勝利を掴んだ。

「ナイスピッチング、光!」

 チームメイトが駆け寄り、笑顔で背中を叩いてくれる。

 相手はベストメンバーではなかったとはいえ、初めての完投勝利。思わず拳を握りしめた。この勝利が、少しずつ自信に繋がっていく気がした。

 その一方で、クラスでも来週に迫った学園祭の準備が本格化してきた。

 男子とはすっかり仲良くなり、冗談を言い合いながら装飾や大道具を作る日々。

 しかし、女子はやっぱり苦手だった。

 何かと固まっているし、どうしてあんなに会話が速いんだろう。

 元々俺自身も苦手であったが、身体の反応的に、確実に工藤光自体も女子が苦手だっただろうと思う。

 そんな中、ちょくちょく田中雪が話しかけてくれた。

 雪って、本当にいい奴。ついつい感心してしまう。

 彼女とのさりげない会話をきっかけに、少しずつ女子とも話せるようになってきた。

 雪は千沙先輩と部活で、よく一緒に行動しているらしい。話の流れで千沙先輩の話題が出ることもあり、俺はどこかぎこちない笑顔で返事をしていたけれど。

 クラスの学園祭企画は、一日目のダンスパフォーマンスと二日目の模擬店だ。

 ダンスの練習風景は圧巻だった。各クラスのダンス部が指示を出し、男子も女子も全員が一つになって息を合わせ、ステージに向けて本気で取り組む姿は、見ているだけで胸が熱くなった。

 模擬店の占いの館の準備も着々と進んでいる。壁一面にペンキを塗ったり、看板にイラストを描いたりと、みんなで手を動かしている時間が楽しい。

 俺も率先して重い資材を運んだり、力仕事を任されたりするのが嬉しくて仕方なかった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?