二〇一七年六月十二日。
少しずつ、身体がこの環境に馴染んできた。
最初の頃は疲れすぎて動けなくなる日もあったけれど、最近では驚くほどスムーズに動けるようになった。おそらく、ここでの練習だけじゃなく、転校前から続けてきた一人でのトレーニングが、今ようやく結果として表れてきたのだろう。その実感が、ただただ嬉しい。
「いいね、光。特にこのスライダー、試合でも使えそうだな」
信二が笑いながら言ってくれた。思わず俺も笑みがこぼれる。
転校してきたばかりの頃、手探りで始めた新しい変化球、スライダーとスプリット。
元々投げていたカーブは、今の身体にはあまりフィットしなかったが、特にスライダーは、なぜか体が自然に覚え込んでくれた。おそらく、工藤光自身も投げていたのだろうか。
「工藤、次の紅白戦でも使ってみろよ」
監督の言葉が胸に響く。認められたことが素直に嬉しかった。
このチームに必要とされている気がして、力が湧いてくる。これが今の俺の一番の励みになっていた。
あの決心をしてから、先輩のことを考えないようにしている。自分でも、それが簡単じゃないことくらいわかっていた。
それでも、野球に打ち込むことで、少しずつ彼女のことを、頭の隅に追いやることができるようになってきた。
そうしているうちに、思ったよりも「工藤光」としての今の生活が悪くないことに気づいた。