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二〇一七年五月十七日

 二〇一七年五月十七日。

(やっぱり、いい。このマウンドは)

 久しぶりに、みんなとの練習に参加して、自然と笑顔がこぼれた。

 ここは、俺が何度も立った場所。高校の土の感触が、なんだか心に染みる。

 でも、やっぱり前の身体とは違うから、投げる球に違和感がある。

 それでも、この新しい身体には新しい良さがある。スピードが足りなくても、コントロールを意識して丁寧に投げることを覚えた。

 それに、もともとの工藤光は利き手が違う。だけど、前のフォームがまだ頭に残っていて、自然と近い投げ方になっているはずだ。

 初めて信二に座ってもらって投げたとき、高橋監督と信二が驚いた顔をしたのが忘れられない。

「どんなもんじゃい」と思いながらも、内心ちょっとホッとしたのを覚えている。

 自分の感覚がまだ生きてるって実感できて、嬉しかった。

 それでも、りんやはじめ、他のチームメイトの中には、俺を快く思っていないやつもいるみたいだ。

 転校生がこんな時期に来るなんて、受け入れにくいのは当然だよな。しかも、同じクラスだけど、ほとんど話してない。なんだか、疎外感が募って胸がちょっと苦しくなる。

 また部室に入るたびに目に入る、壁に飾られた前の俺のユニフォーム。

 前の自分、前の仲間。

 もう戻れない現実を思い知らされる。

「俺って、やっぱり孤独だな……」

 ぽつりとつぶやいたその言葉が、甲府の青空に吸い込まれていった。


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