二〇一七年三月二十八日。
昨夜は、一睡もできなかった。不安が胸の内で膨れ上がり、どうにかしなければと焦るばかりだった。
(こんな状態ではダメだ)
そう思いながら、何か手がかりを求めて立ち寄った本屋で、ふと目に留まったのは「ストレスコントロール」に関する本だった。
正直、こういう類の本には期待していなかった。所詮、理屈だけで現実には役に立たない。メンヘラが自己満足のために読む物だと思っていた。しかし、ページをめくった瞬間、ある言葉が目に飛び込んできた。
「ネガティブな時ほど、ポジティブな出来事を思い出そう!」
当たり前のことのように思えた。でも、今の俺にとっては、その「当たり前」こそが必要だった。焦燥感に支配され、視界が狭くなっていた俺の心に、その言葉はゆっくりと沁み込んでいく。
では、俺にとって「ポジティブなこと」とは何だろう?
この前の夏の大会は負けたし、中学では散々、金丸さんにしごかれたし、一番楽しかった記憶とは?
まあ、やはり野球は楽しいが、何よりも浮かんでくるのは、千沙先輩のことだった。初めて「好きだ」と思えた人。
不安な気持ちを振り払うように、俺はペンを手に取る。少し照れくさいけれど、先輩との出会いを、今ここに書き出してみようと思う。