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二〇一七年七月二十一日

 二〇一七年七月二十一日。

「じゃあ今学期もこれで終了。でも、みんな勉強家だから、夏期講習にはちゃんと来てね」

 担任が教室を出ていくと、瞬く間に教室内はざわめきが広がった。

 高校生の夏休みと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、プール、キャンプ、祭り、そして恋愛。それに関しては、誰もが期待を膨らませているだろう。

 しかし、違った。我が第二甲府高校は、『自称進学校』としての誇りを胸に、時代錯誤とも言える課題の山を生徒に押し付ける。課題ハラスメント、通称『カダハラ』。生徒たちの青春を削ぐことに情熱を注ぐ先生方の、いわば、温かい、思いやりのようにすら感じられた。

 でも正直に言うと、三年生になると、そんなことを言っている余裕もない。大学受験がだんだん迫り、みんな静かに課題に取り組み始めるのが、当たり前になってきた。

 そのせいか、教室の雰囲気も去年とはまるで違う。あの頃のように、笑い声が飛び交う無邪気で楽しい空気は、もう感じられない。

「このあと、どうする?」

 背後からの瑠璃の声に反応して、慌てて振り向く。

「そうね、一旦お昼を食べてから、練習に行こうか」

「おっけい!」

 瑠璃は相変わらずマイペースというか、どんな時でも自分らしくて、素直にそれがいいなと思う。今日は、好きなサンドウィッチの具を見て、朝からテンションが上がっていた。

「ではでは、この楽しみにしていたサンドウィッチを……」

 そう呟いた瞬間だった。

「あの、山見さん、ちょっといい?」

 瑠璃に見とれていたせいか、隣にバスケ部の楠君が立っていることに気づかなかった。

「お、くっすー。どうしたの?」

「ちょっと、話したいことがあるんだけど」

「んー? 今ここじゃまずい?」

「……うん」

「あ……ごめん、お昼食べたら、すぐに部活だから」

「なら、部活終わりとか、ちょっと時間ないかな?」

「あー。ならいいけど」

「了解! 十七時過ぎには、駐輪場で待っているね」

 そう伝えると、楠君はちらっとこちらを見てから、教室を出ていった。

「何よ、その顔」

「いや~、瑠璃はモテるなって」

「いやいやいや。くっすーはいい奴だけど、うん、って感じ」

「そう? 結構カッコいいと思うけど」

「いや、私も友達として好きだし、嬉しいけど、このコンクールとか、夏期講習の直前だし、さすがにちょっときついかなって」

「へー」

「え、何?(笑)」

「瑠璃も、そういうこと考えるんだって思って(笑)」

「おい、バカにしないで! もちろん嬉しいけど、自分の気持ちを押し付けられるだけだと、結構される方は辛いし。特に今は、自分の将来が決まるタイミングだし。コンクールも三年間の集大成だしね。だからこそ、今やるべきことに集中したい」

 その瑠璃の言葉が、少し心に刺さった。

 いや、瑠璃自身は、私を傷つけるつもりでは言っていない。

 ただ現時点で、私はコンクールのメンバーに選ばれたものの、部活動には集中できていなかった。特に瑞希からも「最近集中できてないね」と指摘されてしまった。

 何となく、後ろめたさを感じることが多くなってきていた。


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