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第22話

21☆金曜日


金曜日放課後。先輩達がドラムセットとキーボードとベースを屋上に運ぶのを手伝う。

「卯月さん!来ないって言ってたのに」

前田さんがしかめっ面で駆け寄ってきた。

「ごめん。気が変わった」

「!……ぶつぶつ」

ギャラリーもほどよく入り、てっちゃんがマイク持って仕切り出した。

「ボーカルに相応しいのは誰だ!?それから、部活に昇進できるのか?乞うご期待」

吉岡先生が「もう始まっとるのか?」と聞きながら、誰か連れて来る。誰か……お兄ちゃん!?

「なんでお兄ちゃんここに?」

「来年から茶屋高が男女共学になるから、今年の学園祭を盛り上げるためによその高校に招待状持って使節を送ってるんだ。俺は妹がいるからって言ったらここに派遣されちゃって……バンド部があるんならうちの学園祭のときにゲストで来てもらおうかって話してたんだけど」

がたがた。

?なんだろう

あ、し。

しずくちゃんの足ががたがた震えてる。

「無理!お兄ちゃんの前で歌えない」

なんじゃそりゃ?大勢の前なら大丈夫だったのにお兄ちゃんの前では無理?どういう理屈。

はっとする。

忘れていたけれど、しずくちゃんは気が弱くてひ弱なんだ。虚勢はって別人になろうとしてるけど、本当の自分をよく知ってるお兄ちゃんの前では本来の弱いところが出てきてしまうのかも。

「じゃあ、1年1組前田ヒロコさんからよろしく。曲は『時を駆ける少女』」

歌が始まる。上手。音程もしっかりしてる。

歌が終わる。

心臓がばくばくしてる。落ち着いてしずくちゃん。

「次は1年3組卯月しずくさん。曲はVowWowの『Don’t leave me now』」

うわ。コテコテのロック!しずくちゃん、ほんとに歌えるの?

震える手でマイク握って、ステージに立つ。

私、心配でずっとついておこうか?と聞く。しずくちゃんは本当に最初接触したとき、世を儚んで泣きじゃくっていた。みんなそうなんだよって慰めて、立ち上がる勇気が欲しい、時間が欲しいって彼女は言った。だから、この一週間私はついていた。守っていた。

しずくちゃん、今こそ立ち上がれ!

マイクをぎゅっと握りしめて、重低音の中歌い始める。魂を込めて一音一音歌い上げる。

ギャラリーが聞き入っている。息を呑んで全身に鳥肌立てている。

サブボーカルに咄嗟に前田さんが入る。

しずくちゃんと前田さんはニッコリ笑いあう。

大丈夫だね。もう心配ないね。

ちらとお兄ちゃんの方を見る。健一くん、しずくちゃんをお願いね。

「すごいじゃないか、しずく!」

「お兄ちゃん!」

お兄ちゃんに抱きつくしずく。

「おばちゃんが、帰っちゃった」

「えっ。……そうか」

ポロポロしずくは涙をこぼした。

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