20☆カツ丼
「あ、はまぐちぃ」
木曜日。休み時間にしずくちゃんは1組の濱口(壁ドン男)を探し出した。
「なんか用かよ」
「やっぱり金曜日放課後屋上に行く!」
「マジか?」
「うん、ごめんね。この前虫の居所悪くてイライラしてたの」
「そっか。そうこなくちゃ。伝説のボーカルふたたび!ってか」
「買い被りすぎだよ、てっちゃん」
濱口てっちゃん(笑い)。
それにしても、伝説のボーカルふたたびって???
しずくちゃんはてっちゃんと談笑していた。明らかにてっちゃんの視線がしずくちゃんの唇の赤に釘づけなのがわかる。思ってたより純情な男の子と誘惑する女の子だ。私は本当に誤解していたらしい。
「ボーカル志望で、てっちゃんと同じクラスの前田さんも来るから」
「前田?」
「うん、それでね、……」
何やら耳打ち。
「OK。りょーかいした」
てっちゃんが真面目できりりとした顔になる。うわ、いい男すぎて直視できん。
「部員数は多い方がいいしな」とウインク。
じゃあ、と別れて、一人になる。
「おばちゃん、カツ丼って作れる?」
うん。お惣菜でカツだけ買ってきて溶き卵と玉ねぎと調味料でとじてご飯に乗せればできるよ。
「明日、金曜日、お弁当カツ丼にして」
いいけれど、お兄ちゃんのはどうするの?
「お兄ちゃんのも同じやつで!」
はいはい。
しずくちゃんは「決戦は金曜日」を鼻歌で歌いながら生物室に入って行った。
「しずく!ここんとこどうしてたの?顔見せなかったじゃない」
見知らぬ女の子たち。しずくちゃんが言うには同じ中学校出身の子たちらしく、いつもお昼をここで食べていたそうだ。知らなんだ。
「ちょっとゴタゴタしててね。でももうなんとかなりそうだから安心して」
「あー、しずく、お弁当持ってきてる!お母さん忙しくて作ってくれない、ってパンばっかりだったのに」
「親切なおばちゃんが手配してくれた」
!?私のことかいな?
飄々としてるからどんな気持ちでいるのかわかりにくい。
しかし、友だちもいっぱいいるじゃない。心配して損した。
明日。明日私は見届けてから帰ろう。