19☆出て行くもの
学校に着くと、職員室に呼ばれた。
「あー、そのなぁ、お前が今日遅れた理由だが……」
「……」
しずくちゃんは黙っている。
ずっしりと、なにがきても動じない感覚。私は誤解していたのかしら?ひ弱で縮こまるしずくちゃんのイメージと、今のしずくちゃんとは別人のようだった。
「交番から連絡があって、痴漢の鈴木先生が捕まったって?で、お前が被害者だって。校長が職員集めて周知されてな。鈴木先生はしばらく自宅謹慎。多分辞職されるだろう」
こくん。
しずくちゃんはただうなづいた。
「それから、2年の赤井。お前たち面識があったろ?」
「赤井?」
「赤井。赤井彩菜」
「ああ」
「自主退学したよ。お前によろしくってね」
「ああ、そう」
「……驚かないのか?」
「ええ」
「……」
「……」
「行っていいぞ」
「はい。失礼します」
なんか飄々として、クールな感じ。
ねえ、今日はお弁当のおかずなに買うの?
「ええと、冷凍した鮭の切り身とキャベツだけど」
ふうん。
「しずくちゃんも料理してみなよ。食わず嫌いで、案外やってみたら性に合ってるかもよ。作ってあげたら喜んでくれる人もいるじゃない?嬉しそうな顔を見たくはない?」
んー。考えとく。
「これは進歩だ」
るさい。
「ごめん」
廊下から、くるっと向きを変えて女子トイレへ。ポケットからルージュを取り出すと唇に薄くつける。ちょっと、私びっくりしてしまって息をのむ。
おばちゃんが若い頃、化粧しなかったの?
「全然」
じゃあ、社会に出て1番にそれ困らなかった?
「困ったわ」
今から練習。
「ふわー」
ね、私一人でも大丈夫でしょう?
でも……。
!
私、の主導権がしずくちゃんに移った!
「それでも気になる?」
……。
唖然とする私。
「そう言えば、金曜日、私行くから」
行くってどこへ?
「屋上。ボーカルになるの!」
大胆不敵に微笑むしずくちゃん。
鏡に写っているのは炎のように赤いイメージの女の子。
どうなっちゃうの〜?!