13☆エリザベス・ピー
「あと1時間〜」
よりにもよって体育の授業。校舎の周囲を十周。脳に酸素が足りない……。とにかく陸に上がった魚みたいにぱくぱくしながら深呼吸。走ってるつもりでよたよた歩いてる。しずくちゃん、今度からパン2個は食べようか?背に腹は代えられないし。男子に何周も追い抜かれて悔しい。
お兄ちゃんも五百円でやりくりしてるって言うけど大丈夫かな?
「はあー、しんどい」
座り込んで汗びっしょり。
「!?」
なにか、体育教官室から嫌な視線を感じた。身体中ねめまわすような禍々しい視線。
ぶるるい。悪寒に汗が引く。
「卯月」
視線の主が姿を現す。若い教師。でもいやらしい目で私を見ているのがわかる。
「すいません、むこうで担当の先生呼んでるんで」
ざっと立ち上がり猛ダッシュ。どこに隠れていたこの底力?とにかく、逃げろ!
生徒の群れ。キャピキャピして平和そのもの。ほっとする。
ばさばさばさ。
なにか黄色いものが。
「セキセイインコだ!」
「かわいい」
私、転生するときにセキセイインコ飼ってた。あの子ほったらかしてなんてことだろう。私がいなくなったら死んじゃうかしら?
「卯月さんの方に行った!」
「ぴーちゃん」
右手の人差し指にとまらせて、話しかける。慣れているのかゴニョゴニョ喋りそうな気配。
「鳥かごがあったから取ってきます」
女の体育の先生が教官室まで走っていった。
エリザベス。
なんかそんなふうに聞こえた。
「いやいや、あんたはぴーちゃん」
エリザベス。エリザベス、ピー。
なんちゅう名前だ?!
あはははは!
私は腹から笑った。