12☆トイレ
お昼休み売店で競争してやっと買ったチョコチップメロンパン。そして数少ない自販機のコーヒー牛乳。
足りない!!!でもこれで持たせなきゃ一日に五百円もらえるかもらえないかの身分としては、贅沢いってらんない。
しずくちゃん、これじゃ元気出ないよね?へろへろだよね?
理科棟の人気のない女子トイレに行って鏡を見る。青白い顔。唇も薄紫。洗面台で水を両手にすくってごくごく飲む。もちろんばっちくないように洗面台は洗剤で念入りに掃除した。
ここ、人が来なくて居心地いい。
とか言ってたら、人の声が近づいてきた。
トイレのドアが開く前に間一髪個室の一つにこもった。
「前田〜、ほんとに金曜日バンド部員になりに来てくれるの?」
前田?1組の前田さん?
もう一人は誰か知らない女子。
「うん。濱口くんたら、3組の卯月しずくを呼んでるみたいだけど、卯月にその気はなさそうだったし、私が入ってボーカルやるの!」
あーりゃりゃ。お友だち候補だと思ったんだがなぁ。私の目も曇ったかな?
ジャーゴボゴボ。水だけ流して個室から出る。
「そーなの?頑張ってね前田さん」
にかっと笑って手を洗う。
気まずそうな前田さん。
「あの、卯月さん」
「何?」
「ごめんなさい」
いきなりうわーんと泣き出す前田さん。私が泣かしたみたいだ。高校生はデリケートなのか?それともそういう娘?もともとおとなしそうだったし。
「あやまんなくていいよお。前田さんの当然の権利だし、もっと堂々としててよお」
「卯月さんは金曜日どうするの?」
もう一人の娘が聞く。
「私、その日用事あるんだ」
「嘘でしょう?」
「なんで!?」
「屋上で鉢合わせたらどうすんの」
「ほんとに用事!お兄ちゃんとデート」
「え?」
「本当のお兄さん?それとも彼氏いんの?」
2人からすごい剣幕で尋ねられる。
「本当の兄貴!」
「……」
キンコンカンコン
「やっば!遅れる」
3人ともトイレから飛び出していった。