6☆そちらも挙動不審
じゅうじゅう。特上カルビが焼ける。
お兄ちゃんがトングでひっくり返す。
「死んだ父さんに食わせてやりたかったなぁ」
「えっ」
お父さんいないの?
ポロポロ。不憫で涙が流れた。
「……お前、ほんっとーにどーしちゃったの?」
「だって、えぐ。お父さん亡くなったって、ぐすん」
「昨日酔っ払って帰ってきた男は誰なんだよ」
「だましたなー」
ぷんぷん。
お兄ちゃんがじっと私のことを見つめた。
「お前、誰だ」
「……しずく」
「そうじゃないだろう。俺の知っている妹は気弱で、おどおどしていて、やっとこさ生きてたんだ」
「わ、私、やっとこさ生きてる!」
「嘘こけ!それに知っているはずのこといろいろ知らないし、もしかして」
「もしかして?」
ごくり。
「記憶喪失か?」
「あははは」
もっともらしい結論に思わず笑っちゃった。
「おかしくない!」
「ほら、お肉焦げてるよ」
「おっとっと」
「実はね、転生したの」
「小説の話か?」
「ほんとうだよ。本当は50歳のおばちゃんです」
「ふざけるのも大概にしろ!」
あーあ、怒っちゃった。
「ねー、お兄ちゃん」
「なんだよ」
「お肉美味しいね」
「……」
「おばちゃん、今日転生したばっかりで、何にも知らないのよ。健一くん、いろいろ教えてください」
「何が狙いだ?」
「この人生を有意義に生きること」
「妹を返せ」
「私の中の奥底で丸まって眠っているの。いつかしずくちゃんに勇気が湧いたらいつでも私は出ていくから。それまで、できる限り人生を謳歌したいの」
お兄ちゃんは渋面で無言でお肉を食べた。
会計の後、両肩に手を置いて私と向き合うと、「犯罪だけはダメだ。今回は目をつむるけど、しずくが戻った時困らないようにしてやってくれ」と言った。
「もちろん」
私はうなづいた。