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第20話  ベッドでのおしゃべり


  髪の毛の手入れが終わって、二人でベッドへ横になった。眠くなるまで話をしてから、眠るのが習慣になっている。

 先にルルシアが眠ってしまうことが多かったけれど、最近は私の方が眠ってしまうことが多くなってきた。ルルシアの成長を感じる。


 「ねえ、アルシュ」

ルルシアがベッドの中でもそもそと動いて、横にいる私の方へ向いて話しかけてきた。

 「なあに?」

 ルルシアに髪の毛の手入れをしてもらって、良い香りと気持ちよさに少しウトウトとしていた。肌触りの良いリネンの枕カバーにシーツ。上掛けの布団が気持ちいい。


 「ここにたどり着くまで、旅で色々な人に会ったわね」

 ルルシアは、ニコッと微笑んだ。

 「……そうね」

私はルルシアに言われて、今までの旅のことを思い出した。



 ルルシアを助けたときお世話になった、宿屋のおかみさんへ会いに行けたのは良かった。私達の元気な姿と、ルルシアの成長した姿を見て「良かったねぇ!」と言ってくれた。

 未だに誰がルルシアにこんな仕打ちをしたのかわからない。

痩せて細かった体は栄養状態が悪かったけれど、お医者様に診てもらえた。お薬や栄養のある食事で何とか健康を取り戻せた。

 お礼の品代わりに、お土産や色々なものを渡したら喜んでいたので良かった。


「チーズサンドのお店は覚えている?」

 私がルルシアに言うと頷いた。

「チーズサンドのお店? うん。チーズサンド、美味しかった」

 私はルルシアに微笑んだ。あの町で辛い思いをしたことは忘れて欲しいけれど、記憶力が良いらしいルルシアは覚えているだろう。

 私はわざと、チーズサンドのお店の話を言った。


 チーズサンドのお店にも顔を出してお礼を言ったら、どうやら私のを聞いてお店に隣国から旅行者が殺到して繁盛しているそうだ。町も、さらに活気ついていた。

 そこで食事をしたら、またたくさんのチーズサンドをいただいてしまった。ルルシアも気に入ってたくさん食べていた。


 あの町の人達は辛い時期を耐えてきた。明るく、たくましい。私が旅をして初めて訪れた町で良かった。ルルシアには、辛い出来事のあった町かもしれないけれど……。

旅で寄った最後の町があの町で良かった。宿屋のおかみさんの教えてもらったことは、とても役に立った。


 私は他の街で色々なことを学んだ。良いことも、悪いことも。毎日、その日にあったことを記してある。



 小さな町はみんな、顔なじみのせいか温かく世話好きな人が多かった。おまけをしてもらったり、ルルシアみたいな小さい子といると優しくしてもらったりした。

 大きな街へだんだん近づくと治安が悪くなって、気をつけねばならなくなった。

 とくにルルシアみたいな小さい子は狙われやすく、何度か危険な目にあった。私が最小限の魔法でをしたから大丈夫だったけれど。



 「アルシュ? 眠いの?」

 「あ……、ごめん。思い出していたの。ルルシアと旅をしたこと」


 少し眠っていたのかもしれない。ルルシアは私と話がしたいのか、ジッと見ていた。

 「色んな町で、お菓子をもらったでしょ? それで私はお菓子を作りたくなったの」

 ルルシアはお菓子を作る、きっかけを教えてくれた。私は知らなかったことだ。

 「そうなの?」

 「うん。甘くてカラフルで食べると幸せになるから、アルシュにも幸せになって欲しくて」

 幸せになって欲しいと言った、このときのルルシアの笑顔は忘れない。


 だから一生懸命に練習して、私に食べさせてくれていたのね。


 「私はルルシアといられて、幸せよ。もちろんルルシアの手作りのお菓子を食べても幸せ」

 私は心から思っていることをルルシアに伝えた。

 「アルシュ――!」

 「わ!」


 ルルシアが私に向かって飛びついてきた。ベッドが揺れて私は焦った。

 「大好き――――!」

 抱きついて仰向けに倒された。ルルシアは私の体の上にかぶさってギュッとしている。重くはないからいいけど、ルルシアの髪の毛が首に触ってくすぐったい。

 それに、柔らかい胸を感じた。

 私より胸が大きくなってきている。人間の女の子の成長は早いようだ。


 ルルシアの体は温かく良い香りがするし、柔らかくて肌が滑らかでお互いの肌が触れていると心地良い……。

 「アルシュ、良い香りがする……」

 ルルシアはそう言って、スン……と香りを嗅いだ。

 「ルルシアも、良い香りがするわよ。同じせっけんを使っているけど、ちょっとお互いの香りが違うのね」


 「うん。……私、アルシュの香り、好き」

 ルルシアは私に上半身を乗せたまま、顔の近くで話した。

「……」

 ルルシアの吐息が耳にかかって、くすぐったかった。


 「旅をしているとき、いつもアルシュは私を守ってくれた。嬉しかったよ」

 キュッ、と私の肩の寝間着を握った。

「あたりまえよ。ルルシアは私の大事な……」

 ルルシアは私の大事な……? 

 「家族なのだから」

 そう言うとルルシアが、ピクッ! と動いた。なんだろう。家族……と言って、よくなかったのかしら。


 「家族……だよね。嬉しい、アルシュ」

 ルルシアの手が私の背中へまわって、抱きしめてきた。ちょっと苦しいくらいだった。

 「ルルシア、ちょっと痛い」

 そう言うと手を緩めてくれた。

 「あ、ごめんなさい! 苦しいね」


 大丈夫よと言って、ルルシアの方へ顔を向けた。

 「あ」

 鼻と鼻がぶつかって、二人は笑った。


 「そろそろ眠りましょうか?」

 「うん」

 時間が経つのは早い。明日も早いし、眠るように話しかけた。ルルシアは私の上から下がってすぐ隣にくっついていた。


お日様に干してふかふかの枕が気持ち良くて、眠気に誘われた。

 「お休み、ルルシア……」

 私はすぐに眠りに落ちたようだ。


 「お休みなさい。アルシュ」

頬に柔らかい何かが、触れた気がした。



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