髪の毛の手入れが終わって、二人でベッドへ横になった。眠くなるまで話をしてから、眠るのが習慣になっている。
先にルルシアが眠ってしまうことが多かったけれど、最近は私の方が眠ってしまうことが多くなってきた。ルルシアの成長を感じる。
「ねえ、アルシュ」
ルルシアがベッドの中でもそもそと動いて、横にいる私の方へ向いて話しかけてきた。
「なあに?」
ルルシアに髪の毛の手入れをしてもらって、良い香りと気持ちよさに少しウトウトとしていた。肌触りの良いリネンの枕カバーにシーツ。上掛けの布団が気持ちいい。
「
ルルシアは、ニコッと微笑んだ。
「……そうね」
私はルルシアに言われて、今までの旅のことを思い出した。
ルルシアを助けたときお世話になった、宿屋のおかみさんへ会いに行けたのは良かった。私達の元気な姿と、ルルシアの成長した姿を見て「良かったねぇ!」と言ってくれた。
未だに誰がルルシアにこんな仕打ちをしたのかわからない。
痩せて細かった体は栄養状態が悪かったけれど、お医者様に診てもらえた。お薬や栄養のある食事で何とか健康を取り戻せた。
お礼の品代わりに、お土産や色々なものを渡したら喜んでいたので良かった。
「チーズサンドのお店は覚えている?」
私がルルシアに言うと頷いた。
「チーズサンドのお店? うん。チーズサンド、美味しかった」
私はルルシアに微笑んだ。あの町で辛い思いをしたことは忘れて欲しいけれど、記憶力が良いらしいルルシアは覚えているだろう。
私はわざと、チーズサンドのお店の話を言った。
チーズサンドのお店にも顔を出してお礼を言ったら、どうやら私の
そこで食事をしたら、またたくさんのチーズサンドをいただいてしまった。ルルシアも気に入ってたくさん食べていた。
あの町の人達は辛い時期を耐えてきた。明るく、たくましい。私が旅をして初めて訪れた町で良かった。ルルシアには、辛い出来事のあった町かもしれないけれど……。
旅で寄った最後の町があの町で良かった。宿屋のおかみさんの教えてもらったことは、とても役に立った。
私は他の街で色々なことを学んだ。良いことも、悪いことも。毎日、その日にあったことを記してある。
小さな町はみんな、顔なじみのせいか温かく世話好きな人が多かった。おまけをしてもらったり、ルルシアみたいな小さい子といると優しくしてもらったりした。
大きな街へだんだん近づくと治安が悪くなって、気をつけねばならなくなった。
とくにルルシアみたいな小さい子は狙われやすく、何度か危険な目にあった。私が最小限の魔法で
「アルシュ? 眠いの?」
「あ……、ごめん。思い出していたの。ルルシアと旅をしたこと」
少し眠っていたのかもしれない。ルルシアは私と話がしたいのか、ジッと見ていた。
「色んな町で、お菓子をもらったでしょ? それで私はお菓子を作りたくなったの」
ルルシアはお菓子を作る、きっかけを教えてくれた。私は知らなかったことだ。
「そうなの?」
「うん。甘くてカラフルで食べると幸せになるから、アルシュにも幸せになって欲しくて」
幸せになって欲しいと言った、このときのルルシアの笑顔は忘れない。
だから一生懸命に練習して、私に食べさせてくれていたのね。
「私はルルシアといられて、幸せよ。もちろんルルシアの手作りのお菓子を食べても幸せ」
私は心から思っていることをルルシアに伝えた。
「アルシュ――!」
「わ!」
ルルシアが私に向かって飛びついてきた。ベッドが揺れて私は焦った。
「大好き――――!」
抱きついて仰向けに倒された。ルルシアは私の体の上にかぶさってギュッとしている。重くはないからいいけど、ルルシアの髪の毛が首に触ってくすぐったい。
それに、柔らかい胸を感じた。
私より胸が大きくなってきている。人間の女の子の成長は早いようだ。
ルルシアの体は温かく良い香りがするし、柔らかくて肌が滑らかでお互いの肌が触れていると心地良い……。
「アルシュ、良い香りがする……」
ルルシアはそう言って、スン……と香りを嗅いだ。
「ルルシアも、良い香りがするわよ。同じせっけんを使っているけど、ちょっとお互いの香りが違うのね」
「うん。……私、アルシュの香り、好き」
ルルシアは私に上半身を乗せたまま、顔の近くで話した。
「……」
ルルシアの吐息が耳にかかって、くすぐったかった。
「旅をしているとき、いつもアルシュは私を守ってくれた。嬉しかったよ」
キュッ、と私の肩の寝間着を握った。
「あたりまえよ。ルルシアは私の大事な……」
ルルシアは私の大事な……?
「家族なのだから」
そう言うとルルシアが、ピクッ! と動いた。なんだろう。家族……と言って、よくなかったのかしら。
「家族……だよね。嬉しい、アルシュ」
ルルシアの手が私の背中へまわって、抱きしめてきた。ちょっと苦しいくらいだった。
「ルルシア、ちょっと痛い」
そう言うと手を緩めてくれた。
「あ、ごめんなさい! 苦しいね」
大丈夫よと言って、ルルシアの方へ顔を向けた。
「あ」
鼻と鼻がぶつかって、二人は笑った。
「そろそろ眠りましょうか?」
「うん」
時間が経つのは早い。明日も早いし、眠るように話しかけた。ルルシアは私の上から下がってすぐ隣にくっついていた。
お日様に干してふかふかの枕が気持ち良くて、眠気に誘われた。
「お休み、ルルシア……」
私はすぐに眠りに落ちたようだ。
「お休みなさい。アルシュ」
頬に柔らかい何かが、触れた気がした。