夜になると私達は、髪の色と瞳の色を元の色へ戻す。
ルルシアは金の髪色へ。私は銀色の髪色へ。
ルルシアの輝く金の髪は肩ぐらいの長さになっていて、少し毛先が波打っている。肩以上に伸ばせば、誰もが振り返る美しい髪だろう。
髪だけじゃなく瞳の色も美しい。美しいルルシアは、私の自慢できる家族だ。
まだ幼いけれど、数年もしたら求婚者が絶えないだろう。
素敵な相手が見つかって、そうしたら私は……。
「ねえ、アルシュ! 髪の毛が絡まっちゃった」
ルルシアの声で、考え事をしていた私はハッとした。見ると、ルルシアの後ろの髪の毛が絡まっていた。
「とってあげるわ」
ドレッサーに座っていたルルシアの後ろへ立って、絡まった髪の毛を手に取る。ふわりと柔らかく、細い髪は触り心地がいい。
「できそう?」
「ん……待って」
近づいて指で、絡まった髪の毛をほどいていく。触り心地が良いから……、ずっと触っていたい。ちょうど私の姿はルルシアの後ろにあるから、鏡には映ってなかった。
それをいいことに私は、ルルシアの髪の毛にキスをした。
ふわりと、同じせっけんを使っているはずなのに私と違う、いい香りがした。
「アルシュ?」
「……ほぐれたわよ。ついでに髪の毛を梳かしてあげるわ」
私は少し離れて、鏡越しにルルシアへ話しかけた。嬉しい! と言って、ルルシアは私へブラシを渡してくれた。
優しく梳くと、髪に艶が出てくる。
ルルシアの髪の毛の手入れしたときから、ルルシアに合ったハーブの化粧水からクリーム、オイルなど調合して作っている。ルルシアを助けたときのごわごわした髪の毛から、ふわふわのきれいな髪の毛になった。
「はい。できましたよ」
うっとりとしていたルルシアは、ハッとしたように私からブラシを受け取った。
「ありがとう。気持ち良かった」
振り返って私に礼を言う。
「じゃ、次は私の番ね!」
「え?」
ルルシアはドレッサーの前から立ち上がって、私をドレッサーのまえの椅子へ座らせた。
「アルシュの髪の毛を梳かしてあげる!」
やけに張り切っているルルシアに、断ることはできなかった。
「じゃあ……お願いします」
ストンとドレッサーの前の椅子に座ると、ルルシアが私の髪の毛を手に取った。
「前からアルシュの髪の毛を、触りたかったの」
そんな事を言いながら髪の毛を梳かし始めた。鏡に映るルルシアはご機嫌だった。鼻歌まで歌っている。そんなに触りたかったのか……。
「アルシュの銀の長い髪はきれいで、憧れなの。長くて真っすぐでサラサラしていて。誰にも見せたくない」
指に髪の毛を絡ませてルルシアは言った。
「日中は魔法で、二人とも茶色にしているでしょう?」
誰にも見せたくないと言った、ルルシアの言葉が気になった。鏡越しに、ルルシアを見て言ったら顔を逸らされた。
「そうね」
なぜか鏡越しに見たルルシアは泣きそうな顔をしていた。私はそんなルルシアが気になって声をかけようとした。
「ル……「ねえ! 少しオイルを塗ってもいいかしら?」」
話を変えたルルシアに戸惑いながら私は返事をした。
「え、ええ。いいわよ」
ドレッサーに並んでいる、ハーブオイルの瓶を取ってふたを開けた。
キュッ、という音がして、ルルシアは手のひらに数滴ハーブオイルを垂らした。ハーブオイルの良い香り漂ってきてホッとする。
オイルをつけたルルシアの細い指が髪の毛に触れていく。上から下へ。
「痛くない?」
「大丈夫よ」
静かな部屋の中。ルルシアは静かに、何か歌いながら髪の毛を手入れしてくれた。あまり聞いたことのない旋律だった。
育ててくれた人間の夫婦が歌ってくれた歌でも、エルフの歌でもなかった。ずっと聞いていたくて、その歌は? と聞けなかった。
「はい。できた」
さらりとした私の髪の毛を梳いて、離れた。名残惜しいような、持って触って欲しいような気持だった。
「サラサラになったわ。ありがとう、ルルシア」
私がお礼を言うと、ルルシアは「どういたしまして」と、得意そうに返事をした。いつもよりサラサラな手触りになったようだ。
「ねえ、三つ編みをしていいかしら?」
「え、今?」
頷くルルシア。よほど私の髪の毛に触りたかったのだろう。私はいいわよと言って、ルルシアの言う通りにした。
「楽しい?」
また歌いながら髪の毛を触っていた。思わずルルシアに聞いてしまった。
「楽しいわ」
ルルシアが飽きるまで、髪の毛を触らせてあげた。
もうそろそろ眠る時間。優しく髪の毛を触られてウトウトと、眠気がしてきた。
「今度、アルシュの髪の毛を結わせてね」
「できるかしら?」
長い髪の毛を結うのは難しい。ルルシアに出来るかしらと、考えた。
「あら、練習するのよ。何回も。いいでしょ?」
ルルシアは楽しそうに言った。なるほど……。
女の子の髪の毛は色々アレンジできて楽しい。自分でできたり、人にやってあげたりしてもいい。
「いいわ。練習して」
私はルルシアに言った。ルルシアも髪の毛を伸ばして欲しいという願望も込めていた。
「やった! じゃあ明日もよろしく」
もしかして毎日、練習するのかしら……と私は思った。