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第19話  二人の髪の毛のお手入れ



 夜になると私達は、髪の色と瞳の色を元の色へ戻す。

ルルシアは金の髪色へ。私は銀色の髪色へ。


 ルルシアの輝く金の髪は肩ぐらいの長さになっていて、少し毛先が波打っている。肩以上に伸ばせば、誰もが振り返る美しい髪だろう。

 髪だけじゃなく瞳の色も美しい。美しいルルシアは、私の自慢できる家族だ。

まだ幼いけれど、数年もしたら求婚者が絶えないだろう。


 素敵な相手が見つかって、そうしたら私は……。


 「ねえ、アルシュ! 髪の毛が絡まっちゃった」

 ルルシアの声で、考え事をしていた私はハッとした。見ると、ルルシアの後ろの髪の毛が絡まっていた。

 「とってあげるわ」


 ドレッサーに座っていたルルシアの後ろへ立って、絡まった髪の毛を手に取る。ふわりと柔らかく、細い髪は触り心地がいい。

 「できそう?」

 「ん……待って」


 近づいて指で、絡まった髪の毛をほどいていく。触り心地が良いから……、ずっと触っていたい。ちょうど私の姿はルルシアの後ろにあるから、鏡には映ってなかった。

 それをいいことに私は、ルルシアの髪の毛にキスをした。

ふわりと、同じせっけんを使っているはずなのに私と違う、いい香りがした。


 「アルシュ?」

 「……ほぐれたわよ。ついでに髪の毛を梳かしてあげるわ」

 私は少し離れて、鏡越しにルルシアへ話しかけた。嬉しい! と言って、ルルシアは私へブラシを渡してくれた。


 優しく梳くと、髪に艶が出てくる。

ルルシアの髪の毛の手入れしたときから、ルルシアに合ったハーブの化粧水からクリーム、オイルなど調合して作っている。ルルシアを助けたときのごわごわした髪の毛から、ふわふわのきれいな髪の毛になった。


 「はい。できましたよ」

 うっとりとしていたルルシアは、ハッとしたように私からブラシを受け取った。

 「ありがとう。気持ち良かった」

 振り返って私に礼を言う。


 「じゃ、次は私の番ね!」

 「え?」

 ルルシアはドレッサーの前から立ち上がって、私をドレッサーのまえの椅子へ座らせた。


 「アルシュの髪の毛を梳かしてあげる!」

 やけに張り切っているルルシアに、断ることはできなかった。

 「じゃあ……お願いします」

 ストンとドレッサーの前の椅子に座ると、ルルシアが私の髪の毛を手に取った。


 「前からアルシュの髪の毛を、触りたかったの」

 そんな事を言いながら髪の毛を梳かし始めた。鏡に映るルルシアはご機嫌だった。鼻歌まで歌っている。そんなに触りたかったのか……。


 「アルシュの銀の長い髪はきれいで、憧れなの。長くて真っすぐでサラサラしていて。誰にも見せたくない」

 指に髪の毛を絡ませてルルシアは言った。

 「日中は魔法で、二人とも茶色にしているでしょう?」

 誰にも見せたくないと言った、ルルシアの言葉が気になった。鏡越しに、ルルシアを見て言ったら顔を逸らされた。


 「そうね」

 なぜか鏡越しに見たルルシアは泣きそうな顔をしていた。私はそんなルルシアが気になって声をかけようとした。

 「ル……「ねえ! 少しオイルを塗ってもいいかしら?」」


 話を変えたルルシアに戸惑いながら私は返事をした。

 「え、ええ。いいわよ」

 ドレッサーに並んでいる、ハーブオイルの瓶を取ってふたを開けた。


 キュッ、という音がして、ルルシアは手のひらに数滴ハーブオイルを垂らした。ハーブオイルの良い香り漂ってきてホッとする。

 オイルをつけたルルシアの細い指が髪の毛に触れていく。上から下へ。

 「痛くない?」

 「大丈夫よ」


 静かな部屋の中。ルルシアは静かに、何か歌いながら髪の毛を手入れしてくれた。あまり聞いたことのない旋律だった。

 育ててくれた人間の夫婦が歌ってくれた歌でも、エルフの歌でもなかった。ずっと聞いていたくて、その歌は? と聞けなかった。


 「はい。できた」

 さらりとした私の髪の毛を梳いて、離れた。名残惜しいような、持って触って欲しいような気持だった。

 「サラサラになったわ。ありがとう、ルルシア」

私がお礼を言うと、ルルシアは「どういたしまして」と、得意そうに返事をした。いつもよりサラサラな手触りになったようだ。


 「ねえ、三つ編みをしていいかしら?」

 「え、今?」

 頷くルルシア。よほど私の髪の毛に触りたかったのだろう。私はいいわよと言って、ルルシアの言う通りにした。


 「楽しい?」

 また歌いながら髪の毛を触っていた。思わずルルシアに聞いてしまった。

 「楽しいわ」

 ルルシアが飽きるまで、髪の毛を触らせてあげた。


 もうそろそろ眠る時間。優しく髪の毛を触られてウトウトと、眠気がしてきた。

 「今度、アルシュの髪の毛を結わせてね」

 「できるかしら?」

 長い髪の毛を結うのは難しい。ルルシアに出来るかしらと、考えた。


 「あら、練習するのよ。何回も。いいでしょ?」

 ルルシアは楽しそうに言った。なるほど……。


 女の子の髪の毛は色々アレンジできて楽しい。自分でできたり、人にやってあげたりしてもいい。

 「いいわ。練習して」

 私はルルシアに言った。ルルシアも髪の毛を伸ばして欲しいという願望も込めていた。

 「やった! じゃあ明日もよろしく」


 もしかして毎日、練習するのかしら……と私は思った。

















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