地平線を何も考えないで眺めていた。
美味しいホットドッグを食べてレモネードを飲みながら、時々ルルシアの方を見て微笑んだ。
海の匂い、繰り返す波の音。土とは違う砂浜での、足の裏の感触。何もかも初めてだった。
「そういえば海って『塩辛い』って本で読んだけど、そうなのかしら?」
私は昔、本で読んだ『海』のページを思い出した。そんなことが書いていたはずだ。
「そうなの? じゃあ、私が試してみる」
「え!」
すばやくルルシアが立ち上がって駆け出し、波打ち際に行ってしまった。肩ぐらいの長さの髪の毛が、風に跳ねている。
私は座っていた場所を片付けて、ルルシアのところまでいった。ルルシアは、波が近づくたびに声をあげていた。両手をつけてすくおうとしていたけど、波打ち際ではすぐに波が引いていくので、うまくすくえないようだ。
「もう! うまく、すくえない!」
プクっと頬を膨らませていた。ルルシアは波が来ないとこまで下がって、靴を脱いだ。
振り返ってルルシアを見ると、腕まくりとスカートのウエスト部分を巻いて裾を短くした。まさか?
「ルルシア?」
ずんずんと波打ち際まで行って、ぴちゃぴちゃと水音を立てて足が濡れていくのをかまわず進んだ。
「ほら見て! すくえた」
海に足首まで浸かってすくって見せた。両手を合わせてすくった量は、試して舐めてみる量ではない。
ルルシアが、そのすくったものを飲もうとした。
「あっ! 飲んではダメよ!」
私は慌ててルルシアに注意した。ビクン! としたルルシアは口に含んでとまった。
「ああ――! 塩からいぃ――いい!!」
舌を出してすごい顔をしていた。それはそうだ。海は塩辛いらしいから。
「お水を持ってきているわ。波の来ないところまで戻りましょう」
「うん……」
ルルシアは涙目で靴を持って私達は、ホットドッグを食べたベンチまで戻った。
「これで足についた砂を払って。はい、お水。口をゆすぐといいわよ」
座ってルルシアに、乾いた布を渡して足についた砂を落とすように言った。お水もコップに入れて横へ置いた。
「ありがとう……」
すぐにルルシアは水を口に含んで口をゆすいだ。落ち着いてから、足についた砂を払ってきれいにした。
「アルシュも試してみるといいわよ」
よほど塩辛かったのか、涙目で言ってきた。たまに無鉄砲な行動をするルルシア。
「そうね」
私は周りに人がいないか確かめて、人差し指を立てた。
『……』
呪文を唱えて、海の水を指先に運んだ。それをペロッと舐めてみた。
「本当! 塩辛いわね」
指先のものを舐めただけでこの塩辛さ。口に含んだルルシアは、さぞかなり塩辛かっただろう。
「それ、ずるい!」
ルルシアは、私が魔法を使ったことをずるいと言った。まあ、気持ちはわからなくない。
「ずるくありません」
私はルルシアに言った。
「もう!」と言って、足を拭いてきれいになったので靴を履いた。でもルルシアは怒ってはいない。
「名残惜しいけど、そろそろ帰りましょうか……?」
ずいぶんゆっくりできた。乗り合い馬車の時間もあるし、そろそろ帰らなくてはいけない。
「あ、もう……? あっ!?」
ルルシアは名残惜しそうにしていた。途中、何かに気が付いて言いかけた。
「どうしたの?」
急にそわそわと、様子のおかしいルルシアに聞いた。ううん、と顔を左右に振った。
「早く帰りましょうか! 乗り合い馬車の集合場所へ急ぎましょう!」
「え? ええ」
私は一つ遅い時間の乗り合い馬車に乗るつもりだったけれど、ルルシアが急ぐように言ったのでそうした。なにか用事でも思い出したのかしら? と思った。
時間がぎりぎりだったので、走って集合場所へいった。
「すみません! 乗ります」
すぐに出発だったようで乗り遅れる所だった。この時間は私達で乗ったのが最後で、他に知らない人が三人ほど乗っていた。乗り合い馬車が出発して、無事乗れてホッとした。
遠くなる海を今日は最後と見ていたら、何かの集団が見えた。馬に乗っているようで、あれは……。どこかの騎士? みたいだ。馬に乗って騎士服らしいのを着ているのが、遠目で見えた。どこの騎士たちか目を凝らして見ようとした。
「ねえ、アルシュ! また来たいわね」
ルルシアに話しかけられたので、振り返ってルルシアの方を向いた。
「そうね。新鮮な魚も買えたし、海もきれいだったわね。また来ましょうね」
返事をするとルルシアが魚について色々話し出したので、結局どこの騎士たちかわからなかった。私はルルシアの話に乗って、魚をどう料理するか意見を出したりした。
楽しい初めての海のお出かけは終わって、無事に町に着いた。
「少し買い物をして帰りましょうか? 疲れていない?」
「ええ。大丈夫!」
ルルシアは疲れていないようなので、買い物をして帰ることにした。
なるべく自分たちで作れるものは作りたいけれど、限界がある。そんな時はこの町で買い足すことにしているし、他のお店を見ることで自分たちのお店の参考になったり、流行り物がわかったりする。適正の値段を付けるにもいい。あとルルシアとの買い物は楽しいし。
「お店の材料とか、その他色々買っていきたいわ」
まだ夕暮れには早いから、買い物をして帰ろう。私達は話しながら、たくさんのお店をみてまわった。