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第17話  海からの帰り


 地平線を何も考えないで眺めていた。

美味しいホットドッグを食べてレモネードを飲みながら、時々ルルシアの方を見て微笑んだ。

 海の匂い、繰り返す波の音。土とは違う砂浜での、足の裏の感触。何もかも初めてだった。

 「そういえば海って『塩辛い』って本で読んだけど、そうなのかしら?」

 私は昔、本で読んだ『海』のページを思い出した。そんなことが書いていたはずだ。


 「そうなの? じゃあ、私が試してみる」

 「え!」

 すばやくルルシアが立ち上がって駆け出し、波打ち際に行ってしまった。肩ぐらいの長さの髪の毛が、風に跳ねている。


 私は座っていた場所を片付けて、ルルシアのところまでいった。ルルシアは、波が近づくたびに声をあげていた。両手をつけてすくおうとしていたけど、波打ち際ではすぐに波が引いていくので、うまくすくえないようだ。

 「もう! うまく、すくえない!」

 プクっと頬を膨らませていた。ルルシアは波が来ないとこまで下がって、靴を脱いだ。


 振り返ってルルシアを見ると、腕まくりとスカートのウエスト部分を巻いて裾を短くした。まさか?

 「ルルシア?」

 ずんずんと波打ち際まで行って、ぴちゃぴちゃと水音を立てて足が濡れていくのをかまわず進んだ。

 「ほら見て! すくえた」

 海に足首まで浸かってすくって見せた。両手を合わせてすくった量は、試して舐めてみる量ではない。


 ルルシアが、そのすくったものを飲もうとした。

 「あっ! 飲んではダメよ!」

 私は慌ててルルシアに注意した。ビクン! としたルルシアは口に含んでとまった。

 「ああ――! 塩からいぃ――いい!!」

 舌を出してすごい顔をしていた。それはそうだ。海は塩辛いらしいから。


 「お水を持ってきているわ。波の来ないところまで戻りましょう」

 「うん……」

 ルルシアは涙目で靴を持って私達は、ホットドッグを食べたベンチまで戻った。


 「これで足についた砂を払って。はい、お水。口をゆすぐといいわよ」

 座ってルルシアに、乾いた布を渡して足についた砂を落とすように言った。お水もコップに入れて横へ置いた。

 「ありがとう……」

 すぐにルルシアは水を口に含んで口をゆすいだ。落ち着いてから、足についた砂を払ってきれいにした。


 「アルシュも試してみるといいわよ」

 よほど塩辛かったのか、涙目で言ってきた。たまに無鉄砲な行動をするルルシア。

 「そうね」

 私は周りに人がいないか確かめて、人差し指を立てた。

『……』

 呪文を唱えて、海の水を指先に運んだ。それをペロッと舐めてみた。


 「本当! 塩辛いわね」

 指先のものを舐めただけでこの塩辛さ。口に含んだルルシアは、さぞかなり塩辛かっただろう。

 「それ、ずるい!」

 ルルシアは、私が魔法を使ったことをずるいと言った。まあ、気持ちはわからなくない。


 「ずるくありません」

 私はルルシアに言った。

 「もう!」と言って、足を拭いてきれいになったので靴を履いた。でもルルシアは怒ってはいない。


 「名残惜しいけど、そろそろ帰りましょうか……?」

 ずいぶんゆっくりできた。乗り合い馬車の時間もあるし、そろそろ帰らなくてはいけない。

 「あ、もう……? あっ!?」

 ルルシアは名残惜しそうにしていた。途中、何かに気が付いて言いかけた。


 「どうしたの?」

 急にそわそわと、様子のおかしいルルシアに聞いた。ううん、と顔を左右に振った。

 「早く帰りましょうか! 乗り合い馬車の集合場所へ急ぎましょう!」

 「え? ええ」


 私は一つ遅い時間の乗り合い馬車に乗るつもりだったけれど、ルルシアが急ぐように言ったのでそうした。なにか用事でも思い出したのかしら? と思った。


 時間がぎりぎりだったので、走って集合場所へいった。

 「すみません! 乗ります」

 すぐに出発だったようで乗り遅れる所だった。この時間は私達で乗ったのが最後で、他に知らない人が三人ほど乗っていた。乗り合い馬車が出発して、無事乗れてホッとした。


 遠くなる海を今日は最後と見ていたら、何かの集団が見えた。馬に乗っているようで、あれは……。どこかの騎士? みたいだ。馬に乗って騎士服らしいのを着ているのが、遠目で見えた。どこの騎士たちか目を凝らして見ようとした。


 「ねえ、アルシュ! また来たいわね」

 ルルシアに話しかけられたので、振り返ってルルシアの方を向いた。

 「そうね。新鮮な魚も買えたし、海もきれいだったわね。また来ましょうね」

 返事をするとルルシアが魚について色々話し出したので、結局どこの騎士たちかわからなかった。私はルルシアの話に乗って、魚をどう料理するか意見を出したりした。



 楽しい初めての海のお出かけは終わって、無事に町に着いた。


 「少し買い物をして帰りましょうか? 疲れていない?」

 「ええ。大丈夫!」

 ルルシアは疲れていないようなので、買い物をして帰ることにした。


 なるべく自分たちで作れるものは作りたいけれど、限界がある。そんな時はこの町で買い足すことにしているし、他のお店を見ることで自分たちのお店の参考になったり、流行り物がわかったりする。適正の値段を付けるにもいい。あとルルシアとの買い物は楽しいし。


 「お店の材料とか、その他色々買っていきたいわ」

 まだ夕暮れには早いから、買い物をして帰ろう。私達は話しながら、たくさんのお店をみてまわった。





















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