賑やかな町の商店街は、家から歩いてすぐに着く。ここで買い物をすれば食料品からキッチン道具、服や身の回りの物など派手なものはないけど大体がそろう。
「帰りに買い物しないと、荷物になるわね」
色々買いそろえたい物ばかり。だけど今日はこれから海を見に行く予定だ。ルルシアもお店の品物に目がいっていた。
「そうだね。これから海に行くし!」
そう言って私の腕にしがみついてきた。楽しそうだ。
美味しそうな食べ物屋さんの屋台の匂いに、釣られそうになるけど我慢。お弁当を作って来たのでそれを食べる。
「あ! あの乗り合い馬車かも?」
途中で、海へ行く乗り合い馬車のある場所を聞いていた。数人、並んでいた。
「この乗り合い馬車は、海へ行きますか?」
並んでいた、優しそうな子供連れの奥さんに聞いた。
「ええ、行きますよ」
良かった。海へ行く乗り合い馬車はここで合っていた。私は子供連れの奥さんにお礼を言った。
「出発します――!」
乗り合い馬車は、素朴な幌馬車だった。私とルルシアは乗り込んで隣同士で座った。ガタゴトとゆっくり走り出したけれど、思ったより乗り心地は悪くなかった。
しばらく乗っていると子供連れの奥さんに話しかけられた。
「海に行くのは初めてかしら?」
隣にいる男の子はニコニコしている。
「はい。海を見てみたくて」
「大きな船のない小さな漁港だけれど、新鮮な魚は美味しいわよ。たまに私は、晩御飯のおかずを買いに行くの」
「ね!」
奥さんと子供はお互いに頷いた。
「そうなんですね。楽しみです」
新鮮な魚か……。私達も魚を買って帰るのもいいかも?
「帰りに買って帰りましょうか」
ルルシアも同じことを考えたみたいだ。
「そうしましょうか」
奥さんは安い魚屋さんを教えてくれた。馬車の中で奥さんと他の乗りあった人たちと、お得な情報を交換して楽しく過ごせた。
「またご縁があったらお会いしましょう」
「ええ!」
この国に伝わる別れるときのセリフ。
「またご縁があったらお会いしましょう」
「また」
キラキラ光る波。海が見えてきて私達は見入っていた。乗り合い馬車を降りて私達はとりあえず砂浜へ向かった。
遠くに見える漁港は歩いていけそう。子供連れの奥さんに聞いていたとおり、大きな船は泊まってないようだ。
「これが砂浜……。海……!」
ルルシアは波打ち際へ走っていった。絵本や本で読んでいた想像の海よりも広く、青かった。ルルシアの本来の瞳の色に近かった。
「ルルシア! 濡れないようにね!」
波が考えているよりこちらへ向かってくる。
「は――い。きゃっ!」
靴が濡れそうになって、ルルシアは慌てて走った。そんな姿を見て微笑んだ。
「も――!」
ルルシアは長いスカートの、裾を掴んで波打ち際を行ったり来たりと波と戯れていた。髪の毛と瞳は私と同じく魔法で茶色にして、服装は町娘が着る一般的なブラウスに長いスカートを着用した。町の娘は、ブラウスにリボンやスカーフなど着けて個人的におしゃれを楽しんでいる。
私は胸元へブローチをつけて、ルルシアはリボンを着けてみた。ルルシアに似合っていて可愛い。
「アルシュ!」
ルルシアがしゃがんで何かを拾って駆け寄ってきた。
「これみて」
ルルシアの手のひらに、小さな貝殻らしい破片が乗っていた。波のおかげで磨かれたのかとがってはなかった。白い貝殻の破片は真珠色に光っていた。
爪の先ほどの大きさの貝殻の破片は二つあった。
「アルシュへあげる! ピアスにでもしてみて」
そう言って私に貝殻の破片を渡してくれた。きれいな貝殻だった。
「あり、がとう……」
私は嬉しくなって微笑んでいた。ルルシアからのプレゼントは嬉しかった。小さな袋に入れてカバンへしまった。家に帰ったらアクセサリーを作ろう。
「漁港へ行こう、アルシュ!」
私はルルシアに手を引かれて、漁港まで駆け足でいった。
「ちょっと……。そんなに走らなくても」
ルルシアは、はしゃいでいるようだ。
「ごめんなさい! 楽しくて!」
ニコニコと微笑むルルシアは可愛かった。
漁港の近くのお店には、たくさんの魚たちが並んでいた。見たこともない魚がならんでいてルルシアはお店の人に聞いていた。
「この魚は、ムニエルにするとおいしいよ!」
ムニエル食べたい……。私はルルシアを見た。
「私もムニエルにして食べたいな」
その一言で魚を買った。今日の夜ご飯は魚のムニエルに決まった。
お店をまわって色々な魚を見てまわった。自分たちが調理できそうな魚を買ってカバンへ入れた。こっそり氷魔法を使って凍らせた。
「お腹空いたね。どこかで作って来たお弁当を食べようか?」
もうお昼を過ぎたのでそろそろお腹が空いてきた。漁港で食べても良かったけれど、始めて来た場所なので作ってきた。
「そうだね」
「また砂浜近くに行きましょうか」
乗り合い馬車に近いし「そうしよう」と私達は、先ほどいた砂浜へ戻った。
二人が座れるベンチを見つけて、そこへ座ってお弁当を広げた。
ソーセージと野菜を挟んだホットドッグだ。飲み物はレモネード。何でも入るカバンに入れてきた。
「はい、どうぞ」
濡れた布を渡して手を拭くように言った。テーブルはなかったので、膝の上へハンカチを敷いてその上に包み紙ごと乗せた。レモネードは横へ。
「いただきます!」
「いただきます」
二人で海を眺めながらホットドッグを味わって食べた。