目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第15話  アルシュとルルシアのお店 開店


 お店の内装と外装工事も終わって、やっと私達のお店を開店できることが出来た。


 ご近所さんや町の人達に、開店の挨拶として無料でハーブ入りのクッキーや、苦くない薬草ののど飴を配った。するとこの町で薬屋さんが無くて困っていたらしく、私のお店にたくさんの人が来てくれた。


 「ルルシア、お菓子は出来上がった?」

 お店の入り口から入って正面が私の薬屋。右側がルルシアのお菓子屋さん。なかなか良い配置になったと思う。ルルシアの後ろの扉は、リビングへ行く扉になっている。休憩するときに外から行かずに、すぐ行けるので便利だ。

 「出来たわ。そちらから見て、おかしなところはない?」

ルルシアはお菓子の並んだケースを、お客さん側から見ておかしい所はないか聞いてきた。


 「大丈夫よ。美味しそうに並んでいるわ」

 ルルシアのお菓子は焼き菓子なので、日持ちがするためプレゼントにも良いと評判になった。


 今日は開店して一週間目。初日の混雑よりは静かになった。体の不調があって相談に来る人や、薬草とハーブをその人に合った方法で作っている。

 お医者様と相談して、患者さん用のお薬も時々頼まれたりもしていた。


 ルルシアのお菓子も美味しいと言ってくれて、ハーブティーやお茶も販売を始めた。


 「アルシュさんの作った薬は、よく効くから助かっているよ」

 二軒先の八百屋さんの息子さんが、ケガをしたときに塗り薬を渡した。縫うほどではないので、塗り薬で良いとお医者さんの勧めでこちらへ紹介された。

 治ってたびたび何かしらお店に来てくれて買っていってくれている。

 「そうですか。それは良かったです」

 誰かの役に立てて、良かった。


 「そうだ。今度、町に出来た芝居小屋へ行かないか? 券を持っているから一緒に……」

 八百屋さんの息子さんの話途中に、ゴホン! という咳払いが聞こえてきた。

 「八百屋の息子さんのジミーさんでしたっけ? 次のお客様がお待ちなので、用が済みましたらお帰りになってくださいませ」

 ルルシアの呼びかけに、後ろを向いたジミーさんは並んでいた人に謝った。


 「すみません! また来ます!」

 慌てて店から出て行った。

 「もう……ジミーったら、本当に可愛い子が好きなのだから……」

 近所の、ジミーを知っているおばさんがため息をつきながら言った。


 「アルシュさん。町の男どもで悪いやつはいないけど、適当にあしらってやってね? 仕事の邪魔になるから」

 「は、い」

おばさんは親切に教えてくれた。あしらう……? よくわからなかった。


 お店が閉店の時間になって、片付けをしていた。

 「アルシュ。気をつけてね」

 お店の中を掃除していたルルシアが、私に言った。気をつけて?

 「え? 何に気をつけるの?」

 私が聞くとルルシアは腰に片手をつけて言った。


 「だよ」

 ちょっとムッとしている。なんで怒っているのだろう?

 「アルシュは美人なのだから。皆、狙っているから気をつけてって言っているの!」

 男の人……? ああ。おばさんが言っていたことか。

 「大丈夫よ。……私はエルフで、人間の男の人には興味ないから」

 差別みたいだけれどそうじゃない。エルフはもともと、そんなに人に興味がない。


 そう言うとルルシアは、なぜかとても喜んだ。

 「そうなの? 嬉しい!」

 なにか誤解をさせてしまったか? でもまあ、いいか。


 その日はベッドに入って二人とも遅くまで起きていた。私は魔法書を読んでいて、ルルシアは何かの物語の本を読んでいた。


 明日が初めての定休日なので、二人ともゆっくりしていた。


 「ねえアルシュ」

 ルルシアが読んでいた本を閉じて、隣にいる私へ話しかけてきた。

 「なあに?」

 大きなベッドに二人座って本を読んでいた。それをやめてお互い向き合った。


 「明日、お休みでしょう? どこか出かけない?」

 ルルシアが出かけないかと誘ってきた。お出かけ……。それもいいかもしれない。

 「いいわね。出かけましょうか?」

 私はルルシアの誘いに、乗ることにした。


 「どこへ行くの?」

 この家に戻ってきてから出かけてないので、どんなにこの辺が変わっているかわからない。知りたいと思った。

 「町を見て、その先の海を見たいな」

 ルルシアが微笑んで言った。


 海!? 私は見たことがない。見たいと思った。

 「海! 行きたいわ!」

 ルルシアが笑った。

 「そういうと思った」

 最近はルルシアが私の好みを把握していて、好きな物や好きなことをくれる。嬉しいけど私の方が年上なのにと思ってしまう。


 「じゃ、決まりね! もう寝ましょう」

 そう言い、明かりを消してしまった。まだ魔法書を読みたかったのに……。仕方がない。布団にもぐって、明日のことを考えた。

 「海……。楽しみ」

 私がぽつりとつぶやくとルルシアが、笑ったのが聞こえた。

 「私も楽しみ」

 そう言って私はまぶたを閉じた。眠りに落ちる前、ルルシアがさらりと私の髪の毛を指で触ったような感触がした。



 次の日に目がさえてしまって、早起きをしてしまった。

 朝日を浴びて、金の髪の毛がキラキラと光るルルシアに見とれていた。


 髪の毛も伸びてきたのでこの間、お菓子作りに邪魔だからと肩ぐらいの長さに切ってしまった。もったいないなと思ったけれど、口には出さなかった。

『アルシュは髪の毛を切ってはダメよ』と言われていて、私は切っていない。後ろで束ねているか、結っている。どうやらルルシアは私の髪の毛が好きみたいだ。


 しばらく見ていたらルルシアが目を覚ました。

 「ん……? ふふ。アルシュ、お早う……」

 「わ」

 目ぼけているのか私に抱きついてきた。同じハーブの石けんを使っているけれど少し香りが違うルルシアの香り。良い匂い。


 「お早う。寝ぼけている? つられて寝ちゃいそう」

 私が呟くと慌ててルルシアは起きた。

 「今日は出かけるから、二度寝はナシよ!」

 もともと朝は強いルルシア。起き上がって支度を始めた。


 私も出かけるためにゆっくりとベッドから起きて、支度を始めた。












この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?