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第13話  さらに四年が過ぎて



 私とルルシアが来た道を辿って戻って来ると、四年が過ぎた。急いで戻っていたわけじゃないのでそのくらいかかってしまった。

 でもこの旅の往復九年は、私とルルシアの良い経験になった。


 ルルシアは人間で言うと、十六歳くらいになったところだろうか? 背は私を追い越した。体つきも丸く柔らかく、エルフの私と違って出るとこは出て女性らしくなった。


 「わあ……。自然が多いですね」

 ルルシアは新しくできた町を眺めて言った。この丘を越えるとすぐだ。


 人間の父と母が私に残してくれた家が見えてきた。私が旅に出かけた時より、周りに家が建っていて賑やかになっていた。町から離れたポツンと建った一軒家だけだったのに、時が経つと変わるものだ。


 「あの家が、私達の住む家よ」

 家を指さしてルルシアに教えた。結界とか色々魔法をかけていたので、劣化はしてないはずだ。

 「すてき!」

 ルルシアは駆け出して行ってしまった。もう大きくなったのに時々子供っぽくなる。悪いことではないけれど、ギャップに戸惑ってしまう。


 結界を一時的に解いて、私達は家の敷地に入った。普通の人は、この敷地に入ろうと思わなくなる魔法をかけていたので、侵入して来た者はいないだろう。家も出て行った時のままできれいだった。自分がかけた、魔法のおかげだが。


 玄関の扉を持っていた鍵で開けた。

 「ただいま……」

 中に入ると本当に出て行ったままで……。もしかしたら奥から二人が出て来て、私を迎えてくれるなんて思ってしまった。

リビングに飾ってあった、写真立てのナッシュとアリアに挨拶する。

 「ナッシュとアリア……。ただいま」


 懐かしい二人。――もうこの世の中にいないなんて信じられない。


 「アルシュ。入っていい?」

 ルルシアは遠慮して外で待っていたようだ。

 「ごめん! 早く入って。ルルシア」

私はルルシアに駆け寄って、腕を掴んで家の中へ招いた。

 「もうここはあなたと私の家よ。遠慮しないで」


 「私とアルシュの家……」

 ルルシアは感激したような表情をしていた。……長い間、旅をしていたから。


 「家を改造するから、忙しくなるわよ。あなたの好きなように、模様替えしてちょうだい」

 さて、部屋割りはどうしよう? もとの私の部屋に、ナッシュとアリアの夫婦が使っていた広い部屋。それにもう二つ、使ってなかった部屋がある。

 「ルルシアはここの部屋を使ってちょうだい。誰も使ってなかったから、あなたの好きな部屋にして」


 「……アルシュと一緒の部屋がいい」

 「えっ」

 ルルシアの思いがけない提案に私は驚いた。一緒の部屋? 個別に部屋があるのに?

私は戸惑いながらルルシアに言った。

 「あなたも個室が欲しいでしょう? 私も魔法の研究やポーション作りをしたいし……」

 もう小さい子じゃないし、個室がもらえると年頃の人間の子は喜ぶと聞いた。それなのにルルシアは不機嫌になった。どうして?


 「魔力過多だから、アルシュに魔力を吸い取って欲しい。寝室は一緒がいい」

 そうルルシアに言われてしまうと、頷くしかない。

 「……わかった、わ。寝室だけは一緒にして、個別の部屋を使いましょうか」

 「うん」

 なんだかうまく言いくるめてしまったような? ルルシアの機嫌が直ったようだ。いつもは機嫌なんて悪くならないのに、私のことになると喜怒哀楽が激しい。


 まずは二人の寝室になる部屋のベッドのシーツや使っていたものを外して、新しい物に変えた。眠る所は早めに、きれいにしておいてすぐ眠れるようにしておく。

 「私が寝室のインテリアをそろえていい?」

 ルルシアが寝室のインテリアをそろえたいと言ったので「いいわよ」と返事をした。どんな感じになるか期待したい。


 個人部屋に旅の途中で買った、お気に入りの物を部屋に置いていく。机の上にはポーションや薬草を使って作る道具を置いた。これで心置きなくポーション作りや魔法の研究ができる。宿屋ではあまり、匂いのキツイ物は作れなかったので嬉しい。夜遅くまで作っていると、眠ろうと私をベッドまで引っ張ってくることもなくなるだろう。


 私は部屋に乾燥ハーブや薬草を紐で吊るした。旅で見つけた魔法書などを本棚に入れたりと、宿屋ではできないことをして満喫していた。


 そういえば……。使ってないもう一つの部屋があった。そこをお店にしてみたらどうだろうか? その部屋の壁に一つ、入り口を作れば外から出入りできそうだ。

 「ルルシア、使ってない部屋なんだけれど……」

 私はルルシアがいる寝室に入ってみた。お店のことで相談しようと思った。


 「えっ!?」

 以前、育ての父と母が使っていたはずの寝室が、見違えるほどにきれいになっていた。もともと天蓋付きのベッドだったけれど、そこに白いレースのカーテンがつけられて床にはふかふかの絨毯。白と薄い桃色と金色のアクセントの、おしゃれな寝室に変わっていた。

 「どうかしら?」

 ルルシアがやり切ったように、すっきりした顔をしていた。だいぶ頑張って、きれいにしてくれたらしい。


 「え、ええ。すごいわ……」

 あまりの変わりように私は、嬉しさよりも驚きが勝ってしまった。するとルルシアが私を見て落ち込んだのがわかった。

 「あんまり……気に入らなかったかしら……」

 「違うの! 変わりすぎてて驚いたの! ありがとう! 嬉しいわ、ルルシア!」

 素敵になった寝室へと、変えてくれたルルシアにお礼を言った。


 「良かった! ずっと考えていたの。私とアルシュの一緒の寝室はこんな風にしようって!」

ルルシアは私にそう話した。そうか……ずっと考えてくれていたのね。

 「眠るのが、楽しみね」

 私は何気なく言ったけれど、ルルシアは嬉しかったようだ。


 「あ、トイレとお風呂場とキッチンに案内するわね。お茶を淹れて少し休みましょう」

 「ええ!」

 私とルルシアはリビングでお茶を飲んで、今後のことを話しして楽しんだ。


 「リビングの反対側の、使ってない部屋を店舗にするのはどうかしら?」

 私はルルシアに相談してみた。まだ十代半ば(16~17歳位?)だけど、年の割には頭が良いし一緒に暮らしていくならば、色々相談していかなければいけないと思ったからだ。

 「良いと思う。リビングとは壁で仕切られているし、外側の壁を何とかすれば出入り口にもなりそう」

 意見は一致したようだ。


 「じゃあ、使ってない部屋は店舗にしましょう」

 あの部屋は板張りの床なのでそのまま使えそうだ。カウンターを置いて……。ポーションや薬草を置いて。私はお店に置くものを考えていた。

 「ルルシアも何か作って、置きたいものがあったら言ってね」

 私のだけじゃなく、ルルシアの作ったものも置きたい。


 「え、いいの? 嬉しい」

 ルルシアは嬉しそうに私に言った。何を作ってお店に置くのかしら?

 「何を置きたいの?」

 興味があってルルシアに聞いてみた。だけどルルシアは桃色の唇に人差し指をあてた。


 「出来たらいうね。ないしょ」

 ルルシアはナイショと言って、教えてくれなかった。


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