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第12話  約五年が過ぎて


 ルルシアと町を色々見たり、宿屋で私がポーション回復薬を作って売り、お金にしたりして生活していた。


 体力をつけるために、町を拠点にして森へ出かけて薬草やハーブを採取に行ったりした。基礎的な魔法の仕組みや使い方、最小限の魔力で魔法を使うやり方などルルシアにたくさん教えてあげた。

 ルルシアは覚えが良くて、何でも吸収するかのように自分ルルシアの糧になっていった。


 ただ時々、うまく魔力を放出できなくて熱を出して苦しむときがあった。

そんな時は私がルルシアの体を包んで多すぎる魔力を出す、手助けをしてあげた。


 「アルシュ……。魔力が……」

 熱を出して、苦しそうにベッドで寝ているルルシアの横へ入る。

 「楽にしてあげる」

 そう言ってルルシアを抱きしめる。ルルシアはまだうまく魔力を放出できないので、私がルルシアの体を抱きしめて魔力を吸い取る。

 体を両手で包むと、良質のルルシアの魔力が私に流れ込んでくる。


 すう……と、ルルシアの体から抜けた多すぎる魔力を私が受け取ると、ホッとしたように私に微笑んで眠りにつく。その時に熱も引くので、気持ちがいいらしい。

 私もルルシアの魔力を体に吸い込ませると、良質な魔力が流れ込んできて気持ちがいい。

 お互いに良いことばかりなので拒否はなく、魔力の相性も良いようなので拒む必要はなかった。お互いの柔らかく、ほんのり温かいすべすべの肌を抱きしめて眠ると安心した。



 しばらく町で生活をして、ポーションや薬草を売って資金を貯めるとまた次の町へと移動した。まだこの国は情勢が不安定で、場所によっては危ない所がある。

 エルフの私は、まだ人間以外を受け入れられない者達から避けるのと、ルルシアを危険に晒さないためでもある。

 金髪碧眼の美少女はどうしても目につく。魔法で髪の毛や瞳の色を変えても、美少女は目立つ。とうとう姿かたちまで、魔法で変えなければならなくなった。


 金持で権力者。こういう者がきれいな女の子に目ざとい。その者から逃れるために姿かたちを変えるのと、一か所にとどまるのを避けた。

 そうして点々と、定住せずに移動する旅人となった。


 ルルシアは特にわがままも言わずに、不便な生活に順応した。ポーション作りも手伝ってくれたし、ルルシアと買い物に行くと、いつもよりおまけをしてくれることがあるので助かる。

 旅をしてだんだん賑やかな王都に近い街へ行くと、ポーションや薬草は供給が多いのか売れなくなってくる。そうすると旅を続けられなくなる。仕事を探してもいいけど定住はできない。

 私達は、来たへ戻らなくてはいけない決断に迫られた。


 「ルルシア。……私が育ててもらった家があるのだけれど、そこに戻って暮らしてみない?」


 ルルシアと出会って、旅を続けて約五年が経った。


 ルルシアの背は私と変わりなくなって、健康状態も良い美しい少女になった。年齢は知らないがたぶん、十代初め頃じゃないかと思う。初めて出会ったときは栄養状態が悪く、実際の年齢より小さく見えたと思う。本人は実際の年齢を言わないし、人間の年齢はよくわからないのでだいたい想像で考えている。


 「嫌なら、考えるけれど……」

 ルルシアが嫌なら他の方法を考えるしかない。

 「嫌じゃない!」

 ルルシアは普段大きな声をあまり出さない。だけどびっくりするくらいの、大きな声を出した。私は両の手をきつく握りしめているルルシアを呆然と見つめた。


 「一緒に居たいもん! アルシュと離れたくない!」

 目に涙をためて、プルプルと震えていた。私がルルシアと、離れると思っているのだろうか?

 ルルシアは走ってきて、ぎゅうう……と両の手で私を抱きしめた。小さな子が私と同じくらいの背丈になった。


 「好きなの! アルシュ、離れたくない!」

 「……!」

 ルルシアの思わぬ告白に嬉しくなった。

 「……ありがとう、ルルシア。私も好きよ」

 そう言うと、さらにギュッと強く抱きしめてくれた。細い腕で抱きしめたので痛くはない。だけど成長したルルシアに、抱きしめられる日が来るとは思わなかった。

娘のような、友達のような……。そんなルルシアが愛おしかった。


 「じゃあ決まりで、……いいかしら?」

 私は少し離れてルルシアの顔を見て言った。

 「うん!」


 王都に近い街まで来るのに約五年かかった。

 資金を稼ぎながら来たり、薬草やハーブを採取したり、魔法を教えたりしてゆっくり来たので帰るときは五年もかからないかも。

 でも育った家に帰るころにはルルシアは、年頃の娘になる。……近くに良い人人間の伴侶を見つけて、結婚をするのもいいかもしれない。本人には言えないけれど。


 「支度しなくちゃね!」

 ルルシアは私を引き寄せてまた抱きしめた。最近私を抱きしめることが多くなってきた。嫌じゃないけど多い。

「ええ」

 私はルルシアから離れて、荷物を整理し始めた。旅をして余分なものは、何でも入るカバンに入れていたので手荷物は少なくて済む。


 王都に近づくほど、数日泊まっていた宿に思い入れはない。逆に王都から離れるほど名残惜しい。初めに泊まった宿屋のおかみさんみたいな、人柄の良い宿屋は離れがたい。

 また会えると思うと嬉しくなる。


 「ルルシアが、こんな大きくなると思ってなかったでしょうね? きっと驚くわよ」

 そのときが楽しみだ。ルルシアは黙々と荷物を整理していた。


 「ねえ。アルシュが育った家ってどんな所?」

 ルルシアは荷物整理しながら聞いてきた。そういえば言ってなかったと気が付いた。

 「……この間、宿でお世話になったおかみさんから手紙が来て。育った家の周りに人が増えて、町が出来たそうよ。森もあるし自然が多くて。暮らしていくなら良い環境と教えてくれたわ」

 どのくらい変わったか楽しみだ。

 「楽しみね」

 「ええ」


 私とルルシアは、帰ったら家をどんなインテリアにするか遅くまで話し合った。好みは合うので、カーテンとか小物はこんなのがいいとか、途中で選んで買って帰ろうというような話で盛り上がった。


 「お店もやりたい!」とルルシアが言ったので「それも考えよう」ということになった。ルルシアとお店を開く。楽しそうだ。


 そうして私達は、私の育った家まで戻る旅をすることにした。











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