ぐつぐつと野菜やお肉を煮て、美味しいシチューが出来上がった。
木のお皿にシチューを入れて、ルルシアの前の折り畳み式簡易テーブルの上に置いた。木のスプーンを置くと嬉しそうに笑った。
「美味しそう……」
「食べましょうか」
私とルルシアは、お祈りをしてからいただく。
野菜も、お肉も柔らかくなっていて美味しい。パンもまだ柔らかった。旅の一日目。失敗もなく順調だった。
ルルシアは歩いたせいか、いつもよりたくさん食べてくれていた。
食事も終わり、食後のお茶を飲んでいた。ルルシアは温めたミルク。そのうちにルルシアはカクンカクンと、眠いのか頭が揺れ出した。
「ルルシア、もう寝ましょうか」
火の始末をして片付けて、歯を磨いた。
「結界を張って……と」
テントの周りに結界を張った。これで何者にも邪魔をされないだろう。私は足元がよろよろしているルルシアの背中を支えてテントの中へ入った。
狭いけれど一応二人用のテントだ。ルルシアと一緒のお布団で眠る。
「マントは脱ぎましょうね」
前で留めてあるボタンを外して、マントを脱がせた。
眠ってしまいそうなルルシアを寝かせて、私もその横へ。
「お休みなさい」
「おやすみ……なさい」
二秒でルルシアは、す――という寝息が聞こえてきた。たくさん歩いたので疲れたのだろう。私はルルシアの寝顔を見て、頭を撫でた。
「頑張ったね。ゆっくりお休みなさい」
私はテントの中の明かりを消して、ルルシアと眠った。私も疲れていたのか、ぐっすりと眠れた。
顔に触れる、柔らかなもので私は目が覚めた。
「ん……?」
指で触ってみると触り心地が良かった。まぶたをしっかりと開けて横を見てみると、金髪碧眼美少女が穏やかに眠っていた。
「……」
頭がはっきりしてくると隣にいるのは昨日一緒に、旅へ出たルルシアと思い出した。どうやら魔法の効果が切れてしまったらしい。
上半身を起こしてルルシアを眺めてみると、隙間からさしてくる朝日に照らされた金色の髪の毛はキラキラと輝いてきれいだった。まつげは長いし、本当に美少女だ。
まだ幼いけれど年頃になったら、魔法で髪の毛と瞳を茶色にしていても求婚者が絶えなくなるだろうと思った。
「ん……」
ルルシアが目を覚ましたらしい。私は目を開けるのを見ていた。
「あ……。お早うございます、アルシュさん……」
澄んだ青い瞳を見て、私はなんてきれいな瞳だろうと思った。
「お早う。もう少し、寝てもいいわよ」
疲れているだろうと思って私はルルシアに言った。でももう目が覚めてしまったようで、一緒に顔を洗いに行った。
テントを出る前に、自分とルルシアに髪の毛と瞳を変える魔法をかけた。きれいなルルシアの髪の色を変えるのは残念だけど、目立たないようにするには仕方がない。
身支度を終えて、昨日の残りのシチューを食べて出発した。
道を進んでいくときに見かけた、薬草やハーブを教えながら歩いた。そんなことをしていたら次に向かった町は、すぐに着いた。この町はさらに活気があって賑やかだった。
ルルシアは、物珍しくて今にも駆け出しそうだったので手を握って歩いた。
確かに私も見たことのない物ばかりで、ルルシアの気持ちがわかった。
新鮮な食べ物が屋台に並んでいるのはもちろんな事だけど、他の国から仕入れたと思われる食材やアクセサリーに服や靴。道具に家具や武器。いろんなものが売っていた。
「買いたくなっちゃうけど、まずは今日泊まる宿を探しましょう」
おかみさんのおすすめの宿屋を探してみる。賑やかなマーケットを抜けると、宿屋がたくさん並んでいる場所に出た。
「場所、ここかしら?」
おかみさんにおすすめされた、宿屋に着いた。名前は合っている。
「あの……「いらっしゃい! 宿泊かい?」」
扉を静かに開けて覗いてみたら、私が話しかけるより先に挨拶された。カウンターの中にいる人は前に泊まってお世話になった、おかみさんに似ていた。
「はい。二名です。前に泊まったおかみさんの紹介で来ました」
私がそう言って紹介状を見せると「まあ!」と言ってとても良い笑顔になった。
「あっちのおかみさんは元気だったかい!? 私はあの人の妹だよ!」
どうりで似ているはずだ。姉妹なのか。
「ええ、元気でした。とてもお世話になって……「そうかいそうかい! それは嬉しいね!」」
ニコニコと微笑んで、何も言わずに部屋の鍵を渡してくれた。
「姉さんの紹介じゃ、良い部屋に案内するね! お金の心配はいらないからね!」
元気なおかみさんだった。どうやらお姉さんの方のおかみさんが紹介状に色々書いてくれたらしい。助かります。
「二階になるよ。ついてきて」
私達はおかみさんの妹さんの後についていった。
「ここだよ」
案内された部屋の扉を開けると、清潔に掃除された広い部屋だった。
「ベッドは広く、お風呂もついている。ゆっくり休んでおくれ」
そう言って窓を開けてくれた。そこからは家と家が並んで、間に伸びる道はさっきのマーケットに続いていた。窓からは美味しそうな屋台の香りが部屋に入ってきた。
「ありがとう」
私がお礼を言うとルルシアもペコリと頭を下げた。それを見たおかみさんが「まあ! 可愛いわね!」と言って喜んでいた。
「ここの宿は食事が出ないから、外で食べて来てちょうだいね」
「はい」
そういう宿もあるのかと私は思った。
大きな荷物は置いて、さっそくマーケットを見に行くことへした。
「うわあ……!」
ルルシアは賑やかなマーケットに歓声を上げた。たくさんの売り物に驚いていた。無理もない。私も声を上げそうになった。
「何か食べたいわよね。何が食べたいかしら?」
多すぎて迷いそうだった。めずらしい果物、食べ物がたくさん。ジュージューと焼けたお肉も美味しそうだった。
「あれが食べたい……です」
ルルシアが控えめに言ってきたのは、串に刺されたお肉だった。確かに美味しそうだ。
手を繋いでお店の前まで行ってみる。
「いらっしゃい! 美味しいよ!」
お肉を焼いているおじさんは厳ついけれど、優しそうだった。
「二本、ください」
私が言うと「二本ね!」とおじさんは勢いよく返事をした。
串に刺さったお肉を焼いて、タレをつけた香りは二人ともよだれが出た。
「はいどうも!」
お金を渡して、焼きあがったお肉を受け取った。良い香りだ。
「串に気をつけて食べてね」
私はルルシアに串を渡した。ルルシアはよだれが少し口から垂れていた。
「いただきます!」
ルルシアは、ためらいながらもお肉にかぶりついた。物怖じ、しなくて良かった。
「いただきます」
かぶりつくとお肉の肉汁が口中に広がった。
「「おいしい!」」
二人で同時に美味しいと言ってしまった。顔を見合わせて二人で笑った。