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第10話  旅の始まり


 1時間ほど歩いたので休憩をすることにした。初めての旅。慣れるまで休憩を取りながら無理なく進む。

 「靴擦れとか大丈夫? 足は痛くない?」

 ルルシアはどのくらい旅慣れてるかわからないし、回復したとはいえ無理はさせられない。


 「休めば、大丈夫」

 ルルシアは少しづつ、会話をしてくれるようになっていた。ちゃんと受け答えが出来るので助かっている。

 「あそこの木陰で休みましょう」

 のんびりした田舎道。畑が続いていたり、ゆるやかな坂道や下り道で飽きない。


 近所の人や商人、旅人が通る道は馬車なども通れるくらい広くなだらかだ。その道沿いの横に小川が流れていて、その向こう側には森が続いている。

 小川は水が澄んでいて綺麗だった。この小川が先ほどの町の中に流れているのだろう。


 「ブーツを脱いで、足を冷やしましょうか」

 大きな木の下に私達は休憩をした。ルルシアのブーツを引っ張って脱がして、川の水に足を浸した。

 「冷たくて気持ちいい……」

 目を細めてルルシアは呟いた。私は布を川の水で浸して絞り、ルルシアの顔や首筋、手など拭いてあげた。気持ちよさそうにしている。


 また布を水に浸して絞って今度は自分の顔や手を拭いた。……気持ちが良かった。旅の初日は幸先が良かった。


 「そろそろ行こうか?」

 足の休憩もできたし、顔を冷たい川の水で拭けたし出発する。ルルシアはブーツを履いてカバンを斜め掛けにして立ち上がった。

 「行く」

 力強い足取りでルルシアは歩き始めた。



 夕方まで歩いて、今日の野宿する場所を決めた。道から少し離れた、広場。旅人が利用できるように円形の広場で地面は平らに整備されていて、テントなど張れる広さになっている。たき火もできるようだ。宿屋のおかみさんに教えてもらった情報どおりだった。

「今日はここで野宿するよ。一応、結界を張るけど」

 私は魔法を使える。人間の前では使わない。


 テントを張って、中に荷物を置く。ルルシアとはぐれないように、森に落ちている木の枝を拾う。乾燥していて燃えやすそうだ。

 「もういいわ」

 小屋に薪があるのでそれを使わせてもらう。たき火の用意をして、火をつける。コッソリと魔法を使った。


 「わあ! すごい!」

 ルルシアが私の魔法を見て喜んだ。魔法を見るのは初めてなのかしら? 瞳がキラキラしていた。

 「魔法を見たのは初めて?」

 私はルルシアに聞くと、何度も頷いた。お風呂場で乾かしたとき、ずいぶん驚いていた。でもルルシアくらいの魔力量なら、魔法を使えそうだけど……。


 私は鑑定の魔法を使える。

その人の名前や年齢、魔法が使えるのならば使える魔法や魔力量など。でもルルシアは魔力量くらいしか鑑定できなかった。誰かに見られないように、高度な阻害魔法をかけられていたようだった。


 「ルルシアも、魔法を使えるようになりたい?」

 たき火を見ながらルルシアに聞いてみた。本人に習いたい意思があるならば、教えてあげようと思う。

 「使えるようになりたい!」

 ルルシアは、すがるような眼をしていた。私はその目を見て決心をした。

 「大変だけど、教えてあげるわ」

 もしこの先、一人で生きて行かなければならなくなったときにこの子の役に立つだろう。


 私は幼い頃、エルフのお師匠様に教えてもらった。今度は私がこの子のお師匠になる。

 「残念だけど、すぐには教えられないの。基礎的な体力を作ってから魔力の扱い方、その他のことが出来てから、初めて魔法を教えられるの。それでもいい?」

 体力がなければ使いこなせないし、扱い方がわからなければ暴走してしまう。面倒だけどこれをクリアできた者が魔法を教えてもらえる。厳しくしなくては。


 「頑張りますから教えてください。アルシュお師匠様」

「え……」

 ルルシアは初めて私のことをお師匠様と言った。いや、その前に教えてくださいと言った。私はルルシアの言葉に感動した。

「お、お師匠様はここでは言わなくていいわ、ルルシア。魔法が使えると分かれば面倒なことになるから」

 キョトンというような表情をしたルルシア。まだわからないでしょうね。

 「……そのうちにわかるわ」


 私はエルフの森が焼かれたことを思い出した。グッと自分の手を強く握って、思い出さないようにした。

 「さあ、ご飯を作りましょうね」

 私のカバンは何でも入るカバンだ。エルフの母が持たしてくれたものだ。それから食事を作るための道具をテントの中で取り出して並べた。

 「今日の夜ご飯はシチューに、買っておいたパンよ」

 手際よく野菜やお肉を切って鍋の中へ入れて煮込んだ。


 煮込んでいる間に、森に生えてる薬草やハーブを見つけて採取してきた。ルルシアに薬草やハーブを教えた。初めはよく使う薬草やハーブを一種類ずつ。

 ルルシアはパンを包んでいた紙に薬草とハーブの説明をメモしていたので、私は紙の束の半分を分けてあげた。

 紙の端に穴を二つ開けて紐を通した。ペンを貸したのをルルシアへあげた。

 「もらっていいの?」

 「あげるわ。私はもう一つあるから」

 ルルシアは字が書けるらしい。平民はあんまり習うことがなく、字を書けない子がほとんどだ。商人の子供やお金持ちの子、貴族などは習う。


 「字を書けるのね」

 私がルルシアに話しかけると、ビクン! と体を揺らした。

 「ああ。無理やり聞かないわ。字を教えなくていいのね、と思っただけよ」

 そろりと私の顔を見たルルシアは、言わないことを気にしているようだった。

 「いつか……話したくなったら、話してくれればいいから」

 そう言うとホッとしたようだった。


 本当にルルシアは不思議な子だなと思った。








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