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第8話 女の子の選択肢


 私はしばらく女の子の面倒を見てあげた。おかみさんのおかげで補助金ももらえた。


 なんでもおかみさんは、この宿屋をやる前に凄腕の冒険者だったそうだ。その関係もあって色々な一般常識から、旅の方法ハウツーを教えてもらえた。

 「あんたはここに、永住するわけじゃないんだろ? 覚えて損はないよ」

 本当にいい人だった。


 女の子はお湯みたいなパンがゆから徐々に、形のある柔らかい物を食べられるようになった。切り傷や青あざは良くなってきれいに治った。

 「もう飲み薬を、飲まなくても良いそうよ」

 初めに診てもらったお医者さんに、また診てもらって薬はもう飲まなくて大丈夫と言ってもらえた。あとは健康的に過ごせば、成長もだんだんと追いつくだろうとのことだった。


 にこ……と微笑んだ女の子。特に好き嫌いもなく、わがままも言わずに教えたことはすぐ覚える頭の良さを感じた。

 「そろそろこの町から出て、旅へ行きたいんじゃないかい? あんたがどんな選択肢を選んでもわたしゃ、何も言わないよ」

 おかみさんは、私が女の子を施設に預けても何も言わないと言った。


 もともと赤の他人。ここまで面倒見なくても誰も文句は言うまい……とおかみさんは言う。ましてやあんたは、独り身だろう? と言われた。

 夜。女の子が眠った後に、遅い食事をしながらおかみさんと話をしていた。

確かに幼い子は、大勢の大人に守られて育てられたり同じ子供達と育っていった方がいい。

 あとのことは、優しい町の人や施設の人に任せるべきか……。


 「週末くらいに、この町を出ます」

 私がそう言うと「そうかい。寂しくなるね」と言ってくれた。



 週末になって私は女の子を連れて、施設の前まで来た。服など買うために、買い物へ一緒に来たことがあるけれど特に何も言わずに宿屋から出かけたので、女の子はチラチラと私の顔を見ていた。

 「ここは身寄りのない人達が生活できる施設。あなたは、どうしたい?」


 私は女の子に決めてもらうことにした。無理やり施設に預けたくないし、私と一緒では心細いかもしれない。この子の人生を、私が決めたくなかった。

 女の子は一瞬、驚いていたがキュッと唇を結んだ。頭の良い子だ。自分の選択肢を考えているのだろう。


 女の子は私より小さい。見下ろす形になって私は無表情だから怖かったかもしれない。でも……。

 ためらいながら女の子は、私のスカートをギュッと握った。そして潤んだ瞳で私を見上げた。

「……施設で暮らさないの? 家の中で安心して眠れるわよ。私はこれから旅に出るから、野宿になるかもしれない」

 スカートを握っていた手に力が入った。


 「あなたと……一緒にいたい」


 衰弱していたせいもあるけど宿屋に連れてきてから、ほとんど話さなかった女の子が初めて自分の意思をハッキリと言った。

 真っ直ぐに私を見る女の子は迷いがないように見えた。

「……いいの?」

 私は女の子に聞いた。すると女の子は、コクンと頭を下げて頷いた。


 なんとなく、そんな予感がしていた。お世話をしているうちに私は、この子のことがとても愛おしく思った。にっこりと女の子に笑いかけて手を握った。

 「じゃ、決まりね。一緒に旅をしましょうか!」

 女の子は不安そうな表情から、笑顔になった。


 私達は宿屋へ、荷物を取りに戻った。



 おかみさんに女の子と一緒に旅をすることにしたと伝えると、「そうなると思ったよ」と言われた。

 「……でも良かった。大変だろうけど頑張っておくれ」

 そう言って袋に、たくさんの携帯食や色々なものを入れて渡してくれた。

 「ありがとう御座いました。色々お世話になりました」

 私が頭を下げると、女の子も一緒に頭を下げた。


 「あ、そうだ。もし何か困ったらここを頼りな。私の名を出せば、助けになってくれるだろう」

 そう言い、場所と名前と地図などを書いた紙をくれた。何から何までお世話になりっぱなしだ。

 「いつか恩返しをさせて下さい。おかみさん」

 そう言うとおかみさんは豪快に笑った。

 「ハハハハ! 楽しみにしてるよ! 気をつけて行きな!」

私と女の子は宿屋を後にした。



 「まずは旅支度をしましょう」

 女の子に、旅人必須のおしゃれなマントと斜め掛けバッグ。靴は丈夫なブーツを買い足した。髪と瞳の色は茶色のままにして、髪の毛の長さは肩につかないぐらいにしていた。

 「えっと……」

 可愛い雑貨屋さんへ来てみた。パステルカラーの可愛い雑貨が並んでいた。


「髪の毛が少し邪魔でしょう? 横の毛をとめる髪飾りを買いましょう」

 私が可愛い雑貨に、夢中になっている女の子に話しかけるとキラキラと瞳を輝かせた。

 「どれがいい? 選んで」

 そう言うと、楽しそうにキョロキョロと雑貨を見た。やっぱり可愛い物が好きなのだなと思った。


 しばらくして女の子が、一つのものをじっと見ているのに気が付いた。

「欲しいのが見つかった?」 

 そう聞くと、こちらを見た。見てみるとガラスケースに飾られていた、金色の星が大小ついている髪留めだった。

 「これ?」

 髪留めを指さしてみると女の子は下を向いてしまった。値段を見て高かったので、欲しいとは言えないようだった。


 「これを見せてください」

 「はい」

 店員さんにお願いすると、ガラスケースのカギを開けて布張りのトレーの上に乗せて見せてくれた。

 「これがいいの?」

 女の子は顔を上げて遠慮がちに髪留めを見た。瞳をキラキラさせて頷いた。


 私はそんな女の子を見て嬉しくなった。

 「これをください」

 「ありがとう御座います!」

 店員さんはキビキビとした動きで髪留めを箱に入れてくれた。可愛いリボンまでつけてくれた。お金を払って私達は可愛い雑貨屋さんを出た。


 「はい、どうぞ。私からのプレゼントよ」

 女の子に髪留めの入った箱を渡した。女の子は頬を、ほんのり桃色に染めて受け取った。

 「箱を開けて、髪留めをつけてみて」

 そう言うと女の子は、箱を開けてていねいに髪留めを取り出した。瞳がキラキラとして喜んでいるのがわかった。


 女の子が髪留めをつけようとしたけれど、上手くできなかったので私がつけてあげた。ニコッと笑って、私に「ありがと」とお礼を言ってくれた。












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