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第7話  女の子の手当


「栄養状態が悪いね。あと所々ケガをしている。……この子とあなたの関係は?」

 お医者さんが女の子の診察を終えて、私に尋ねてきた。なんとなく黙ってしまった。


 「……何か困ったことがあったなら、ここへ行くといい。争いの犠牲になった人たちの保護活動をしている施設があるから。悪いようにはされないだろう」

 そう言って私に、地図の書かれた一枚の紙をくれた。

 「ありがとう御座います」

 この子の面倒を見られないならば、ここへ連れて行けということだろう。まだ争いの爪痕は残っているようだ。


 「まずはケガの手当をして……。ああ、食事はいきなり食べさせないで。説明の紙を渡すからこれ見て気をつけて食べさせて」

 「はい」

 渡された紙には丁寧に注意書きが書いてあった。お医者さんは、塗り薬や飲み薬など説明書きと一緒に置いて帰っていった。

「あ、診察代は大丈夫だよ。国から補助金が出ているから」

 私がおかみさんへ、診察代を払おうとしたら断られた。……いらない、とお金を拒否されたので好意に甘えた。

「ありがとう御座います」


 「ほら。薬を塗ってあげな。それから食事をして飲み薬だね。その子の分の食事は、私が作って持ってくるから」

 「お願いします」

 お医者さんとおかみさんは部屋を出て行った。おかみさんはお医者さんに、この子に何を食べさせたらいいか相談しているのが聞こえた。良い人で良かった。


 「じゃ、先にお薬を塗ろうか」

 私は女の子に薬を塗ってあげることにした。掴んだ腕は細く、折れそうなくらい。少しずつ食べて健康的にならないと。

 「染みるかも……」

 切り傷や擦り傷などあちこちにあった。どのくらいあそこにいたのだろうか? キュッと唇を噛んで薬を塗った。

 「う……」

 やはり染みるらしい。可哀そうだけどちゃんと手当して治さなければ。


 両手、両足がひどく、あとはすぐに治りそうだ。青あざには、私が持っていた薬草をつぶして貼ってあげた。

「ふぁ!」

 薬草が冷たかったのか、女の子は声を上げた。そのあと、声がでちゃったので恥ずかしそうにしていたのが可愛いかった。


 「終わり」

 だいぶ包帯だらけになってしまった。塗り薬が取れないようにとシーツにつかないように覆った。

 終わったころにおかみさんが、女の子の食事を作って持ってきてくれた。

 「お医者さんに聞いて作ったから、安心しておあがり」


 見ると、お皿に少し色がついたくらいの温かいパンがゆだった。具はない。それをテーブルの上に置くと「あんたの食事は?」と聞いてきたので、「あります」と返事をした。昼間にチーズサンドのお店で、持ち帰りしたものが残っていたのでそれを食べる。


 さて。一人で食べられるかな……。ベッドの上で食事できる簡易テーブルがあったので、それを使う。お皿とスプーンを簡易テーブルの上に置いて、食事前のお祈りをする。

 すると女の子も一緒にお祈りをした。どうやら食事の前のお祈りを知っていたということだ。この国の人間の食事前のお祈り……。私を育ててくれた人間の夫婦を思い出した。


 女の子が私の顔を見たので「食べていいわよ」と伝えた。スプーンを持とうとしたが包帯が邪魔で持ちにくそうだった。

 私は女の子からスプーンを受け取ってパンがゆをすくった。ほとんどお湯だ……と思いながら、フーフーと冷まして女の子の口元まで運んだ。

 「はい、あ――ん?」

 どのくらい食べていないかわからないけど、お腹は空いているだろう。私は食べられるかな? と首をかしげた。


 「……あーん」

 パッと口を開けてスプーンをくわえた。コクンと、口から喉を通っていったのが見えた。よかった、食べてくれた。安心して私は笑顔を浮かべて、スプーンで次の分を口元まで運んだ。

 「はむ……」

 女の子が口を開けたときに、口の中を見たけどきれいな歯並びだった。虫歯などなさそうだった。


 少し残したけれど、食べられただけいい。徐々に量を増やしていけばいい。食事が終われば飲み薬だ。これは苦そうだ……。

 「……飲み薬を飲みましょうね」

 水で薄めるタイプの飲み薬らしい。説明書に従って原液を薄めた。コップに入れて女の子へ渡した。


 コクンと飲むと顔をしかめた。

 「全部、飲みましょうね」

 私はにっこりと微笑んで言った。我慢できない程の苦さではない。女の子は私を見て目を閉じて飲み薬を一気に飲んだ。

 「えらいね」

 女の子からコップを受け取って、水を入れなおして飲むように渡した。やはり苦かったようなので、女の子は一気に水を飲み干した。


 この飲み薬は覚えがある。私も人間の夫婦に、助けられたときに飲んだ苦い飲み薬。そのうち眠くなってくるだろう。

 女の子がうつらうつらと、眠たそうにしてきた。私は女の子の体を横にして寝かせた。

 「眠って元気になりましょうね」

 眠りにつくまで私は、ぽん……ぽん……と軽く、肩をリズムよく叩いた。

 「お休みなさい」

 そう言うと女の子はまぶたを閉じた。ゆっくり眠って元気になって欲しい。


 どうしてあんな袋に入っていたのか、親はどうしたのだろう? と色々聞きたいけれど……。嫌な思いをしてきたならば無理やり聞くのもどうかと思うので、女の子が言いたくなったら聞きたい。


 私は女の子の茶色の髪の毛……。本当は金色のきれいな色の髪の頭を撫でた。

 「ん……、……、……」

 女の子は何か言ったけれど、小さくて聞こえなかった。




















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