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第6話 お風呂で洗う


 固まった髪の毛の泥を、手で落としていった。熱くない温度のお湯を何度も変えて、根気よく泥を落としていく。するとだんだん小さな束になっていった。

 「これなら部屋でお風呂に入っても、排水口が詰まらないでしょう」

 小さいタオルで濡れた髪の毛を包んで、とりあえず外できれいにするのは終わりだ。


 さすがに裏庭とはいえ、外で裸にはできない。体は部屋にあるお風呂で洗うつもりだ。

 「泥は落ちたかい? 部屋のお風呂に、お湯を入れておいたから入るといい。ほらカギだよ」

 「ありがとう」

 私は鍵を受け取って、後片付けをしようと立ち上がった。


 「ああ。あたしが片付けといてやるから、早くお風呂で体を洗ってやりな」

 おかみさんはタライに入ったお湯を流した。

 「すみません。何から何まで」


 はははは……とおかみさんは豪快に笑って言った。

 「その子はあんたと、なにも関わりのない子だろう? 本当はこの町の人達がやらなきゃならないことを、やってくれてる。こちらが感謝しなきゃいけないことさ」


 私は人間の子供をまた抱っこして、階段を上がっていくと今日泊まる部屋に着いた。鍵には部屋番号が書いてあったので、一番端の部屋だ。扉を開けるとすぐにベッドと机。隣の部屋にお風呂がついている。この国の標準的な宿屋の部屋だ。




 今度はお風呂で洗ってあげる。まずはあちこち破れているボロボロの服を脱がせる。

 「今度はお風呂に入れてあげるから、服を脱がせるわね」

 そういうとコクリと頷いた。

 「腕を上げて?」

 人間の子供に言うと、両手を上げた。……少なくとも。服を脱がしてもらうときの行動はできているので、お世話がされたことはあるようだ。


 スポン! と服を脱がした。ワンピースのような服の下は女の子用のパンツを履いていた。

 「あなた、女の子なのね」

 コクリと頷いた。まだ子供であたりまえだが、胸はツルペタだ。よく見ると青あざなようなものが数か所あった。擦り傷も多数、体にあった。

 「お湯が染みるかもしれない。でもきれいにしないと、薬もぬれないから」

 またあたまをコクンと下げた。


 小さいタオルをお湯で絞って、顔をまず拭いていく。タオルが真っ黒になっていくが、何度も手桶の中でゆすいでいくきれいにして顔を拭く。

 「あら?」

 だんだん泥が落ちてきてもとの肌が見えてきた。ずいぶん色白な子だった。体もタオルで拭いていくと色白なお腹が見えた。あらかたきれいにしたので、胴体を持ち上げて、湯船に入れた。やはり傷が染みるみたいで、顔をゆがめた。


 髪の毛を石けんで洗っていく。外でほぼ泥を落としたので泡立てて何度も洗っていく。

 「ん?」

 髪の毛と体を同時に洗っていった。きれいになっていく髪の毛を見ると、地毛だろうか? が見えてきた。――金髪だった。


 金髪は平民ではほとんどいない。金髪は貴族か、王族しかいないと家に来ていた商人のおじさんに聞いたことがある。

 「……」

 瞳は青色。金髪碧眼の子供だった。……もしかして攫われてきたのだろうか? きれいにすればするほど、この人間の子供の生まれが気になっていった。


 全部隅から隅まで洗ってあげると、きれいになった。髪の毛と全身を魔法で乾かした。

 すると人間の子供……いや、女の子は、わぁ……と歓声を上げた。


 服は私のシャツを袖を縛って着せてあげた。その下は新品の紐のパンツを履かせて、上の袖なしの下着を着せた。とりあえずいいだろう。

 「話せるんだ? 名前は言える?」

 女の子に名前を聞いてみた。

 「……わかんない」

 舌足らずの言葉で返事をした。可愛らしい声だった。


 記憶がないのか、どうなのか。あまりしつこく聞かない方がいいと思ったので、それ以上は聞かなかった。

 でもこの容姿だと外に出た途端、目立ってしまう。私と同様に……。

 「金の髪の人は少ないのだって。魔法で色を変えていいかな?」

 ゆっくりと説明すると頷いた。


 「お医者さんを呼んでくれたみたいだから、すぐに色を変えるわね」

 私はスッ……と立ち上がって呪文を唱えた。

『……、……。…………』

 詠唱が終わると、女の子の髪の毛が金色から茶色に変化した。


 「嫌かもしれないけれど、我慢してね」

 そう言って女の子の頭を撫でた。女の子は腕を上げて、私を指さした。

 「おんなじ」

 そう言った。おんなじ? え?


 もしかして、私も髪の色を変えてることが見えている? まさか……。

 「私の髪の色は、何色かわかる?」

 女の子に念のため、聞いてみた。人間にこの私の魔法がバレたことはない。

 「ぎんいろ……」


 まさか。この子は私の本当の姿が見えている? としたら、かなりの魔力もちだ。

「エルフ……なの?」

 女の子は首をコテンと傾げて、さらりと言った。


 金髪碧眼、高い魔力持ち。平民じゃないかも……。

 でもとりあえず。傷は治してあげて、お医者様に診てもらって――。


 その時、トントンとドアが叩かれた。

 「お医者さんがいらしたけど、もうお風呂から洗い終えたかい?」

 おかみさんの声だ。私は慌てて瞳の色も変えてあげた。

 「はい! 大丈夫です」


 おかみさんとお医者さんが部屋の中へ入ってきた。女の子を診てもらえた。









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