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第4話 チーズサンドのお店

トランクに最低限の必要な物を詰め込んで、町の乗り合い馬車の乗り場まで歩いていく。


 しばらく歩いていくと町が見えてきた。

ナッシュとアリアが時々町まで買い物に来るときは、連れてきてもらっていた。今、思えば。私が町までの道のりや、色々なお店の場所など教えてくれていたのではないかと思った。


 以前のお店はどこも細々と営業していて、活気がなかった。争いが終結して町に活気が戻ってきたようだった。この王都から離れた町がこんな感じなら、王都に近い街ならばもっと賑わっているだろう。私が作ったポーションやその他のものを売りながら、旅費を稼いで行こうと思う。



 念のために、エルフの特徴の耳を遮蔽魔法で隠した。銀の髪と緑の瞳を、魔法で一般的な茶色にした。目立ちたくないからだ。

 家に唯一訪ねてくる商人のおじさんが、外の世界のことを色々教えてくれた。

『悪目立ちしないこと。お金を見せびらかさないこと。簡単に人を信用しないこと。』

 でも世の中は悪い人ばかりじゃないとも、教えてくれた。

それはナッシュ父さんとアリア母さんが、私に愛情をもって育ててくれたので知っている。


 「……とりあえず、ご飯を食べよう」

 クゥ……とお腹が鳴った。あちこちのお店から、美味しそうな匂いがする。なにを食べようか。

 以前、二人に町へ連れてきてもらったときに入ったお店を思い出した。チーズサンドが美味しいお店だ。チーズサンドを思い浮かべたらますます食べたくなった。


 記憶をたよりに道を歩いた。両側に屋台が出ていて新鮮な野菜、果物、魚そのほかたくさん食べ物や衣類など売っていた。お店の人の呼び込みで賑やかだ。人の往来もあって活気があっていい。

 歩いてお店を見ているうちに、目的のチーズサンドが有名なお店に着いた。


 店の外までテーブルと椅子が置いてあって、開放的なお店だ。先に注文と料金を払う方式で出来たらテーブルまで持って来てくれるらしい。他のお客さんの行動を見て、私も列に並んで注文をすることにした。


 自分の順番になって、チーズサンドと紅茶を注文した。

「番号札を受け取って、テーブルの上に置いてくれ。出来たら届けるから」

 私は頷いた。番号札を受け取って、空いている席を探した。


 「それでね……!」

 「隣の奥さんが、面白い人で!」「本当?」


 空いている席があったので座って待っていた。チーズサンドのお店で食べている人たちが、楽しそうにお話している。別に聞き耳を立てているわけじゃないけど、勝手に聞こえてくる。

 噂話や新しいお店の情報。悪口など。どこでも同じ。話をするのが好きなのだ。そんなに混んでないのですぐに注文品が来るだろう。


 「ヘイ! お待たせ!」

後ろから声をかけられたので驚いた。男性の店員さんだった。

 「ああ! すまん! 驚かせたな」

 エプロンをつけた店員さんが注文品を持って来た。店員さんは悪かったと言った。

 「いえ、大丈夫」

 忙しいようなので仕方がない。


 「お客さんは旅行で、この町へ来たの?」

 陽気な店員さんは手慣れた手つきでテーブルに置いていく。どうやらこの町に来る人は珍しいらしく、常連客以外のお客さんは気が付くと言った。

 「ええ」

 私は警戒しながら答えた。


 「なら、おまけするよ! たくさん食べていってくれ!」

 そう言いカウンター奥へ引っ込んだと思ったら、まだジュージューいっているスキレットごと持って来て、私のお皿に追加のチーズサンドを乗せた。

 「食べきれないなら、持ち帰っていい!」

 なんて太っ腹な店員さん! 私は驚いて注文より多いチーズサンドを見つめた。

 「あ、ありがとう……」


 「やっと争いが終結して町に活気が戻ってきたんだ。この町を気に入ってくれたなら、また来てくれ! そしてこの町のいい噂を流してくれたら、お客さんが来るし。そうしたら嬉しいからさ」と言った。

 「わかったわ。を流すわね」

 私はそう返事をした。

 「おお! ありがとう!」

 私はチーズサンドを美味しくいただいて、持ち帰りのチーズサンドまでもらってしまった。この町を出たら、良い噂を流そう。


 チーズサンドを両手で持って、はむっ! と、かぶりついた。熱々チーズが口から挟んでいるパンまで、ぬゅ――ん! と伸びた。味は絶品だった。

 「うん。美味しい」

 私は美味しいチーズサンドを堪能した。


 人の良い店員さんに、安くて清潔な宿屋を紹介して地図まで書いてもらった。今日はこの町へ泊まってから移動しようと思う。


 残りのチーズサンドは夕食にしようと教えてもらった宿屋へ向かった。


 活気が出てきたとはいえ「裏通りは危険だから気を付けて」と、隣に座っていた奥様が教えてくれた。「ありがとう」と伝えると奥様は微笑んだ。

 私はずっと魔法の練習をしていて使えるので、いざというときはコッソリと魔法で自分を守ろうとしていた。


 地図を見ると宿屋まで近道なので、裏道を通ることにした。屋台があった大通りとは違って暗く汚れていた。速足で通り抜けようとした。


 壊れた木箱やお酒の瓶が転がっていて、良くない場所というのがわかる。速足で通り抜けそうだった。

 「え?」

 前方に灰色のがあって裏道を塞いでいた。狭い店と店の壁の裏道。通れない。


 灰色の袋の中に、何か入っているのか丸く膨らんでいた。


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