北のエルフの森が焼かれてから私は、隠れながら逃げてきた。もう足が痛くて歩けない。森に住む他のエルフたちは無事だろうか? 母と父は無事だろうか? そればかり考えていた。
仲間と無事に再会したい。そのためには生き延びなくてはと、必死だった。幸い森の皆から生きる方法を教えてもらっていたので、果物を見つけたり狩りをしたりしてなんとかやってきた。だいぶ歩いたけれど、ここはどこなのだろう?
私達が住んでいた北の森から、かなり進んだと思う。だけど森の中は獰猛な動物もいるし、エルフの森を襲った者たちが、追ってくるかもしれない。眠れない日々が続いた。
それでも限界が来て、木に寄りかかってウトウトとしていた。
どのくらいウトウトとしていたのか、わからない。ざわざわと大勢の人の声が聞こえてきた。
「それにしても、北のエルフの森が……、……!」
「でも逃げた者も……」
エルフの森? ……誰? 断片的に聞こえてきた『北のエルフの森』という言葉に、飛び起きた。もしかして追ってきたの!? 私は見つからないように木の影に隠れた。
馬に乗って隊列をなして通って行く。大人数だった。
「騎士団長!
えっ!? 私のこと? この人たちは北のエルフの森を襲った人たちなの!? 私はそっと木の影から覗いてみた。
硬そうな甲冑に、重さうな剣。兜を脱いで顔は見えていた。所々にどこかの国の、紋章がついていた。私はその紋章を目に焼き付けた。
「ローレンス騎士団長が一番、褒美がもらえるのではないですか!」
後ろにいた騎士らしき人が【ローレンス騎士団長】と、その人のことを呼んだ。
褒美ですって? エルフの森を焼き払って褒美をもらうなんて……! 私は飛び出して、怒りのまま叫びたいのを我慢した。捕まるわけにはいかない。
「……急ぐぞ」
ローレンス騎士団長と呼ばれた人は、馬を走らせて先に行ってしまった。
「団長――! 待ってくださいよ――!」
後ろの人達も馬で走り出した。私は騎士たちが走り去って行くまで木の影に隠れていた。
「ローレンス騎士団長と紋章……。覚えた」
許さない。私達の北のエルフの森を焼いた人たち。私は必ず見つけてやると誓った。
森を彷徨い、やっと民家らしき建物を見つけた。ふらふらとそこを目指して歩いていた。でももう歩けない。私はその建物に続く、道の途中で倒れてしまった。
「おかあさん……。おとうさん……」
重くなっていくまぶた。私はまぶたを閉じてしまった。