美しかった北のエルフの森は何者かによって焼かれた。エルフたちも抵抗したが多勢に無勢。あっという間に侵略されてされてしまった。
「アルシュアーナ、あなたは逃げなさい」
母と私は家から小屋へ隠れていたけど、見つかるのは時間の問題だった。まだここは見つかってない。逃げるのは今だと、母は私に言った。
「逃げるなら、お母さんと一緒がいい……!」
怖くて泣きそうな私をずっと、抱きしめていてくれた。だけど母は顔を左右に動かした。
「だめよ。小さいあなたなら、一人で逃げ切れる」
きっと母は二人で逃げたら、二人とも捕まってしまうと思ったのだろう。残酷な仕打ちを、幼い我が子に見せまいとする母親の優しさだったのかもしれない。
「でも……!」
「早く行って!」
きつい声で母は私を急かした。くちびるを嚙んで私は頷いた。
「アルシュアーナ。私達があなたに教えたことを、忘れないで。……愛してるわ」
そう言って母は、私を強く抱きしめてくれた。私も母を抱きしめて伝えた。
「あとで会おうね? お母さん」
母は私から離れて頷いた。
「どんなときも、アルシュアーナ。みんなが見守っていますよ」
長い銀の美しい長い髪、緑色の瞳。大好きな母。
それが母を見た最後の姿だった。