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宇宙育ちの恋〜バレンタインデー編〜
宇宙育ちの恋〜バレンタインデー編〜
晴坂しずか
BLファンタジーBL
2025年01月25日
公開日
2,397字
完結済
「宇宙育ちのヤンキー、スパダリに溺愛される」から少し前の話。
バレンタインデーに千葉から六本の薔薇を渡された田村はお菓子をお返しすることに。

1.田村楓の場合

 年が明けて正月ムードが終わると、世間はハート一色になる。バレンタインデーというやつだ。

 しかもチョコレート商戦とやらが盛り上がるのが、日本のバレンタインデーらしい。宇宙育ちのオレにはちっとも分からないのでスルーしてきたが、今年は無視することができなかった。


「田村」

 定時過ぎ、帰ろうと思ってロッカーから鞄を取り出したところで、急に名前を呼ばれた。

 声のした方を見ると、同じくロッカーの前にいる千葉がオレに花束を差し出していた。

「これを受け取ってくれ」

 と、半ば無理やり渡されて、オレは反応できずに固まってしまう。

「え、えぇと……?」

「バレンタインデーだからな」

 にこりと笑いかけられて心臓がドキッと高鳴る。

「それじゃあ」

 さっさと帰っていく彼の背中を、オレは何も言えずに見送った。

 こんな経験は初めてだ。しかも赤い薔薇が六本もある。……ん、六本? なんか中途半端じゃないか?

 立ち尽くすオレを見て、土屋さんが声をかけてきた。

「田村くんは用意してこなかったの?」

「えっ」

 思わずびくっとするオレへ、先輩の彼女は冷めた視線を返す。

「バレンタインデーでしょ。好きな人に贈り物をするチャンスじゃない」

「す……!?」

「ああ、もしかしてどうしたらいいか分からなかった?」

 黙ってオレはうなずき、土屋さんが呆れたようにため息をつく。

「それじゃあ、後でいいから何かお返しをするといいわ」

「何か、って?」

「お菓子でいいんじゃない? チョコとかキャンディとか、まあ、込められている意味によって選ぶのもいいかもね」

「意味? 何か意味があるんすか?」

「ええ、あるわよ。薔薇六本にも千葉くんの想いが込められてるわ」

 そう言って土屋さんは少し意味深長に笑うと、「それじゃあ、お疲れさま」と帰っていった。

 あらためてオレは花束を見つめ、どんな意味があるのか考えてドキドキした。


 部屋へ帰ってから検索してみると、薔薇六本の意味は「あなたに夢中」だった。

「っ……」

 つい口元がにやけてしまう。心臓は心地よく高鳴るし、嬉しくてたまらない。

 でも、まだ千葉と付き合ってるわけじゃない。というより、まだ告白されていない。でもあいつの気持ちは分かりきっていて、オレも……その、嫌じゃないというか。

 でもでも、どうしたらいいか分からない。好きな人に贈り物をするのがバレンタインデーだということは分かっていても、実際に自分でそれをやろうとすると、どうするのが最善なのか分からないのだ。

 恋愛経験なんてこれまでなかったから、ぶっちゃけると今が初めてなわけで……いやいや、別にあいつのことが好きとかいうわけじゃない。そうだ、違うんだ。

 と考えてから、オレはため息をつきながらテーブルへ突っ伏した。

 いや、やっぱり違わない。結局オレは、あいつのことが好きなんだ。思い浮かべるだけで胸がきゅっと痛くなるのは、きっとそういうことだもんな。

「……あ、そうだ」

 お返しをしなければ。土屋さんはお菓子にも意味があるって言ってたっけ。

 すぐにオレは体を起こし、お菓子の意味について検索し始めた。

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