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彼のケツにはお世話になった
彼のケツにはお世話になった
不定休
文芸・その他ショートショート
2025年01月25日
公開日
2,769字
完結済
商店街で育った俺たち悪ガキ3人組が、まともに生きてこられたのは、彼のおかげなのです!中学校の同窓会で、彼を回想する。1話完結のハートウォーミングな友情ストーリー

第1話

 中学校の同窓会に来た。

 宮田サイクルと蕎麦屋の元木が俺を見かけると、すぐに近寄ってきた。

「おぅ!おぅ!久しぶり!」二人が、俺の両脇に回り込み、肩を組んできた。

 その二人のセリフをスルーして、パーティー会場を見回した。

 会場にいるみんなも、18歳なんだなと思った。


 宮田と元木と俺は幼少期から同じ商店街で育っている。

 現在も互いに週に何度かは見かけている。

 元木の蕎麦屋には3日前におんとにしんそばを食いに行った。

 宮田サイクルには定期的に通学に使用している自転車の空気を入れに行っていた。

 彼らとは個別には会っていたが確かにこの3人でゆっくり会うのは「おぅ!おぅ!久しぶり!」である。

 ちなみに俺んちはマッサージ屋である。宮田と元木の親父もお母んも俺のお母んの常連のお客様である。

 俺たち3人は口裏を合わせたように、中学の3年間同じクラスであった。

 諸事情があり、高校は別々であった。それが新鮮でもあった。直接にはかかわらない感じで二人の成長ぶりを観察できた。こういうのもいいなぁと思った。そんなこと、二人には言わないけどね。


 今この空間でこの3人が一番気にしていることを宮田サイクルが言った。

「ウッチィがいない」

 スタートは正常だった。

 中学時代とまったく同じような俺たちの会話の流れである。まず、気になったら言わずにはおけない宮田が口火を切った。

「あいつがいねぇ同窓会なんて……」マッサージ屋の俺はツボをめがけて、ググっと親指を力強く沈め、今度はその力を少しずつ抜いてゆくように、声をフェイドアウトした。

「……思い出にひたれねぇ!」蕎麦屋の元木が俺のセリフを引き継いで、気持ちよく言い切った。いささか出汁だしが効き過ぎたしぶ濁声だみごえであった。


 当時ウッチィこと打田うちだは俺たち3人のいさめ役であった。日本の4月から始まる学年で考えると、打田は3月の早生まれであり、俺たち3人組は4月、7月、9月と遅生まれであり、彼は3人から見れば年少なのだ。だから年下から年上に対する諫め役という言葉はある程度は当てはまっていた。

 要するに打田は俺たち3人組に、当時の校内における愚行を指摘して、改めるように指南していたのである。

 彼は優等生であり人柄はとても優しく、他人のことを悪く言ったりはしなかった。

 出来の悪い俺たちには勉強を熱心に教えてくれた。

 打田曰いわく、人に教えることによって、なお一層、自分の記憶に焼き付けることが出来るという。

 毎回、試験前には、蕎麦屋の元木の部屋が、打田師匠の寺小屋になっていた。夕食には、ゲンかつぎのためか、かつ丼が振舞ふるまわれた。元木の親父のいきな計らいであった。

 ゲームをして遊ぶ時は宮田サイクルの部屋にたむろした。

 アダルトな媒体を品評する時は、俺んちの部屋で音量をしぼって楽しんだ。


 打田が信頼されるのは仲間を裏切らないところだ。彼は教師には頼らずに俺たちを正しい方向に導いてくれた。まったくあいつは神だよ。でもチートな能力も魔法も持っていないノーマルなホモサピエンスであると思う。

 強いて言えば相手が感情を出してくるタイミングみたいなものを巧みにとらえて会話を進行するというか……説明がムズいな。

 高額な壺を言葉巧みに売りつけてくる人とは違うと思う。

 う~ん、わかんね。

 でも彼が目の前にいると、どんなに大きなお世話な注意を受けていてもウザいと感じさせない癒し効果があった。どういうわけか彼の顔を見ながら声を聴いていると、不思議となごんでしまう。たまにそういう人いないかな?

 どこかの宗教家が言っていたが、同じ人が人間に何度も何度も生まれ変わっていると、幼少時から聖人に近い人間になる(?)らしい。ウッチィはそれかもしれなかった。

 彼はいつでも俺たちと真剣に向き合ってくれた。𠮟りつけることも遊びも勉強もスポーツも、時には互いの譲れない気持ちが頂点に達して、喧嘩をすることになってもである。

 けっしてあきらめずに。


 俺たち3人は打田のことになるとついつい熱く語ってしまう。


 喧嘩といえば入学当時、まだ気分は小学生だった頃、打田と俺ら3人が初めて乱闘したことを思い出す。

 打田は痩せていた。俺と元木はその容姿のことを、冗談半分、からかい半分で口に出してしまった。それを聞いた彼はムキになって、満身の力で俺たち二人に身体をぶつけてきたのだ。よほど悔しかったのだろう。

 そこに途中参加のまったく状況のつかめていない格闘技が好きな宮田が入ってきて、とっさに打田の両腕をしっかり握って、彼に足掛けをして寝技に持ち込み静かにさせようとした。後でさすがにそれが危険な行為に思えたので、宮田になぜあの時、打田の足を掛けたのか?と問いただしたところ、あの時は寝技にハマっていたらしい。

 しかしその時打田は一瞬で宮田の身体をすり抜けて、ひょいといったん中腰になりケツを突き出して、自分のお尻の奥の二極の座骨をうつ伏せになっている宮田のお尻にめがけて、命中させたのだ。

「痛っ!」宮田はうめいたが、ほんの少しだけ、彼の表情にみがこぼれていた。自分より明らかに弱そうな打田が、オリジナルの、とっておきの技をかけてきたのだ。しかも素早くすり抜けて。打田は運動神経がよかった。

 なんと手練てだれであった。

 人は、想像もしなかった相手の意外な動きにビックリすると、笑いがこみ上げてくるらしい。もう笑うしかないっていう感じなのだろうか⁈

 その有様ありさまに元木と俺は宮田につられて笑ってしまった。

 打田は宮田の身体を素早くすり抜けた満足感と勝利の笑みもあいまって、充足した顔をしていた。

 その後しばらくの間、4人で今の乱闘の解説をしながら爆笑していた。


 見た目で人の体力を計るのが良くないことは今では理解している。人をからかうことも悪かったと思っている。周囲から見たら3人組が彼を虐めているように感じたかもしれないが、打田は暴言や暴力などのつまらない虐めに屈するほどやわな男ではない。

 彼は、誰の前でも堂々としていた。

 ごまかそうとはしなかった。

 逃げなかった。

 俺たちに粘り強く付き合ってくれた彼のスタイルを俺たちの両親を含めた商店街の皆様方が一番よくご存じなのである。

 その後卒業するまで打田の尻技しりわざによって、悪ガキ3人組は何度も身体で罪をつぐなった。


 ウッチィこと打田はいろんな意味で「骨のある男」である。


 打田も俺たちと3年間同じクラスであった。彼は4人目の仲間である。彼がいなければ俺たちの中学校生活はどんなに空虚になったか知れない。ひょっとしたら本当に非行に走っていたかもしれない。

 3人の悪ガキどもに人生におけるピリリと辛い厳しさをふり掛け、そして軽い罰としてコミカルな尻技を仕掛けてくれたのだ。


 俺たち3人組は今か今かと、ウッチィがこの同窓会に来場するのを待っている。

 彼を満面の笑みで迎えたい!!!


 また4人で爆笑したい!!!!


 打田のケツにはお世話になったのだから!!!


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