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120「奪われたタロウ」


「――ぬなぁっ!? ジ、ジジィにキスされたっす!?」

「黙れタロウ。そのままジッとしておれ」


 改めてタロウに口付けしようとするパンチョ兄ちゃん。

 これは一体どうすれば良いんでしょう……。


『ヴァン。タロウ、ガ、危険。メロ』

「え? タロウが危険? 貞操――」


 僕がとぼけた事を口走りかけたのと同時にロップス殿が叫び、走り出しました。


「……――まさかかぁ!!」


 一瞬遅れて僕も走り出します。

 なるほど、『神の影』に取り憑かれていましたか。

 漆黒の魔力を扱うという神の影の特徴を隠すのにパンチョ兄ちゃんは打って付けです。

 戦いに魔力をほぼ使いませんから。


 洗練されたパンチョ兄ちゃんの動きに、さらに数倍のパワー、イロファス住民を簡単に片付けてしまえる筈ですね。


「今頃気付いても遅いわ。明昏天地あかぐらきてんちの宝剣よ、我を守れ!」


 パンチョ兄ちゃんが逆手に持った剣を大地へと突き立てた途端、半球状の結界に包まれてしまいました。


「ぬぅぅ、結界か! なんとかならんかヴァン殿!」


 結界のすぐ外で急停止したロップス殿がこちらを振り向いて叫びます。


「たぁぁぁ!」


 走る勢いのままで跳び、思いっきり大剣を叩きつけました。


 ガィン、と音を立てて弾かれる僕の大剣。


「くっ、傷ひとつつきません!」


 どうやら光の魔法の結界。膨大な魔力をぶつけるか、強烈な物理的な衝撃が必要です。


「なんだ!? 殴れば良いのか!? ならば私も!」


 ロップス殿と二人で斬りつけたり殴ったりしてみせますが、ビクともしません。


『わぉぉぉぉおおん!』

『メェェェェエエエ!』


 ロボとプックルでもダメ、これはどうすれば……。


「地面の下はどうだ!? 土の魔法でなんとかならんか!?」

「それも試しました! 半球状の結界に見えますが、実際には球状、地面の下も覆っています!」


 このまま見ているだけではタロウが奪われてしまいます。それだけは避けなければなりませんが、手の打ちようが……。



『ヴァン! ボクを解放しろ! そうすれば幾らか魔力が回復するだろう!』


 そういう訳にもいきません。

 仰る通り、ウギーさんを解放すれば魔力の回復量は飛躍的に増します。


 しますが、単純にウギーさんという敵も増えます。



「できるわけないんだぞ! ボクの魔術はまだ生きてるんだぞ!」


 街の入り口付近で声が上がります。

 うるさいのがやはり居ましたか。


 今はイギーさんに構っている暇はないんですが。


「アンテオにくれてやった左腕は僕の下に戻ったが、ウギーにくれてやった右目は未だにウギーの中。解放すればすぐさまヴァンを血祭りにあげてやるんだぞ」


 そうですか。

 プックルの眠クナル魔法で眠った子供たちの中に狸寝入りで紛れ込んでいたんですね。

 子供の背丈ですし、最初に眠った子供たちには灯りを当ててまで確認しませんでした。


「それにもう遅い! 見ろ! オギーはもうタロウの中なんだぞ!」



 パシッと音を立てて消え去る結界。その中心で立ち尽くすタロウ。そしてパンチョ兄ちゃんがその足下に崩れ落ちました。


「……タロ――ウ、すま……ぬ……」




「……あ、…………ぁぁ、あ、あ……」


 両腕で自分の体を抱いてガクガクと体を震わせるタロウ――


「ぁ、ぁ、ぅ、ぅあああ……ぁぁあぁあ!」


 全身から漆黒の魔力が――


「どうにかできんのか! まだ何か手があるだろう!」


「ぁぁあああああ!」


 タロウの全身を漆黒の魔力が覆い噴き出しています――


『……残念だけど、無い。黒い魔力が全身に行き渡ってる。完全に同化した』


「あーはっはっはっ! ようやく新たな礎を手に入れたんだぞ! これで僕らの計画を進められ――――なんだぁ!?」


「ぁぁああぁぁぎゃぁおああああ!」


 タロウから迸る漆黒の魔力が火柱のごとく噴き上がり、僕らやイギーさんを含む周囲全てを吹き飛ばしました!


「……おいオギー! やり過ぎだ!」

「ぎゃぉぁああぁぁああああ!」


「なんなんだぞ!? おいオギー! 返事しろ!」


 タロウが叫び暴れています。


「みんな無事ですか!?」

「タロウは一体どうしたと言うのだ!」


 全身に魔力を纏わせ、荒れ狂う魔力の中で頭を掻きむしっては自らの胸や腹を強く殴りつけています。


『ウギーと戦った時の様でござる……』

 プックルに咥えられたままのロボが言います。


『……いや、あれじゃボクと戦った時よりも酷いよ』



 明らかに普通ではありませんが、イギーさんの様子を見る限りでは想定外の事態の様ですね。


 僕らにとっては、もしかしたら良い想定外かも知れません。


 何故なら、吹き飛ばされる寸前に確かに僕は見ました。

 漆黒の魔力の更に内側、真紅の魔力がタロウから迸るのを!



「ぎゃぉぁぁぁぁあああああ!」


 タロウの体から立ち昇る魔力は依然として強烈ですが、漆黒の魔力は不安定に揺らいで見えます。


 その揺らぎと共に、ちらちらと真紅の魔力、更に時折り、深い青空のような、紺碧の魔力も垣間見えます。


「ど、どういう状況なのだ……」

「戦っているようです。神の影に対して、明き神とタロウが」


「明き神だと!? あの人族には明き神さえ付いていると言うのか!?」

「ええ。タロウはこの世界で唯一人、明き神に魔力を貸し与えられている人族です」


「そんなバカな事があるか! 明き神とはこの星そのものだろう! そんな力をたった一人の人族に与えるなんて自殺行為だ! 力尽きてオギーの手に落ちるに決まってるんだぞ!」


 イギーさんの言う自殺行為というのが、明き神に対してかタロウに対してかは分かりませんが、実際タロウは二つの魔力を持ってして神の影に対峙しているようです。


「自殺行為かどうかは知りませんが、僕はタロウと明き神を信じますよ。ウチのタロウのことですから、イギーさんの予想を裏切ると思いますよ」


「びっくりしたっすねー、とか言ってな」

『それがしもそう思うでござる!』

『プックルモ、思ウ』

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