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119「遂にボケたんすか」


「けふ…………がふっ」


「ヴァンよ、ここまでご苦労だったな」


 完全に、油断していました。

 いやでもだって……この流れなら普通するでしょう?


 まさかパンチョ兄ちゃんに刺されるとは……、思ってもみませんでした……。



「ここからはわれがタロウを師の下まで連れて行く。安心して眠れ」

「タ、ロウ……、逃げ……て」


 前のめりに倒れた僕を、パンチョ兄ちゃんがその肩で受け止めました。

 ゲホゲホと咳き込んだせいで、パンチョ兄ちゃんの肩から背中にかけて僕の血で真っ赤になってしまいました。


『おいトカゲマン! ヴァンがやられた! なんとかしろ!』


「ぬ? ウギーか?」


 ロップス殿がこちらの様子に気付いてくれましたか。


「……パンチョ殿? なぜヴァン殿の背から刃が飛び出して…………乱心したか! パンチョ殿!」

「そうだな、ロップス殿も要らんだろう」


 パンチョ兄ちゃんが僕の体から少し体を離し、柄を握り直して力を籠めます。


「う――ぐぅあぁあっ」


 勢いよく剣を引き抜かれ激痛が走ります。すぐにでも気を失いそうな痛み――痛さと言うよりこの熱さ、これは完全に心臓をいかれています。かなりヤバいですね。



 パンチョ兄ちゃんがロップス殿へと体を向け、同時に支えを失った僕は大地に引かれるまま倒れ伏しました。



「は――速いっ……ぐは、ぁぁっ!」


 左手に持った空の鞘でロップス殿の側頭部を殴りつけ、さらにそのまま振り抜いて地に叩きつけました。


「……ぐぅぅ。なんという速さ、だ……」

「ほう、死なん程度には反応したか。魔力操作のレベルは相当だな」


 ロップス殿も一撃で……。

 のんびり倒れている訳にはいきませんね。


 けれど、なんとか体を起こそうとするんですが、どうにも力が入りません。

 さすがに心臓を貫かれたのは人生で初めてです。回復の煙が左胸から立ち昇り始めましたから死にはしないと思いますが、どの程度の時間と魔力で回復するのか読めません。

 さらに残存魔力量も頼りないです。


 それどころか、ところどころ意識が途切れ途切れです。


 しっかりしろ、僕――



「え? ……ちょぉ! パンチョさん何やってんすか!? 遂にボケたんすか!」

「タロウよ。我と共に来い。アギー達が待っている」


「なん言ってんすか! ロボ! ヴァンさん達に慰撫っす!」

「させんよ」


 のんびりと歩み寄っている様に見えますが、実際にはあっという間にロボの目前に辿り着いています。


「すまんな。女子供を斬る剣は持たん、許せ」

『ギャウンッ!』


 ロボにも鞘の一撃、ロボにまで手を上げるとは許せません。

 しかし、すみません、もうちょっとだけ待って下さい。

 まだ、体が動きませ……――



「こ、こんなろー! 偽物だったんすね!」

「偽物とは心外だな。我は間違いなくパンチョ、人族の勇者ファネルの一番弟子よ!」


「嘘つくなっす! でぁぁ!」

「ふん。この師から頂戴した明昏天地あかぐらきてんちの宝剣が証よ! これで大人しくしておれ!」


『タロウ、危ナイ』

「平気っす! 土の壁なんかに捕まらんすよ!」

「ほう。避けたか」

「今度はこっちの番すよ! 風の刃の嵐っす! でぁぁぁぁ!」


「ふん、つまらん魔法よ。当たらねばどうという事もないわ」



『――プックル、今の内に殴り飛ばされたロボを助けて欲しいんす。とにかくヴァンさんとロップスさんに慰撫を頼むっす!』

『任セロ』



「おっりゃぁぁ! まだまだ嵐!」

「無駄な事は止めよ。我には当たらんよ」


「た、確かに当たらんっすね、ならこれでどうっすか!」

「……ただの水……? ……雷の魔法か!」


「パンチョさんがびしょびしょになったとこで――、喰らうっす! 雷の竜!」

明昏天地あかぐらきてんちの宝剣よ! 起こせ竜巻!」


「あ――あぁ、竜巻で水も雷も空に……。それじゃ当たんねーっすよ!」




 ……――あ? いけません。

 完全に意識を失っていました。


 どのくらいの間、寝ていたんでしょう。

 濛々と立ち昇る僕の煙に変化はありませんが、なんとか体を動かせる程度には回復した様ですね。


 腕を突っ張って上体を起こ――

『慰撫でござる!』「がーーうぅぅ!」


 ロボから放たれた大きな肉球が、起き上がろうとした僕を地面に叩きつけます。


『ヴァン殿! ロップス殿! 平気でござるか!?』



 パァァァッと薄桃色の魔力が体を包み、胸の傷をどんどんと癒していくのを感じます。

 ダメージはまだ有りますが、とりあえず煙が止まったのが有難い、あのままではじきに魔力枯渇を起こすところでした。


 ロップス殿はすでに立ち上がった様ですね。


 立ち上がりロボへと視線を向けると、プックルに首の根を咥えられぶら下がったロボと目が合いました。


「ロボ、プックル、助かりました。ロボは平気ですか?」

『それがしは殴られただけでござる! それよりもタロウ殿が!』

「…………殴られた、ですって?」


「魔獣風情ふぜい供が面倒な事を……。今更その二人を癒したところでなんら変わらんよ」


「くっそぉぉ! 手も足も出んっす!」

「タロウ、お前はもうそろそろ黙れ」

「ぐぅぅ――」


 タロウの首を掴んで左手一本で持ち上げるパンチョ兄ちゃん。


「闇の棘!」

「無駄だ。我には当たらぬよ」


 右手の剣のひと振りで砕かれる僕の魔法、悔しいですが魔力の乏しい僕ではまともにやっても太刀打ちできそうにないですね。


「貴方、やはりパンチョ兄ちゃんではありませんね?」


 あんなに仲の良かったプックルの事を魔獣風情呼ばわりする訳がありません。


「我はまごう方なきパンチョよ。疑うのももっともだがな」


 見た目、喋り方、恐らく戦い方も、全てにおいてパンチョ兄ちゃんです。


 ですが――


「お主らの相手も飽きた。もう面倒だ」



 タロウの首を掴んだままに引き寄せ、その唇へとパンチョ兄ちゃんが自らの唇を重ね合わせました。

 え…………? いきなり何が始まったんでしょう……


「――ぬなぁっ!? ジ、ジジィにキスされたっす!?」

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