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117.5「パンチョ:西へ東へ左へ右へ」


 ブラム様の城から真っ直ぐに北へと向かった筈だったのだが、数日歩いても一番近いミウ村にさえ辿り着けなんだわ。


 昔はこんな事は無かった。


 いや――初めて訪れる所は大抵、他の者の倍ほどの日数を要したのは確かだ。

 しかし、二回目に訪れる際には迷う事なくその半分ほどで着けたものよ。


 む?

 倍の半分となると、二回目にしてようやく他の者と同じという事か。


 もしかして我はアレか。

 方向音痴というやつ……なのか。


 そうか……、そうかも知れんな。

 思い当たる節があり過ぎるわ。


 八十七にもなって自分の事で知らん事があるとは思わなんだ。

 今日は良い「気付き」を得た。

 誠に佳き日であるな。



 ところで此処ここは一体どこなのだ。


 歩いた日数的に考えて、ブラム様の城から真北という事はもはやあるまい。


 やや東か西、どちらかにれて進んでおるのであろう。

 問題はどちらに逸れているかだな。


 まさか南へ向いているという事もあるまい。


 …………さすがに無いよな?



 それにしても何度も訪れた師の下へも辿り着けん様になるとは……、やはり体はともかく頭は耄碌もうろくしたのであろうか……。



 よし、愚痴々々ぐちぐち言ってもしょうがない、とりあえずはやや西に向いているものと仮定しよう。

 この仮定が合っていれば、ここからやや右手に進めばミウ村、イロファスの町、ファネルの街、この三つを結ぶ街道にぶち当たる筈だ。


 三日行ってぶち当たらなければ、倍の角度で左手へ折れて六日進もう。


 ふふふ。

 さすがは我、完璧な作戦だ。

 たとえ万が一にも我が方向音痴であろうとも、ここまで入念な作戦であれば困る事もあるまいて。






 ――おかしい。

 かれこれひと月ほども右へ左へと角度を変えては歩き続けておる。

 森に岩場に少々の山登り、そんなはずはないんだが。


 七月の中旬にヴァンらと別れてから、ぶっちゃけ前に進んでいるのかさえ覚束おぼつかんぞ。



 んむ?

 街だ! 街が見える!

 どこをどう歩いたかさっぱり分からんが、ミウ村でもイロファスの町でもない、だ!



 なんとか北には進んでたか……。

 正直言ってホッとしたわ。


 さすがはパンチョ、さすがは人族の勇者の一番弟子よ……。

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