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117「現れた男」


 動きも力も尋常ではありませんが、戦闘力という意味では大した事ありません。


 身体強化を覚え始めた頃のタロウぐらいでしょうか。



 土の大壁を飛び越えて追いかけてきた数人を相手取って大立ち回り。

 けれど、とにかく大怪我はさせたくありませんので手加減していますが、そうするとすぐに立ち上がって戦線に復帰してしまいます。


 思ったよりも大変ですねコレ。


 タロウ達の下へ行かさなければ僕の勝ちです。

 ですが、ひと足先に北へ進んだタロウたちがじりじりととこちらへ歩み寄って来ている様ですね。



「ヴァンさん!」

「来ないで! ここは僕が――」


 ……そうですか、はぁ。

 僕を助けにやって来た訳ではないんですね。


 こちらへ後戻りするタロウ達の方に目をやれば、その更に先に数十人の人だかりが。


「すまんなヴァン殿、蹴散らせん事はなかったんだが……」

「いえ、分かります。乱戦になる事と、僕と分断される事を懸念してくれたんですね」



 それにしても、どうしましょうね。


 こんな事ならイロファスの手前でやすんで朝から訪れるべきでした。

 というのも精魔術結界の維持で魔力量が頼りないからです。


「とりあえず全員、魔力を纏って身を守りましょう」

「もうやってるっす!」


 見ればロップス殿を除いてみんなの体が各々の魔力色で覆われていました。


「ロップス殿は?」

「長丁場になれば私の魔力量ではたんかも知れん。しかし心配いらん、魔力操作できっちりと弾いてやるわ」


 さすがですね。

 体の外を覆う魔力ガードは魔力を消費しますが、ロップス殿の魔力操作は体内を巡らせるだけですから魔力消費なし。

 本当にロップス殿向きな技ですね。


 時折り襲い掛かってくる住民には、北からはロップス殿、南からは僕がすぐさま対応しています。

 対応と言っても近付いて殴り飛ばすだけですけどね。



「プックルの眠クナル魔法でどうだろうか?」

「良い案ですね。試しにやってみましょうか」

『任セロ』


『♪メェェエェェェェエエェェェ♪』


 相変わらず良い声です。

 南側の集団後方から投石を行なっていた子供たちがバタバタと倒れていきました。


「……効くには効いたか」

『子供、ダケ』


 子供たちだけ眠ったと言うことは、大人たちとの魔力量の差によるものでしょう。

 どうやら各々の魔力を使って身体強化を行なっている様ですね。

 普通の人たちが限界を超えて魔力を使い続けるのは危険です。早いうちに何とか出来ると良いんですが……。




 しかしそうは言ってもなんの進展もないまま、すっかり日が落ちてしまいました。


「灯り、点けたほうが良いっすか?」

「そう……ですね。どうやら彼らは日が落ちた今でも見えている様ですし、僕らだけ見え難いのは不利でしょう。お願いします」


 僕とロボは割りと夜目が効きますけどね、タロウたちはそういう訳にもいきません。


 淡く光る光の玉が、タロウの両掌からそれぞれ一つずつ現れました。


『あんまり明るくないでござるよ?』

「まだまだこれからっすよ」


 掌からフワフワと浮かび上がり、一つはロップス殿の前方上空、もう一つは僕の前方上空で止まりました。


「ここで……こうっす! スゥイッチ〜〜オン!」


 タロウが振りかぶった両手の人差し指を上から下へ、何かを押さえる様な動きをしたかと思うと同時に、カァッと光の玉の明るさが強さを増しました。


 光球を遠隔操作ですか。

 タロウの魔法も堂に入ってきましたね。

 ちょっと変わった使い方が多いのがタロウらしいですが。


「こんな感じでどうっすか?」


 住民たちの様子も良く分かります。


「良い感じです。もっと数を増やしたり細かく動かしたりも可能ですか?」

「余裕っす!」

「何か良い考えがあるのか?」


 とにかく今重要なのは、住民たちの中に『神の影』に取り憑かれた人が居ないか、もしくは有翼人が潜んで居ないか、これに尽きると思います。


「ええ。タロウの光球で照らし、怪しい者が居ないか観察しようと思います。僕とロップス殿で住民たちに対応して、タロウたちは観察、これで行きましょう」


「おいウギーよ。『神の影』が取り憑いた人間を見分ける方法なんかは無いのか?」

『無いね。僕が見たって分かんないもん』

「全く! 使えん奴だ!」


「という事ですので、普通に操られている人たちと違う動きや様子の人がいないかどうか、この点に絞って観察して下さい」

「おお! さすがヴァン殿!」





 どれ位が経ったでしょうか。

 日が暮れてから随分と長い間ずっと同じ事を繰り返しています。


『居ないでござる!』

『有翼人、居ナイ』

「たぶんっすけど神の影入りの人も居ないっす!」


「ヴァン殿、これはもう一気に囲みを破った方が良いんじゃないだろうか」

「そうですね。ちょっと心配し過ぎでしたか」


 僕の魔力ももう残り少ないです。

 思い切って押し通るならこのタイミングですね。


「北へ抜けましょう。合図したら僕とロップス殿で北の囲みをこじ開け――――タロウ! 灯りを! 北の集団の更に後方、丘の上に怪しい人影が!」

「なん!? 了解っす!」


 タロウの光球がスーッと動き、丘に立つ人影をカァッと照らし、照らし出された人影が声高に叫びました。



「我が名はパンチョ! 人族の勇者ファネルの一番弟子である!」

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