【ヒトならざる華】
鍋をつつき缶チューハイをあおった葵が、ひっくとしゃくり上げながら据わった目を向けてくる。
「やぁっくぅーん。今夜ぁ、姉ちゃんはぁ、イヤホンでぇ、マぁイケーぇル・ジャクソーン聴きながらぁ……ひっく……リビングのソファでぇ、うへへぇ、寝ることにぃ……しましたぁっ!」
「うん、お願いね。あと二、三缶飲んでぐっすり眠って?」
「ちょっ、大和、お姉さん大丈夫なんですか? もうすでにべろんべろんで……」
「僕は君のために言ってるのに」
「……僕のため?」
葵がとうとう突っ伏したのをいいことに、大和は男のすぐ隣までいざり寄る。
「パーカー姿も似合ってるね。可愛い」
「やまっ、待っ、お姉さん、が……」
「大丈夫、大丈夫」
床に座ってソファの下部に凭れている男をソファとの間に閉じ込めるように、両手をつく。不安と期待が混ぜこぜになった青い瞳が大和を見上げる。
その瞳に問いかける。
「ねぇ、サクラさん。これからもずっと、僕と一緒にいてくれる? なるべく早く生まれ変わるから、また僕と出逢ってくれる?」
「大和……」
男は瞳を揺らし、綺麗な顔をくしゃりと歪めて答える。
「もちろん、ずっと一緒ですよ。何度あなたが生まれ変わっても、何年待たされたとしても……僕は必ずあなたと出逢います。これは、永遠に終わらない恋なんです」
終わらせないために、この健気な桜の精は待っていてくれるというのだ。死んだらリセットされてしまう儚いヒトの心を信じ、永遠の恋心を抱いて。
「ありがとう、サクラさん。大好きだよ」
「僕も大好きですよ、大和」
ヒトは美しくも儚い。ならばせめて、優しい桜の精に固い誓いを立てよう。彼の心が枯れてしまわないように。
彼からしてみれば一瞬のきらめきのようなヒトの一生。このひとときを、永遠の春にするために。
約束するよ、サクラさん。
何度生まれ変わっても、僕の魂は君に恋をする。
了