眠っていたセンは何かの気配を感じ、目をパッと見開く。
今までにないほどの殺気を感じたセンは眠気が一気に吹き飛び、上半身を起こした。
暗い部屋の中、扉付近に視線を向ける。
(―――誰か、来る)
そう思ったセンは物音を立てることなく、警戒しつつ、ゆっくりと立ち上って、扉の真横に移動した。
感覚を研ぎ澄ませ、扉の向こう側に意識を向ける。
(――――相手は1人、他に通路あたりに複数人)
センは相手が、1人ずつこの部屋に入ってきていると考えた。
(――――この感じ……暗殺者)
ドアノブがゆっくりと回され、扉が少しづつ開いていく。
息をひそめて、センは身構えた。
開いた扉の隙間から、黒い人影が現れる。
右手には剣が握られていた。
剣を握っていることを確認したセンは相手が敵意を持っていることを瞬時に理解した。
ジパルグ人の血がざわつく。
全身の血がまるで、沸騰するかのように熱を帯び、その人影を殺せ、とセンの本能が命令する。
部屋の中に入って、アベルを見つけた人影はゆっくりと近づこうとした。
意識は完全にアベルへと集中している中で、センは人影の腰にしまっている短剣に一瞥したあと、背後に素早く歩み寄って、奪い取り、膝裏を蹴りつけ、体勢を崩させ、膝まづいたところを、口を手でふさぎ、わき腹を一突き、さらに喉笛を躊躇いもなく、切り裂いた。
それに、マグノリアが剣を握ったまま飛び起きる。センの足元に血だまりができ、そこに倒れている人影を見て何が起きたのかを一瞬で理解した。剣を引き抜き、構えた。センが人差し指を口元に当て、静かにするようにと促す。
「まだ廊下に何人かいます」
「暗殺者か」
「おそらく」
センは殺した男の剣を拾い上げ、壁際へ移動し、警戒する。
マグノリアは、コニー、ヴィクトールを起こし、同じく静かに動くように指示した後、アベルを起こすために肩を揺らす。
「どうした?」
「暗殺者です」
マグノリアの言葉にアベルは目を見開いた後、近くに置いていた剣を手に取って、鞘から引き抜く。
アベルが剣を構えたところで、廊下へ続く扉から暗殺者が飛び込んできた。
彼らも、アベル達が自分たちの存在に気付いたことに気付いていたようだ。
一人をセンが剣で防いで動きを止め、もう一人をマグノリアが切り伏せる。
鍔迫り合いの状態から相手の力を受け流すようにセンが剣を横に振り、体勢を崩し暗殺者の体を一刀両断する。
訓練を受けていないと思っていたアベルはセンの剣の扱いに驚いた。
ヴィクトールとコニーはアベルを守るため、目の前に立ち、守りを固める。
センとマグノリアは入ってくる暗殺者を次々に斬り伏せていった。
部屋に入ってくる暗殺者を数えていくと、全部で10人いたが、アベルに近づける者はだれ一人としていなかった。
最後の一人をセンは首を刎ね、暗殺者の襲撃は終わった。
部屋の中に充満した血の臭いが部屋にいる者達の鼻腔を刺激させる。
マグノリアが廊下に出て、誰もいないことを確認したあとアベルに振り返り頷く。
アベルたちは両肩に入った力を抜き、ゆっくりと息を吐いた。
ひと段落ついたということで、血だまりの中に横たわる死体にアベルは顔を顰める。
自分を狙った男たち。
戦場で戦い、最前線で剣を振り続けてきた彼にとっては、生死については慣れているつもりだったが、こうして、自分を狙って、男たちが殺到することには正直驚きが隠せなかった。それも、戦場でもない内地で起きたこと。
これまでにない経験に動悸がしていた。
コニーがその場に膝をつき、マントをはぎ取る。
暗殺者にしては装備はバラバラで、服装も統一されていない。
紋章などはないため、どこかの貴族などに所属しているようには思えなかった。
センが死んだ男たちの顔を覗き込み、指さす。
「この男、それにこの男も酒場にいました」
「なに?」
アベルはセンに言われて、じっくりと見つめなおす。
確かにセンの言う通り、酒場で酒を飲んでいた男だった。
「やはり、傭兵か?」
ヴィクトールもある程度は、予想していたようで、納得気に声を漏らす。
「でしょう。だが、腕はかなり低い。おそらく、その場で雇われた切り捨てでしょう」
コニーが剣についた血を死んだ男の布きれで拭いながら冷静に分析する。
「トカゲの尻尾切りってやつか。街の中で襲うとはなかなかの賭けに出たな」
アベルがそういうとヴィクトールが腕を組みながら、まったくだ、と頷く。
街の外で暗殺をした方が人目にもつかず、また寝込みを襲うなら成功もしやすいし魔物や盗賊、蛮族に襲われることもしょっ中あるから足が付きにくい。
実際、多くの人間が行方不明となっていることから暗殺者の多くが街の外で襲撃しているのは事実だった。
「これだけじゃなさそうだな」
アベルが顎に手を当てて、思考する。
「えぇ。もしかすると外にもまだいる可能性があります」
とマグノリアが同意する。
センは扉から廊下を左右から誰かが来ないかを警戒しコニーが窓際に移動し、外の様子を伺うことにした。