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第14話 迫りくる影

アベルたちはバラバラに部屋を借りるのではなく、一部屋で5人が泊まることにした。


少し窮屈ではあるが全員が集まっているほうが何かが起きたときに対応しやすいので、そのほうがよいということになった。


夜も遅く、旅の疲れも出ていたアベルたちはそれぞれの割り振りしたベッドに横になる。


ヴィクトールは大の字でいびきをかき、コニーは蝋燭の灯りを頼りに読書に励んでいた。


マグノリアは剣を抱えたまま寝息を立てている。


コニーとマグノリアは今日の夜の見張り番をするらしく、数刻したらマグノリアをコニーが起こすことになっていた。


アベルはそんな彼らを一瞥した後、天井へと視線を向け、瞼を閉じた。


センもベッドに横になっていたが、これまで、床で寝ていたこともあり、なんだか、寝付けなかった。


寝る姿勢を何度も変えては、眠ることができず、羽織っていた毛布を頭から被り、目を閉じる。


コニーはその様子を一瞥した後、ページを静かにめくった。


もぞもぞと毛布の中で動くセンにコニーが声をかけた。


「寝れないのか?」


それに毛布の中から答える。


「はい」

「そうか」


コニーはそういって、しばらくの間を空けてから気になったことを訊ねた。


「君は、奴隷になってどれくらいになるんだ?」


その問いに数秒の沈黙を挟む。


毛布から出て、上半身をゆっくりと起こした。


思い出そうと顔を歪めて、頭を抱える。


「……わかりません」

「わからない?」

「はい。気づいたらこの国にいました」

「どういうことだ?」

「記憶がないんです。奴隷になる前の記憶が」


コニーは、センのその答えに少し驚く。


記憶喪失になった経緯が気になり、詳しく知りたいと本を閉じ、自分の顎に手を乗せ、しばらく考えたあとセンに訊ねる。


「自分がジパルグ人だということは?」

「親方からは教えてもらいました」

「捕まる前、5人殺したことは覚えているか」

「いいえ。気づけば、手が血まみれでした」


コニーはその話を聞いて、一度口を閉ざす。


彼女は無意識のまま、本能にしたがって、人を殺した。そう考えた。


流石は戦闘民族と言われるだけがある、と感心しつつも、なぜ、記憶喪失となったのか、考えた。


「なにか頭に強い衝撃を受けたのか、あるいは思い出したくない過去を忘れるために、記憶に蓋をしたのか」


コニーはそう考察する。


彼は、いろいろな本を読んでおり、医学的な書物にも目を通していた。


そのため、記憶をなくすことなどの事例はいくつか知っていた。


「時間と共に記憶が戻る、という事例もある。他にもなにか同じような衝撃があれば、その拍子に思い出すこともあるそうだ」


それにセンは視線を落とす。


「いいんです。私は」

「ん?」

「記憶がなくてもいいんです。別に困らないので」

「そうか? 自分がどう生きてきたとか、両親のことが知りたいとは思わないのか?」

「……思いません。今は、アベル様に命を救って頂いた御恩に報いるためにもどこまでもついていくつもりです」

「そうか」


そう短く答えたあと、再び言葉を発する。


「君は運がいい」


それにセンは小首を傾げた。


コニーが視線を眠っているアベルへと向ける。


センもその視線を追うように彼を見つめた。


「若様はアルデシール王国の中では、まともな人間だよ。君を一人の人として見ている」


その言葉にセンはアベルの寝顔をもう一度見た。


コニーが言葉を続ける。


「若様は貴族の中でも変わり方だよ。常に最前線で兵士と共に戦い、こうして、僕達と一緒に寝食を共にしている。僕達のことを部下ではなく、仲間として、接してくれているんだ。そんな貴族どこにもいないよ。見たことがない。僕は彼とどこまでも一緒にいたい、そう思ってる」


コニーはアベルを見ながら嬉しそうな顔をした。


いつもは感情を出さない冷たい表情から一変して、心底、惚れているような表情だった。


「コニー、気持ち悪い顔で若をみんじゃねぇーよ」


その声にコニーはドキッとする。


声の主はヴィクトールだった。


いつの間にか、起きていたようで、水を飲んでいたようだ。


コニーは、バツが悪そうにして、本を投げつける。


「いてッ。なんすんだ」

「うるさい。酒臭いんだよ。ここまで臭ってくる」


ヴィクトールはそりゃ、わるーございました、と言いながらあくびをし、頭をボリボリと搔いて、毛布に再びくるまった。


すぐに大きないびきが聞こえ、コニーはやれやれと頭を抱えた。


しかし、その顔は笑っていた。


「コニー、交代だ。眠ってくれ」


マグノリアがそう声をかけた。


「お、起きていたんですか?」


コニーの問いにマグノリアはあぁ、と頷いた。


顔を赤くしたコニーはもぉ、どいつもこいつも!っと言いながら毛布に勢いよくくるまった。


◆◆◆◆◆


―――暗闇に寝静まるベトリン街。家々の灯りはなく、夜霧だけが空を染めている。


そんな静かな通りを影が蠢いていた。


1つ、2つ、3つと徐々に数を増やし、やがて十数人にも達する。


影たちは、闇の中で息を潜め音を立てないようにと、慎重に足を運んでいた。


闇夜に紛れ、気配を殺しながら向かったのはカラック亭。


影たちは、扉に聞き耳をたてて中の様子を窺うと、その扉を開け中へと入っていく。


中に入り、出入り口を数人で固めると、残りの影たちは階段をのぼり、二階へと上がっていった。


人の気配を感じた店主の男が起き上がる。


「なんだ、誰かいるのか? まったく、こんな夜遅くに誰だいったい」


寝巻き姿のまま、燭台の蝋燭に火を灯し、その灯りを手に部屋の中を照らす。


ズシャリ、と鈍い音と共に冷たいなにか、鋭利なものが店主の腹を貫く。


赤い血がポタポタと床に落ち、血溜まりを作っていく。


「お、お前らは……」


影は、店主の腹から剣を抜き取る。


店主はその場にバタリと倒れ込み、口をパクパクさせたあと絶命した。


握られていた燭台の蝋燭が床に落ち、火は虚しげに消えさる。


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