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第13話 不穏な夜

マグノリアも横目で彼ら荒くれ者たちを一瞥し、ある疑問に感じた。


ちょうど、忙しそうにしていた中年の女店員が目の前を横切ろうとしたとき、マグノリアが呼び止める。


「いらっしゃい。何かご注文ですか?」

「一つ聞かせてくれ。普段からこの店には傭兵が多いのか」


店員はそれに眉を顰めたあと周囲を見渡し、口元に手を当てて壁を作り、声をひそめて答えた。


「それが今日は珍しくてね。多少はいるけど、こんなのは初めてだよ」

マグノリアはふむ、と口元に指をあて、思案顔になった。

「ありがとう。またあとで、注文する」

「あいよ。また声をかけてね。あー忙しい、忙しい」


中年の女店員がパタパタと去っていくと、マグノリアは視線をアベルへと向ける。


「どう思いますか?若様」

「マグノリアが考えていることと同じことを考える」


アベルは顎に拳を添えて、少し考えてから答えた。


「この街、危険かもしれません」


マグノリアは腰に下げている長剣の柄頭に手を添え、周囲を警戒したように見渡す。


コニーも違和感を察し本を閉じるとマグノリアと同じように剣柄に手を添えた。


「おいおい、勘弁してくれ。ビールの一杯や二杯くらい、飲ませてくれよ」


アベルはしばらく様子を伺ったが傭兵たちは歌や食事を楽しんでいるようで、殺気は感じられなかった。


肩に力が入っていたアベルだったが、ふっと息を吐くと、苦笑いする。


「それもそうだな」

「若様」


 マグノリアが何かを言おうとしたが手で、制する。


「街のど真ん中だ。事を起こすとしても、こんな場所ではやらないだろう」


アベルの答えにマグノリアは納得したように剣柄から手を離す。それでも鷹のような鋭い目からは警戒は解いてはいなさそうだった。


コニーも同じく、本を読まないことから付け入る隙を見せないようにしているようだ。


アベルも傭兵たちの動きには頻繁に気にするようにしていたが、あることに気づく。


傭兵の誰も目が合わないのだ。


それが逆に妙に感じた。


まるで、アベルたちを見ないように意識しているような。


再び中年の女店員が横切ろうとした時にアベルは食事の注文をする。


「この店のおすすめを5人分。それとビールも」


ビールにセンの顔を見た。明らかに店いねんだと思った中年の女店員が眉を寄せる。


「この子もかい?」

「いや、彼女には水で」

「あいよ」


女店員が注文を復唱し去っていく。


しばらくしてから料理が次々に運ばれてきた。


5人分ということもあって、テーブルは料理でいっぱいになっている。


焼き魚に玉ねぎ、焦がしバターのソースがかけられた料理、こんもりと盛られた焼き豚とジャガイモを炒めた料理、焼きたてのパン、チーズもあった。


かなりの量に一同驚く。


続けて、ビールが運び込まれると、ヴィクトールは乾杯もすることなく早速、一気に飲み干した。


それからすぐに追加のビールを注文する。


「おい、ヴィクトール、飲み過ぎには注意しろ。いざってときに動けるようにしておかないと護衛の意味がない」

マグノリアは注意するが、ヴィクトールはお構い無しにジョッキを空にして、手の甲で拭うと、溜まった息を吐く。


それにコニーが眉間にシワを寄せ、不愉快そうにする。


「臭い、ヴィクトール」

「いいじゃねぇーか。久々の酒なんだからよ。ほら、コニーも飲め、飲め」


そう言って、コニーの肩に腕を回して、無理やり飲ませようとダル絡みをしてきた。


「いいって、自分で飲むから」


コニーに押しのけられた。


ヴィクトールは一口飲んだ後、感想をのべる。


「ここのビールは南の商人から買ったビールには劣るが、まぁ、飲めないことはないな」


マグノリアは呆れたように頭を抱え、ため息を一つ。


アベルも苦笑いしたあと、お腹が空いたので、食事をしようとパンを手に取ったとき、ふと、センが気になり視線を送る。


彼女は見たことのない料理ばかりにどうしたらいいのかわからず、おどおどしていた。


それにアベルが優しく声をかける。


「気にすることはない。食べたいものから食べな」

「でも……私は奴隷の身で……」


「センはもう奴隷なんかじゃない。君は俺の大切な仲間だ」


センがアベルの言葉に驚いていた


「仲間ではなく、従者です、従者」


アベルの言葉にマグノリアが突っ込みを入れ、それに対してアベルは渋い顔をした。


「まぁ、そうともいう」


アベルがそう返事をするとマグノリアがうんうんと頷いた。


マグノリアは流石は騎士というところか、ナイフとフォークを器用に使い、静かに食事をしている。


センもパンを食べようと皿に盛り付けられた手を伸ばす。


一口では食べられないため、半分にちぎって、口に運ぶ。

パンは焼きたてで香ばしい香りがした。


奴隷の食事は粥に腐りかけのパン、それに残飯、といった粗末なもので、センも同じ待遇だった。


何度も、お腹を壊しては、吐いたのを思い出す。


作りたてで、湯気が立っている食事なんていつ以来だろうか。ふと、顔を上げるとアベルと目が合った。


センは慌てて視線をそらし、誤魔化すかのようにパンを何度もかじりつく。


それからアベルたち一行は食事を済ませて、休息するために宿屋で一泊することにした。


街の外で野宿する案や領主であるパルミロの屋敷に向かうのも案として出たが、そもそもパルミロの動向や街の状況を調べていないため、のこのこと屋敷に行くのは危険を伴うという結論に出た。


アルデシール王国領といっても辺境の地となれば、王の目は行き届いておらず、あれこれと画策している領主も多い。


パルミロが狡猾な男だと耳にしていたマグノリアは警戒すべきだとことあるごとに言う。


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