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第11話 東の国

マグノリアがセンに進むように促す。


「セン。若様の後ろをついていきなさい」


それにセンはこくりを頷き、ペタペタと歩く始めた。


その後姿をマグノリアは一瞥した。


ヴィクトールがマグノリアの横に並ぶ。


「可哀想に。どうして、またこんなところに来たんだろうな」

「さぁ。我々には予想もつかないこと」

「俺も奴隷に成り下がらないように、気を引き締めないとな」


ヴィクトールは両肩を竦めた。


「ホースウッド家もかなり、崖っぷちに立たされていますからね。近い将来、没落するかもですね」


コニーが懐から本を取り出し読みながらそうボソつく。


「おいおい、またお前はそういうことをいう」

「本当のことじゃないですか。100年も守り続けた領地を没収され、こんな辺境の土地に送られるなんて。まぁ、僕は静かな場所が好きなので、それはそれでいいんですが」


コニーは本から目を離さず、淡々とそう述べる。


「あ、でも、強いて言うならば、この湿気ですかね。大切な本がダメになってしまいますよ」


コニーは本をパラパラと捲る。


「お前は相変わらず、器用だな。読みながら歩くなんて」


ヴィクトールは関心しながらコニーのことを見る。


すると、コニーは本に目を落としたまま、話した。


「これができないと、読みたい本が読めないですからね」


その話し方はとても感情が籠っていなかった。


まるで、物に対するような発言だった。


そして、こう付け加えた。


「この領地の未来がどうなるかなんて、僕には関係ないことですよ」


コニーの発言にヴィクトールは苦笑いしため息を吐く。


「だとさ、マグノリア殿」


ホースウッド家の騎士であるマグノリアは前を向いたまま静かに答えた。


「私はホースウッド家に忠誠を誓った身。いかなる理由があっても、主とともに最後の時まで戦うのみだ」

「騎士道ってやつですかい。ご立派なことで」

「おいー後ろ、聞こえているぞ」


アベルが呆れた顔でそう指摘したあと、続けて言う。


「いろいろ不満なことがあるだろうし、将来どうなるか、正直、俺もわからない。だから抜け出すなら今のうちだ。今なら抜け出しても俺は咎めないし無駄死にすることもないんだぞ」


それにコニーは本から視線を上げる。


「僕は別にこのままでいいですよ。いざってときは考えますが」

「ヴィクトールはどうする?」

「まぁー今更どっかに行くって言ってもなぁー。このままやっていくしかないな」


ヴィクトールがそうぼやいた。


コニーは本に視線を戻しアベルはため息を吐いた。


しばらく歩いているとセンがか細い声で言う。


「あの……」

「ん? どうした?」

「あなた様をなんとお呼びしたらよろしいでしょうか?」


茶色の瞳がアベルを見つめる。


「あぁ、名前か。俺は……そうだな、『アベル』とでも呼んでくれ」


それにマグノリアが反応する。


「いけません。若様。あなた様はホースウッド家の次期当主。そのお方が名前で呼ばせるなどあってはいけません」

「そ、そうか……?」

「えぇ、そうです。この子には若様と呼ばせましょう」

「わ、わかった」


アベルはセンに向き直す。 苦笑いしながら言う。


「そういうことだ。あんまり様とか言われたくないんだが仕方がない」

「わかりました。若様」


センは小さく頷く。



♦♦♦♦♦



アベル一同は衣服店の前にとたどり着いた。店主が出迎えようと店から出てきた。


「らっしゃ―――」


店主がアベルの服装を見て、貴族だとすぐに気づき、驚いた顔をした後、笑みを浮かべながら口調が丁寧になる。


「これは、これは。ようこそお越しくださいました。当店にはどのようなご用件で?」

「服を買いたい」

「さようでございますか。どなたの服を?」


その問いにアベルは後ろで控えていたセンに視線を向ける。


「この子に合う服を見繕ってほしい」


商人がセンを見た瞬間、笑みが消える。眉を潜めながら尋ねてきた。


「この奴隷の服ですか?」

「あぁ、そうだ。なにか不満でも?」


アベルの後ろに控えていたマグノリアが腰に下げている剣柄に手を添えた。


ギロリと睨みつける。無言で、ただ睨みつける。


その迫力に商人は気圧された。


商人は慌てて、作り笑みを見せると品物を勧めた。


「こ、こちらとかどうでしょうか?」


青色に染めた絹で作られた服で、袖の部分がゆったりとしている。


街娘が着ていそうな可愛らしい服だった。


「セン、どうだ?」


それにセンはしばらく見つめたあと、首を左右に振った。


その反応にアベルは、そうか、気に入らないか、といい、別のを勧めてもらう。


「で、ではこちらとかどうでしょう? 南の地方から輸入された品になります。派手さはありませんが、地味すぎず、上品さを醸し出すデザインになっております」


今度は白い長袖の服だった。


生地が薄めで、通気性が良さそうだった。


湿気のある地域では重宝されそうな服だった。


センがそれをじーっと見つめたあと、また首を左右に振る。


「これも気に入らないのか」


アベルはセンが気に入った服を見つけるまで、何着でも探すつもりだった。


値段などは見ない。金貨は余裕があったからだ。


アベルが次の服を店主に持ってきてもらおうとしたとき、センがある場所へ指さした。


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