ライトメリッツの王城アノスの城門の前に盗賊団の一団が中に入っていった頭目と部下たちの帰りを今か今かと待ちわびていた頃だった。
「ぎゃああああああッ――――――!!」
男の断末魔が暗闇の中で響き渡る。続けて、何かが壊れる音や剣が床に落ちる音が立て続けに聞こえた。
「お、おい、今のはなんだ?」
「わ、わかんねぇ……お頭たちに何かあったのか」
ざわざわと盗賊団の男たちがどよめく。
やがて誰かが自分たちのほうへと近づいてきているのがわかった。
誰もが武器を手に取り、警戒を露わにする。
アノス城から盗賊の一人が飛び出してきた。
全身血だらけで、息も絶え絶えになりながら何かから必死に逃げてきた様子だった。
足がもつれて、地面に盛大に転げ込んだ。
「お、おいどうしたんだ?」
灯りにともされた盗賊の顔は恐怖に駆られ、目は泳いでいた。
「に、逃げろ……」
と叫びすぎたのか、掠れた声に聞き取れなかった盗賊たちは城から出てきた盗賊を囲うようにして顔を近づけた。
「ん、なんだって?」
「おい、お頭はどうした? 他の連中はどこにいったんだ?」
その質問に思い出したかのようにハッと我に返り、仲間たちに訴えかける。
「逃げろ!!今すぐにここから逃げろ!! ここは呪われている!!」
絶叫だった。それはまさしく断末魔の叫びに近くにいた盗賊たちは狼狽する。
「お、おい、落ち着け。一体全体、中で何があったんだ?」
中から出てきた盗賊が逃げろ、としか言わず、必死に訴えているとき、アノス城から甲冑が揺れ動く音が響いてきた。
それは金属と金属がこすれ合う音だった。暗闇の中、青い灯が二つ、四つと灯り始めた。
それが徐々に増え、やがて数十人の甲冑姿の騎士たちが姿を現した。
誰もがその手にさび付いた剣を手にし、鎧兜の鉄仮面からは青い瞳をギラギラと輝かせる。
白い霧状の冷気が足元から立ち上り、それと同時にがしゃん、がしゃんと金属音を盛大に立てながらゆっくりと近づいてくるのだ。
甲冑は返り血で真っ赤に染まり、それを見て、すぐ仲間が殺されたことを悟った。
盗賊たちがその恐ろしさに泡を吹き、逃げようとするが、恐怖で体が硬直し動けなかった。
兜を被っていない騎士へと視線を向ける。白骨化した顔、鎧もところどころ穴が開き、中も同じような状態だった。
まるで骸骨に無理やり鎧を着せたかのような姿だ。
誰かがぼそりという。
「アンデッド……?」
「彷徨う鎧……あの噂は本当だったんだ」
「お、おい、どうしたらいいんだよ……」
白骨化した騎士たちが剣を静かに構えると、その間を縫って、青白い顔をした女騎士が前に出た。
その女騎士の手には、剣が握られていた。
「――――我れらが安らぎの地を荒らした者、何人も許すべからず。我らが悲しみ、怒り、憎しみをその身で受け、死をもって償うべし」
その気迫におびえた盗賊の一人が恐怖にしりもちをついた。
女騎士が剣を静かに構え、一歩前に出た瞬間、盗賊たちは武器を捨てて、逃げようと城門へと走る。
だが、 開いていた門が突然、勢いよく閉まった。
盗賊たちは城門に殺到し身体で押したり叩いたりしたが頑丈な城門はびくともせず、閉ざされたまま。
それをあざ笑うかのように白骨化した騎士たちが剣を構えながら一歩、また一歩と近づいてくる。
まるで、獲物を角地に追い詰めていくかのように。
一団の中心に立つ女騎士が静かに告げる。
「ライトメリッツ王国に足を踏み入れた者、生きては帰さぬ。道は閉じた。汝らの行く末は死あるのみ」
その言葉を合図に白骨化した騎士たちが一斉に剣を構えてゆっくりと近づきひとり、ひとり確実に盗賊たちを仕留めていく。
城門前の広場一方的な殺戮の嵐だった。
命乞いをする間もなく、鉄仮面から覗く青い瞳に睨まれただけで盗賊たちは心臓を貫かれ、身体を両断される。
城門前の広場は血の海と化しその中で最後の一人が壁に背中を預けてずるずると崩れ落ちた。
「た、助けて……殺さないでくれ……お願いだ……なんでもする……頼む……ご慈悲を……」
命乞いをする盗賊に女騎士は冷たい眼差しを向け、剣を振り上げる。
月明りに照らされた女騎士は真っ白な白銀色の長髪、青い瞳。氷のように冷たく、そして美しかった。
盗賊の男は女騎士が剣を振り落とすのを見た瞬間、悲鳴をあげた。
「やめてくれぇえええッ―――――――」