時は進み、物語はまた新たな舞台へと移ろうとしていた。日本が西洋文化を取り入れ、急速に変化していく明治時代。この時代、戦国の激動を経て生まれた数々の人物が、それぞれの立場で新たな力を得ようと動き始めていた。
その一方で、名古屋の街は戦国時代を生き抜いた大名・織田信長の影響が今も色濃く残っていた。街の喧騒の中で、物語の登場人物、三行(さんぎょう)と沙姫(さき)は、今後の運命に翻弄されることとなる。
三行は、かつて織田信長の家臣として名を馳せたが、信長の没後はその影響力を失い、細々と商売をして生計を立てていた。だが、時折彼の過去の名声や織田家に対する忠誠心が彼を動かし、平穏な日常を壊す瞬間が訪れることとなる。
一方、沙姫は、信長の下で軍事政策に従事する女性たちの支援をしている立場であった。彼女は軍事的な指導者としての資質を持ちながらも、信長の治世における冷徹な方針に反発し、裏で動く一族の思惑に巻き込まれていた。彼女の立場は複雑であり、愛と支配の間で揺れ動く感情が彼女を悩ませることとなる。
ある日のこと、三行は街の中心にある商館で、長年の友人であり商売仲間でもある人物と話していた。その商館は、織田家と繋がりがあり、政治的にも重要な役割を果たす場所だった。三行はそこに足を運ぶことで、過去の繋がりを感じ、やり過ごすことができていた。
「三行、久しぶりだな。」友人が口を開く。「お前も知っての通り、今、信長の家族や部下たちの間で力の争いが激しくなっている。お前はもう退いてると思ってたが、まだ何か動きがあるのか?」
三行は黙って耳を傾けた。その目には、かつての情熱がわずかに戻る気配があった。
「俺が動くことで、何か変わるとは思えない。だが、あの男が動いている限り、無視するわけにもいかん。」
友人は微笑んだが、その表情にはどこか計算された陰があった。
「お前はもう、誰かのために動くつもりか?」友人は問いかけた。「それとも、自己の力を取り戻すために動くのか?」
三行は黙り込んだ。その言葉に答える代わりに、彼は深い息をつき、目を伏せる。
「どうせ、何かの力に引き寄せられる運命だろうな。」
その瞬間、商館の扉が開き、外から一人の女性が入ってきた。沙姫だった。彼女の目は鋭く、まるで何かを探し求めるように周囲を見回していた。
「沙姫か。」三行がその姿に気づき、立ち上がった。
「三行。」沙姫は無言で三行を見つめた。その目には怒りと焦燥が交錯していた。
「話がある。」
その一言で、三行は彼女に近づく。
「何だ、沙姫。何か急ぎの用か?」
沙姫は一瞬ためらったが、やがて口を開く。
「信長の後を継ぐ者たちが、ますます冷酷になってきている。私はもう、あの政権に関わりたくない。しかし、私を裏切ることはできない。どうすればいいのか、分からなくなってきた。」
三行は沙姫の言葉に深く共感を覚え、しばらく黙って彼女を見つめた。彼女の心の中には、信長という存在への忠誠と、彼に支配された世界への反発が共存していた。三行もまた、そのような葛藤を抱えていた。
「お前は、もう自分の道を選ぶべきだ。」三行はつぶやいた。「信長の家が崩れ去ることは、時間の問題だ。だが、その時に誰が残るかは、もう自分次第だ。」
沙姫は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに黙って頷いた。
「分かっている。でも、何をどうすれば良いのか、もう分からない。」
三行は彼女に近づき、静かな声で言った。
「お前が選ぶべき道は、信長の遺産を引き継ぐか、全く新しい道を歩むかだ。そのどちらかだ。しかし、どちらを選ぶにしても、覚悟を決めなければならない。」
その言葉に、沙姫はしばらく沈黙を守った。彼女の心の中では、何かが大きく揺れていた。彼女はすでに、信長の支配する世界に自分の足を踏み入れることができなくなっていた。しかし、それを捨てることもできない自分をどうすべきか、迷っていた。
三行はその葛藤を見守りながら、再び口を開いた。
「お前の決断が、俺の未来にも影響を与えることになるだろう。だが、どうしても自分の道を選びたいのであれば、信長の影響から完全に離れ、他の方法を考えなければならない。」
沙姫はその言葉を聞き、顔を上げて三行を見つめた。その目には、かすかな決意が浮かんでいた。
「私は、信長の力を手に入れるつもりはない。でも、このまま何もせずに終わることはできない。」
その言葉に、三行は静かに頷いた。
「そうだな。お前が選ぶべき道は、誰にも左右されることなく、自分の力で切り開くしかない。」
沙姫はしばらく黙って考え込んでいたが、やがてゆっくりと立ち上がり、三行に向かって歩き出した。
「決めた。」沙姫は静かな声で言った。「私は、今のこの世界を変えるために、何かを始める。」
その決意を胸に、沙姫は商館を後にし、三行は彼女を見送りながら、心の中でその言葉を繰り返した。
「愛と支配。この二つの力が、今ここで交錯し、時代を動かす。」
第4章「愛と支配」終