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※鉄の羽根、壊れた石版
※鉄の羽根、壊れた石版
乾為天女
歴史・時代日本歴史
2025年01月24日
公開日
4.1万字
連載中
第1章「光の中で踊る」
時は奈良時代。村の長老が語る伝説に魅了された青年・優斗は、「鉄の羽根」に関する伝説を追い求める。しかし、手に入れた「壊れた石版」には、古代の神秘が刻まれており、その解読が試練となる。優斗は旅を始め、石版に隠された秘密を追い求める中で、仏教や奈良時代の文化と深く関わることになる。

第2章「知らない家族写真」
時は明治時代。女性・有美は、ある日届いた不思議な家族写真に驚愕する。その写真には洋装をした見知らぬ人物が写っており、有美はその人物の正体を突き止めるために調査を始める。調査を進める中で、「鉛筆ケース」に隠された秘密にたどり着き、次第に「鉄の羽根」との関わりが明らかになっていく。

第3章「波打ち際で光る壊れた石版」
有美の調査が進む中、彼女は「鉄の羽根」の伝説が現代へと繋がっていることに気づく。優斗の時代と有美の時代が交錯し、壊れた石版が再び光を放つ瞬間、物語は重要な転機を迎える。過去と現在が重なり合い、運命が動き出す。

第4章「愛と支配」
織田信長の時代に舞台が移り、信長の軍事計画に巻き込まれた三行と沙姫の関係が深まる。信長の治世下で、「鉄の羽根」にまつわる禁忌の伝説が明らかになり、沙姫は信長の軍事政策に利用される女性たちを支援する立場に立つ。二人の心の葛藤と関係が物語に新たな陰影をもたらす。

第5章「鉄の羽根」
優斗と有美、そして三行と沙姫の行動が交錯し、ついに「鉄の羽根」の秘密が明らかになる。壊れた石版が示す場所に到達した彼らを待っていたのは、壮絶な秘密だった。時代を超えた運命の真実が、ついに解き明かされる。

第6章「入滅」
鉄の羽根の謎が解明されるが、それに伴い、優斗たちは奈良時代の仏教にまつわる禁忌や「入滅」の儀式に関わっていたことを知る。有美は再び調査を行い、過去と現在が繋がる悲劇が浮かび上がる。物語は深い宗教的背景とともに、過去の出来事が現在に与える影響を描いていく。

第7章「光の中で踊る(再び)」
全ての伏線が回収され、鉄の羽根と壊れた石版の真の意味が解き明かされる。優斗、有美、三行、沙姫がそれぞれの過去を受け入れ、未来へと歩み出す。別れと再会が絡む中、波打ち際で踊る光の中に、物語のすべての謎が象徴的に描かれる。

第1話 「光の中で踊る」

奈良時代。薄曇りの空が広がる村の端に立つ古びた寺院は、周囲の木々と一体化するように静かに佇んでいた。風に揺れる木々の葉が、陽の光を反射させ、その明かりが地面に踊るように映し出されている。寺院の近くに住む優斗は、まだ若干十七歳ながらも、村の長老から伝説を聞きながら成長してきた少年だった。彼は、年の割にはしっかりとした目を持ち、村の人々からも信頼されていた。

その日、長老が語った話はいつものように、神秘的で奇妙なものだった。

「この地には、昔から伝わるものがある。それは“壊れた石版”だ。」

長老の声が低く、耳に響くように聞こえる。優斗は、昔から聞いていた話の内容を思い出しながらも、その話に引き込まれていく。

「その石版には、“鉄の羽根”の伝説が刻まれておる。その羽根は、古の時代、神々が降り立つときに使われたと言われており、その力を持つ者は、すべてを支配する力を手に入れるとされている。」

優斗は、長老の目をじっと見つめながら、その言葉を噛みしめる。彼の心の中には、すでに一つの決意が固まっていた。何としてでも、その「壊れた石版」を見つけ、その謎を解き明かしたいという思いが強くなった。

「長老、その石版はどこにあるのですか?」

優斗の問いに、長老はしばらく沈黙し、やがてゆっくりと答える。

「それは、お前が探し出さねばならん。だが、注意するがよい。石版の場所に辿り着く者は、どんな者でも一度は試練を受ける。その試練を乗り越えなければ、石版を手にすることはできぬ。」

優斗は、心の中でその試練を乗り越える覚悟を決めた。彼の顔に浮かぶ決意の表情を見て、長老は微かに頷く。

「覚悟を持って進みなさい。だが、覚えておけ。真実に触れる者は、その代償を支払うことになる。」

その言葉を胸に、優斗は村の外へと足を踏み出す。長老の言葉に込められた意味を理解するには、まだ時間がかかるだろう。しかし、優斗はすでにその道を歩き始めていた。


その日の夕方、優斗は村の外れにある古びた神社に足を運ぶことを決意する。この神社は、長老から何度も話を聞いた場所であり、石版の秘密に繋がる手がかりが隠されていると言われていた。

神社の境内は、薄暗く静まり返っていた。人々の足音はなく、ただ風の音と、木々の葉のさざめきだけが響いていた。優斗は神社の奥にある小さな祠に向かって歩き、その扉を開ける。

扉の向こうには、何もないように見える。しかし、優斗の目が何かに引き寄せられるように、祠の隅に置かれた古びた石版が目に留まる。優斗はその石版に手を伸ばし、慎重にその表面をなぞった。

「これが……」

石版の表面には、長老が語った「鉄の羽根」の文字が刻まれていた。しかし、その文字はあまりにも古く、はっきりと読むことができない。優斗は、そこに刻まれた形や模様が何か意味を持つのだろうと感じた。

優斗がその石版を手に取ると、突然、周囲の空気が変わった。温かい風が吹き抜け、石版がわずかに震えたかと思うと、まるで何かが目覚めたように、薄暗い空間が一瞬だけ明るくなった。

「これは……」

優斗は驚きと共にその光景に見入る。その瞬間、石版の表面に浮かび上がったのは、まるで生きているような光の模様だった。それは、まるで天から降りてきた羽根のように、優斗の目の前で揺れ動きながら、次第に姿を変えていった。

「鉄の羽根……」

優斗の心臓が高鳴る。石版に刻まれた模様が、彼に何かを伝えようとしているのは明らかだった。しかし、その意味が何であるのか、優斗にはわからなかった。だが、彼の直感は感じ取っていた。この石版が示す道を辿ることで、何か大きな真実に近づくことができるのだろうと。

その時、彼の耳に微かな声が聞こえた。

「その先に進む者は、もう引き返せぬ。」

優斗はその声に驚き、足を止める。だが、その声はただの風の音に過ぎないのか、それとも……?


優斗は一瞬、足を止めてその声の正体を探ろうとしたが、周囲には何も異常は感じられなかった。ただ風が神社の木々を揺らし、静けさが戻るばかりだった。しかし、彼の胸の中には、先ほどの言葉が深く残り、無視することができなかった。

「引き返せぬ……」

優斗はその言葉の意味を考えた。それが警告なのか、あるいは運命の導きなのか。だが一つ確信していることがあった。それは、この石版を手にした以上、もう元には戻れないということだ。彼の中で、何かが確かに動き始めていた。

しばらくその場に立ち尽くし、優斗は深呼吸をしてから、再び石版を手に取った。手のひらで感じるその冷たさは、逆に彼の覚悟を強くさせた。彼はそのまま石版を抱え、祠を後にして歩き出す。

月明かりが照らす道を歩きながら、優斗は自分の足元を見つめた。その道はあまりにも静かで、どこか不安を感じさせる。しかし、彼の心の中には、一歩一歩進むたびに何かが動き始める予感があった。

村に戻ると、すでに夜が深くなり、家々の窓から漏れる灯りがわずかに揺れているだけだった。優斗は家に帰ることなく、村の外れにある小高い丘に向かった。そこからは村全体が見渡せ、月明かりに照らされた屋根の上に小さな光が点々と見える。

丘にたどり着くと、優斗は石版を手に持ちながら、しばらくその景色を眺めた。彼の心は穏やかである一方、胸の奥では何かが押し寄せるような気配を感じていた。それは期待でもあり、恐れでもあった。

「壊れた石版…『鉄の羽根』」

優斗はもう一度、口に出してその言葉を呟いた。何かの合図のように、その言葉が彼の胸を熱くさせた。そして、石版を少し強く握りしめる。すると、その瞬間、再び石版が震えるような感覚が伝わってきた。

「光が…」

優斗の目の前に、月の光が急に強く照り始め、まるで石版が何かを呼び覚ましたかのように、その周囲が照らされる。石版の表面に浮かび上がった模様が今度は、まるで生き物のように蠢く様子を見せていた。それがゆっくりと彼の目の前で動き、次第に何かの形を成していく。

その形は、羽根のようなものだった。だがそれはただの羽根ではない。優斗はその模様をじっと見つめるうちに、次第にその意味が少しずつわかってきた。それは、羽根そのものというよりも、その羽根を持つ存在が示されているような気がした。

「これが…鉄の羽根?」

優斗の声はほとんど呟きに近かったが、その言葉が空気を震わせたように感じられた。すると、石版から一筋の光が漏れ、彼の手に伝わってくる。その光は、優斗の体を包み込むように広がり、彼はその温かさに驚きながらも、心のどこかでそれを歓迎している自分がいた。

だがその光の中で、優斗はふと気づく。何かが、この光に触れた瞬間に変わったような気がするのだ。それは視覚的な変化ではない。ただ、彼の心の奥底で、何かの扉が開かれたような気配がした。

「何かが、始まる。」

優斗はその言葉を口に出すことはなかったが、心の中ではそれが確信となっていた。そしてその瞬間、ふいに背後から何かの音が聞こえた。

「誰か、いるのか?」

優斗は背後に振り返り、誰かがいるのかと気を張った。しかし、そこには何も見当たらない。風がその場を通り過ぎ、月明かりに照らされた草木がゆっくりと揺れているだけだった。

「気のせいか…」

優斗は再び前を向き、石版を手にしたまま丘の上で立ち続けた。彼の心には不安と期待が入り混じっていたが、同時にこの道を進むしかないという強い決意が固まっていた。

その後、月は高く昇り、優斗はゆっくりと足を踏み出した。まだその先に待っているものが何であれ、彼の心はもう揺らぐことはなかった。


優斗がその丘を降り、村へ戻る道を歩いていると、心の中で何かが重くなっていくのを感じた。明確に何かが迫っているという感覚に、背筋を伸ばしながらも、彼はその不安を必死に押し込めようとした。村の小道に足を踏み入れると、月明かりが木々の隙間から差し込み、周囲の影が伸びたり縮んだりしている。誰もいない夜の村は、まるで時が止まってしまったかのように静寂に包まれていた。

優斗はふと足を止め、あたりを見渡す。いつもなら賑わっていた村の夜も、今は無人のように感じられた。それは、村の人々がすでに眠りについたせいだろうか。それとも、何かが異常をきたし、まだその事実を知らないだけなのだろうか。

その時、彼の目にひとつの影が映った。それは、先ほどまで無人だったはずの村の広場の奥、寺院の前に立つ人影だった。

優斗は足を止めてその影を凝視する。だが、すぐにその人物の姿はぼやけ、霧のように消えていく。驚き、そして疑念が彼の胸を締めつける。やはり、石版が放った光が何かを呼び起こしたのだろうか。

「誰か…いたのか?」

声に出すと、空気が一瞬ピリッと張りつめたが、誰の反応もない。ただ風の音が耳に届くばかりだった。優斗はゆっくりと歩き続け、無理にその不安を解消しようとしなかった。今、重要なのは石版に示された道を進むことだけだ。

やがて村の中心にある広場に辿り着いた。そこに立つ寺院は、古びた木の扉が重く閉ざされている。だが、その前に立っていたはずの人物は、今や姿を消している。優斗は一度立ち止まり、寺院の扉をじっと見つめた。

「何か…違和感がある。」

彼の心の中で、何かが膨らんでいくのを感じた。いつも通りなら、寺院の前で何かをしている者がいれば、声を掛け合うことが多かった。しかし今、ただ静けさだけが広がり、異様な静寂が圧し掛かってきている。優斗はその不安を感じながらも、寺院の扉に向かって足を踏み出した。

だが、石版の光が再び煌めき、彼の手に持つその重みが増していくのを感じた。優斗は扉を開ける前に、何度も手のひらで石版を撫で、その表面に触れる。

「これが本当に…“鉄の羽根”に繋がるものなのか?」

その問いかけに対する答えは、まだ見つからない。しかし、少なくともこの石版が示すものが何か、大きな謎の一部であることは確かだ。

優斗が扉を開けると、そこには長い廊下が続いていた。暗闇の中、かすかな灯りが遠くの方に見える。静けさの中で彼の歩く音が反響し、その音がやけに大きく感じられた。廊下の先に見える明かりに引き寄せられるように、優斗は一歩一歩を踏みしめて進んだ。

その途中、ふと気づいた。廊下の壁に、何かの文字が刻まれていることに。手のひらでその文字をなぞると、それはまた、「鉄の羽根」に関連するもののようだった。だが、それは優斗が知っている言葉ではなかった。古代の言葉に似ているが、どこか異なる部分もある。

優斗はその文字をもう一度しっかりと見つめ、心の中で解読しようとする。しかし、何度考えてもその意味を完全には理解できない。だが一つ、感じ取ったことがあった。それは、この廊下に隠された謎が、今まさに自分の手の中にあるということだ。

「少しずつ…」

優斗はその文字の解読を諦めることなく続け、さらに進む。照明が見えてきた先に、突き当たりの扉が見える。その扉には、明らかに人の手が触れた痕跡があることがわかる。

優斗はその扉に近づくと、手をかけた瞬間に、扉がゆっくりと開く音が響いた。中から見えるのは、古びた祭壇と、何か大きな石の塊が中央に置かれている。祭壇の周りには、数多くの巻物や道具が散らばっていた。

その場に立った瞬間、優斗の体に冷たい風が吹きつけ、目の前の石が微かに震えた。

「これが…」

その石には、古代の紋様が刻まれていた。それこそが、彼が探し求めていた「鉄の羽根」に繋がる鍵だったのだろうか。

優斗はその石をじっと見つめ、手を伸ばす。その瞬間、祭壇の灯りが一斉に消え、暗闇が彼を包み込むように広がった。


第1章終



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