「では、私がいない間の出来事をお聞かせいただけますか」
スカーレット不在の期間は2週間ほどだった。
細々とした出来事は色々あったが、一番重要なのはカイリシャの襲撃だろう。
「一番大きな出来事は、カイリシャの襲撃を受けたことかしら。城壁の修復が順調に進んでいたので被害はあまりなかったわ」
「スカーレット様、聞いてください。陛下がカイリシャを言い負かしたのですよ。その結果、敵側に動揺が生まれたことで形勢が大きく変わったのです」
リナリスは本当によくしゃべる。
魔人族は無口だと聞いていたけど、彼女には当てはまらないようだ。
「一番の勝因は次兄のレオン兄様が生きていて救援に駆けつけてくれたことだと思うわよ。そういえば、リナリス。兄様は呼んでくれた?」
「はい。レオン様は任務が終わり次第参られるとのことです」
私はスカーレットの方を見た。
兄様が生きていたことを知れば、彼女も驚くと思ったからだ。
しかし、彼女の表情は全く変わらない。
「レオン様の話は存じております。さっき、門のところで会いましたから。相変わらず素敵な方ですね」
「……。既に知っているなら話は早いわね……兄様にはゾルガリスと共に騎士団を任せたわ。これで戦力不足も多少は解決できたわね」
「えっ、ゾルガリス殿もご無事だったのですか。それは心強いですね」
知らないかなと思えば知っているし、知っているかと思っていたら知らない。
スカーレットは無表情だから、驚かせるのはなかなか難しい気がする。
そのとき、兄様が部屋に入ってきた。
「スカーレット、待たせてスマンな。今度ゆっくりお茶でもしようぜ」
あ、そうだった。
久しぶりで忘れていたけど、兄様はこういう軽い人だった。
これさえなければ、本当に素敵な人なのに。
「それでは、グロリア陛下と2人でお邪魔させていただきますね」
やんわりと躱すスカーレット。
兄様が渋い顔をしているので、思わず笑ってしまった。
「ところで、ベルモント殿は何故そんなに離れたところに座っているんだ?スカーレットの隣に座ればいいじゃないか」
「その……半径1m以内に近づいたら額を撃ち抜かれるらしいので……」
「ベルモント殿は優秀な人物だそうですが、女癖の悪さでいえばレオン様以上みたいです。陛下も気をつけてくださいね」
スカーレットが吐き捨てるように言うと、今度はベルモントが渋い顔をする。
果たしてスカーレットを口説き落とせる男は現れるのだろうか……。
「私からも報告よろしいでしょうか」
さっきから、話したくてウズウズしていたリナリスがようやく口を開いた。
「リナリスには陛下の魔法訓練をお願いしていましたね。ちゃんとサボらずに訓練していましたか?」
サボるだなんて……。
まあ、ルナティカにいたときは、ずいぶんとサボったものだけども。
「陛下はしっかり励んでいました。私がみたところ、土属性に若干適正があるようですが、他の属性はちょっと……。でも、魔力はそれなりの量があるので違和感があるのです」
「やはりそうですか、私も不思議に思っていたのです。私も全属性に適正があまりない分、無属性が得意な特殊体質なので、陛下も特殊体質のような気がしていたのです」
そう。スカーレットの魔法はちょっと変わっている。
見たこともないような魔法を使いこなすのに、普通に使われるような魔法は全然使えない。
彼女は属性魔法が苦手という問題に対し、自分に合う魔法を開発することで克服したのだ。
「あの、ちょっといいですか。光属性ということはないですか?人間界だと普通に使われるのですが、魔界では珍しいと聞いていますから見落としているのではと思いまして」
ベルモントがまさかの発言をした。
いやいや、光属性なんて……。
「光属性!」
「光属性!」
スカーレットとリナリスが同時に大声をあげた。
「ベルモント殿の言うとおりね。早速、光魔法の適正を調べてみましょう」
えっ、まさか本当に光属性だったりするのかしら?